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198  騎士団長と北部辺境伯の戦い

 屋敷のことはおりんとストラミネアに任せて、チアと一緒に日国へ向かった。


 稲の出元である天狐のところまで行くつもりだったのだけど、最初に立ち寄った黒狐のところで原因はあっさりわかってしまった。

 せっかく日国まで行ったので他の稲荷たちのところにも一応立ち寄りはしたのだが、推測からほぼ確信へ変わったくらいだった。

 こちらからは農具を色々渡して広めるのについては核稲荷にお任せし、最後に暖かいうちにすき込みをするよう伝えておいた。


「おかえりなさい」

「ただいまー」

「おりんちゃん、おやつー」

「はいはい。それで、どうでした?」

「向こうも豊作だったね。で、一応がつくけど原因はわかったよ」


 ソファに腰を下ろして、おりんに差し出されたお茶をもらった。

 横ではチアがクッキーをもぐもぐしている。


「地脈の周辺って、そこに住んでる者の影響を受けて環境が変化しやすいんだよね」


 正確には願いの結晶と言うべきマナが意志あるものの願いに反応して、環境を変化させるわけだが。


「地脈からそう遠くない場所に、地脈への影響力が一番大きい管理者のわたしが豊作になーれって稲植えちゃったってわけ」

「ああ、なるほど。それで作物に変化が起きたってことですか」


 地脈の主は調和を保つことを常に意識しないといけない、と山の神である黒狐が言っていた。


 そういう意味では雑念の多いわたしより大地神の遣いであるケリュネイアはもちろん、ただここを守る、とひたすら突っ立っていただけのスケルトンモグラの方がまだ適性があることになる。


「そうそう、日国から帰ってきたら来てほしいと蜘蛛神様が言っていましたよ」

「蜘蛛神が……じゃあ、ちょっと行ってくるよ」


 向かいの敷地ではドレス店が開店準備中だ。


 ガラス張りのショーウィンドウでは等身大のマネキンがサテンのドレスをまとってポーズを決めている。

 もっとも敷地内に入らないと見えないので、物珍しさで人が集まっているなどということはない。


 ドレス店とわかりやすいようわたしが作ったのだが、初めて見る手法だとパントスがやたら興奮していた。

 店の前に武器を展示する鍛冶屋と大差ないだろうと思うのだけど。

 

「蜘蛛神様、どうかしました?」


 すすす、とお店の壁にあるステップを歩いて蜘蛛神様が現れた。

 来店者から見られないようにしつつ着用者を観察できるよう、蜘蛛神用に作ったものだ。


 蜘蛛神以外にも小さな気配があちこちで大量に動き回っている。

 蜘蛛神がここにいるため勝手に蜘蛛が集まってきてしまっているのだ。

 仕方ないので、姿を見せなければ居てもいいと許可している。


「この小さい姿のままでは、服を作るのがやりにくいのです」


 蜘蛛が落ち着いたアルトで流暢に大陸語を発した。

 実際に声帯でしゃべっているわけではないが、しゃべっているようにしか見えない。


「大きい体にすると必要な魔力量が増えますよ。報酬の魔石だけだと召喚状態を維持できなくなるし、お客が来るたびに召喚しなおすわけにもいかないし」

「必要ない時は休眠してしまえば、魔力消費は抑えられますから」


 ああ、そういう手もあるのか。


 ここまで完全な常時召喚は今までやったことがないので、わたしも未知の世界だ。


「それなら、試してみましょうか。姿形の希望はあります?」

「窓越しにでも、相手とお話できるといいかなと思いますので、上半身は人型がいいですね」

「じゃあ、等身大の半人半蜘蛛(アラクネ)型ですか……あとで作ってみますね」

「はい、お願いします」


 人サイズの蜘蛛となると、見つかった時のことを考えるとなかなか怖いものがあるな。

 魔物扱いされちゃうだろうし。


 長いドレスを着せておけば、正面からくらいなら誤魔化せるかもしれないけど……。


「あ、ロロさんだ。こんにちはー」

「なにかありました?」


 イオナンタと共に、三姉妹が赤ちゃんたちを抱っこして現れた。


 最初は四人とも蜘蛛神を不気味がっていたし、どう応対すればいいのか困っていたがもうそういう素振りはない。

 完全に慣れたようだ。


「蜘蛛様、寝ちゃうんですか?」

「夜なんかの、みんなが寝てしまっている時ですよ。服を作る時は起きていますから」

「蜘蛛神が寝てたら、なんか困るの?」

「よく子供の悩みや愚痴なんかを聞いてもらってたり、話し相手になってもらっていましたから」

「私もたくさんの子供を育てた母親ですし、長く存在していますからね。あなたも聞いて欲しいことがあれば、いつでもいらっしゃい。言い忘れていましたが、できている服は奥にありますよ」


 蜘蛛が上品な声で答える。


 相談に乗ってくれる、おばあちゃん的な感じ……?


