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2  牙ウサギ、おかわり

 逃げていた子たちも戻ってきて、七人全員が集合した。


「……すげえな、お前。外に出るのも初めてのくせに……」

「まあね」


 ウサギの頭から棒を引き抜くと、色々な液体が垂れてきた。


「うわ……」

「お肉だー」


 すでに肉扱いしてるチランジアちゃん、切り替え良すぎて怖い。


「これどうするの? 売ったりもできそうだけど」

「刃物がないから、血抜きとかできないし、うちで食べるんでいいんじゃないかな」


 血生臭くなるだろうから、あまり味は期待できないだろう。


「そっか」

「お肉だー」

「……とりあえず、帰ろっか。先頭は私が歩くからゆっくり行こう。誰か、このウサギ持ってて」


 警戒するためにフードの帽子は取ったままにして、さっきのウサギに突き刺した棒も一応持って行く。


 フード付きの外套は、獣人の村を見に来ないかと孤児院に誘いにきた狩人から、少し前にもらった物だ。

 出かける時は羽織ると春の初めにちょうどいい暖かさだったが、激しく動いた今は少々暑い。


「やれやれ、今日はただの下見だったのにな」


 グラクティブが息を吐いた。

 十二才で卒業になるこの孤児院では最年長で、八才になったばかりのわたしより三つ上だ。


 初めて町から出るわたしとチランジアのために、今日は採集場所の下見を兼ねた道案内をしてくれる予定だった。

 はぐれても帰れるように最初に覚えさせておけ、と代々先輩から言われ続けているそうだ。

 

「止まって。またいる」

「またなの」


 わたしの警告に、げんなりとした顔をしたみんなが口々にぼやく。


「それで、どこだ?」

「あの辺だね」

「遠っ、よく分かるなお前」


 わたしが指差した(やぶ)を見て、同い年の男の子が声を上げた。

 まあ、気持ちは分かる。

 自分でも、自分の体の感覚の鋭さに驚いているくらいだ。


「うーん……面倒だから倒してくる」

「え?」

「いやいやいや、ちょっと待て」

「お肉追加?」

「木の上で待ってて。チア、上着お願いね」


 一方的に宣言して、お肉星人チランジアに脱いだローブを押し付けると、森側から回り込む。


 さっき戦ったので、もう分かった。

 こいつらの動きは見える。

 今のわたしでも、問題なく倒せるはずだ。


 ある程度近づくと、その姿が目に入った。やはり牙ウサギだ。

 深呼吸すると風下に回り、後ろ側からさらに慎重に回り込む。


 さっきの個体よりも二回りほど小さい。

 前世のりえが知っている普通のウサギサイズだ。


 若いから警戒が薄いのかな。

 後ろから近づくと、そのまま一匹目と同様に目を狙った。


 後ろからだったので、角度が悪くて枝は頭まで達していない。片目を破壊しただけだ。


 素直に殴ればよかった。


 牙ウサギが汚い悲鳴をあげながら、前方に跳ねて道まで飛び出した。

 そのまま逃げるかと思ったら、こちらを振り向いて威嚇してくる。


 おっと、距離を開けて仕切りなおしたと思ったのかな。

 逃がすつもりはないよ。


 その体に、思い切り枝を振り下ろした。




「終わったよ」


 ちゃんと木に登っていたみんなが下りてきた。


 後ろ足をつかんでぶら下げている牙ウサギは、口から血を垂らして痙攣している。わりとグロい。


「すげーな、お前」

「獣人ぱわー。このウサギ誰かお願い。チア、上着もういいよ」

「まだ出るかもしれないから、もっとこうか?」

「そう? じゃあ、お願い」


 その後は何事もなく、町の門までたどりついた。

 冒険者くらいしか使わない北の門は、他の門と比べて小さい。


 チランジアに返してもらったローブを羽織る。

 これから町中を歩くので、念のためにわたしの目立つ銀色のイヌ耳ともふもふ尻尾を隠しておくのだ。


 残念ながら、ローブのおかげで直接は見えないけれど、尻尾があること自体はお尻の膨らみで一目瞭然だ。


 獣人の立場は、この国において人族より一段下になる。

 それでも、この国はあからさまではないだけまだマシで、付近の国と比べると獣人は多いそうだ。


 二人の門番が出迎えてくれた。

 ずっと緊張状態だったみんなが、ようやく息をつく。

 いつもの何倍も疲れているだろうことは想像に難くない。


 一人がチアのぶら下げた牙ウサギを見て感心した調子で話しかけてくる。


「罠でも仕掛けてたのか? やるじゃないか」

「ううん、棒で殴った」

「ええ……」


 話しかけてきた門番から困惑した声が漏れた。

 もう一人の門番が少し硬い声でグラクティブにたずねる。


「お前ら、森の奥に入ったのか?」

「いや、道沿いだけだよ。いつもの所しか回ってないし」

「何? ……それはちょっとおかしいな」

「危なかったよ。ロロのおかげでなんとか助かったけど」


 グラクティブが頭に手をのせてフードの上からぐりぐりと撫でてきた。

 耳が引っ張られるからやめて欲しい。


「嬢ちゃん、仕留めたのはたいしたもんだが……危ないことはできるだけやめときな。一晩も戻って来なければ、話が回ってきて誰かが探しに行くから。木の上にでも隠れていればいいんだぞ」


「おっちゃん優しい」

「お兄さん、な」


 彼らは門から出る時もさして気にした様子がなかった。

 冒険者には一定数いるので、獣人を見慣れているのかもしれない。

 特に偏見もないようで、これからもここの門はたびたび使うだろうからありがたい。


 孤児院に帰ると、早速ウサギを両手にぶら下げたチランジアが奥へと走っていった。

 続いて、厨房から女性のかわいい悲鳴が聞こえてくる。


 よく孤児院の手伝いに来てくれるクロカータさんだ。

 今日も濃いブラウンの髪を後ろに一つでまとめている。


「肉だよー」

「いえいえいえいえ、そんなの出されても、私解体なんてしたことないですから。院長先生にお願いしましょうよ」


 クロカータさんは、肉は肉屋で買う派だったようだ。


「わたしがやるよ」


 可能なら、牙ウサギの魔石を回収しておきたいので、率先して手をあげる。


「あ、ロロちゃんもおかえり。ロロちゃん、解体なんてできるの?」

「わたし獣人だよ。もちろんできるよ。逆になんでできないと思うのか不思議だよ」 


 ほらは堂々と吹くのが大事だ。


 クロカータさんは、言われてみればそういうものだったかしら、というような顔をしていた。


 できるのは、田舎育ちだった前世の御袖宮りえができたからだ。

 祖父が罠猟をやっていて、猪や鹿などの解体をちょくちょく手伝わされていた。

 四足の動物はサイズが違うだけで、解体手順は基本的に同じはずだ。多分。


 魔石は、魔物の体内にあって、食べた物や周囲から魔力を吸収して育つ、ざっくり言うと魔力の結晶だ。


 解体を引き受けたわたしは、無事に魔石二つを手に入れた。

 本体サイズと同じで、小さなものだけど。


 晩御飯にはスープに肉が少し入りました。

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