「はあ……わたしは今のところ大丈夫です。ありがとうございます」


 奥の部屋には色とりどりのドレスが並んでいた。


 早速チアと一緒に王城へ持って行き、王妃様に渡してもらうようお願いする。

 店を準備していることも伝言をお願いして、その帰りに第二騎士団の副団長であるレザルと出会った。


「レザルさん」


 レザルなら、魔剣の調査依頼を出してきた北方辺境伯のことを何か知っているかな。

 でも、ここで依頼のことを出すのは個人情報的によくないか。


「よう。この前魔剣を使って団長が試合をしたぜ。聞いたか?」

「ううん。知らないけど、誰と?」

「フィンフィールド北部辺境伯さ。騎士団長が勝った」


 向こうから話しかけてきたと思ったら、いきなりフィンフィールド辺境伯の名前が出てきた。


 魔剣を使ったアルドメトス騎士団長に負けたのか。

 なんだかわかりやすそうな構図が見えてきた。


「そうなんだ」

「その反応だと知らないみたいだな。北部辺境伯は、国内最強とも言われてる騎士なんだぜ」

「え、そうなの?」


 そんなすごい人だったのか。


「騎士団長との関係についても当然知らないよな?」

「うん、知らない」

「二人は学生時代からのライバルでな……」


 レザルによると、学生時代からの友人で二人は互いに勝ち負けを競い合う仲だった。


 ところがある日、二人は若さに任せて自分たちの実力を過信し無茶をした。

 辺境の山奥で魔物の巣から命からがら逃げだしたとき、アルドメトスはその片目を失った。


 片目を失っても弱くなどならない、すぐに追いついてやると何度もアルドメトスは辺境伯に勝負を挑んだが、結局一度も勝てないまま時間が過ぎ、辺境伯はやがてアルドメトスからの勝負を避けるようになった。

 アルドメトスが視界の狭さを補うまでの勘のよさを身に着けていくのは、そのあとのことだった。


 それ以来、結局二人の戦いが実現することは今までなかった。


 魔眼により失った目以上の力を手にし、更にモグラの魔剣を手に入れたアルドメトスは、ついに王城で久しぶりに再会したフィンフィールド辺境伯を強引に試合の場に引きずり出した。


 元々、互角以上に戦える強さをすでに手に入れていたアルドメトスだ。


 魔眼の力で辺境伯の技をすべて先読みし、それを退けてみせた。


 辺境伯はそれを見て間合いを開けた。

 彼の武器は、王国で一、二を争う剣の技量だけではない。

 優れた魔術師でもある辺境伯の真骨頂は、短縮詠唱から放たれる魔術を剣に併用して戦う中距離戦だ。


 しかし、それでも魔剣による遠距離攻撃術『飛鳥落とし』とモグラの力による地属性技を使えるようになったアルドメトスに分があった。

 戦いはそのままアルドメトスの勝利で幕を閉じた。


「どうしたスレイン、いつまで自分の方が強いつもりでいた?」

「偶然手に入れた拾い物の力で一度勝っただけでよく言う。負けのない勝負ばかりに飽きて、少し私の背中に追いつかせてやっただけだ。アルドメトス、貴様こそ数十回と私に負け越しているのを忘れたのか?」

「この百舌鳥(シュライク)の魔眼を使いこなしているのも、この土竜(どりゅう)の魔剣に持ち主と認めさせたのも含めて俺の実力だ。今までの負け分などすぐに取り戻してやるさ」

「残念だが、そうはならんな。昔、言ったことを覚えているか? フィンフィールド領に眠るとある魔剣の話だ」

「ああ、覚えているが、お前……」

「貴様が魔剣を持つというのなら、私も手に入れるだけだ。それと、今更だが貴様の眼帯はまったく似合ってなかった。色が違う目でも、今までよりはマシだと言っておく」

「……素直に俺の新しい目を祝えんのか、お前は。残念ながら、魔道具の眼帯で封じてないとたまに暴走するからまだ眼帯無しとはいかんのだがな」

「たった今使いこなしたと言わなかったか? 貴様は相変わらず適当なことばかり言うな」


 フィンフィールド北部辺境伯は仏頂面で、アルドメトス騎士団長は笑いながら、二人は握手を交わした。


「……ってな感じよ」


 よくわからないが、昔のわだかまりが一つ解けたということらしい。

 ついでに知らない間に、モグラの剣にそれっぽい名前が付けられていたようだ。


 偶然だけど、レザルからの話で状況はわかったな。

 依頼の内容は辺境伯領にある魔剣の捜索というわけだ。


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[一言] 誤字なのか違う稲荷が出たのかわかんねえな核稲荷
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