196 立ち入り許可
数日間マナの充電をしたあと、三人まとめてベヒモスに乗っかって村へ戻った。
ベヒモスは柵を障害物と認識してもないらしく、簡単に飛び越えて入ってしまった。
外れにあるファラたちの家の近くに着地して、そのままゆっくりと村の中心の方へ向かう。
「おかえりー」
「村の方は問題ないぞ」
「うお、でけぇな……。見たことない生き物だが、日国から連れてきていたのか?」
倉庫近くで脱穀をしている者、食事の準備をする者、それから武器を下げた冒険者たちもわらわらと集まってきた。
ベヒモスを連れて帰るなんて予定外の行動だったのに、みんなまったくの無警戒だ。
「驚かないのですね」
「精霊様から知らせがあり、聞いていましたから」
まだ村に着いたばかりで、冒険者たちは周辺の地形や柵の範囲も知らないし、交代の仕方や緊急時の動きなども決まっていない。
ストラミネアには念のために村の方をお願いしていた。
「そうでしたか。ストラミネア、ありがとうございます」
ストラミネアは飛んでいるので視界も広く、探知魔術も使える。先に気が付いていたのだろう。
どこにいるのかわからないストラミネアに声をかけると、ふわりと紫色をした半透明の精霊が空から降りてきた。
「集まっているのでちょうどいいですね。冒険者の方たちにお話があるのですが」
ベヒモスを同行させての採取を、実際に採ってきた甲羅や数種類の薬草類を見せながら説明する。
「地脈で採取、ね」
「こんな甲羅が簡単に拾えるのか……」
「しかし、ベヒモスとは大層な名前をつけたな」
予想していたけど、誰もベヒモスが本物の伝説的な魔獣だとは信じていないな。
サイズは大きいものの、チアに大人しくモフられているベヒモスは危険な生き物には見えない。
それを見た子供たちもやってきて、触ったり乗ったりしている。
「あれを護衛に、魔物だらけの中の採取か……」
「なんだか面白そうだし、私はやってもいいよ」
「あたしも行けるぜ。試しに乗ってみていいか? ほら、姐さんも」
「え、私も行くの?」
大半の冒険者が腰が引けている中でファラとシルカはあっさりオーケーしてくれた。
シルカがレフィを連れてベヒモスの方に歩いていく。
「いいけどよ、あいつに乗っていかないとだめなのか?」
ファラのパーティーメンバーであるセダムが少し困ったような顔でベヒモスを指した。
乗せてもらわなくても、ベヒモスが同行するだけで道中の安全は確保できる。
「別にかまわないですよ。ただ、乗ったほうが歩くより早いですけど」
「それならいいか。でも、俺たちは薬草は詳しくないぜ。あんたの持って帰った中には知らんのもあるし、俺らじゃこんなには持って帰れんが大丈夫かな」
「それなら、最初は俺も行って教えてやろうか? 俺はここにあるやつなら全部わかるぞ」
ディンさんがわたしの持ち帰った薬草類に改めて目を走らせた。
「かなり珍しいものもあるのですが、よくご存じですね」
「腕をケガで使えなかった間、少しでも代わりになるようなことをと色々手を出したんだ。まあ、そういうわけだから、扱い方なんかもついでに教えといてやるよ。冒険者なら知ってて損はないからな」
「助かる。俺たちは切った張ったばかりで、そういうのは正直苦手なんだ」
「二人とも、しっかり覚えといてよ」
ファラは二人に任せてまったく覚えるつもりがないようだ。
「匂いで見つけられるものもある。お前さんも少しは覚えておいた方がいいぞ」
「えっ」
当然、人族と比べると獣人のファラの方が圧倒的に鼻が利く。
ディンさんの言葉にセダムとヒントニーが笑って、ファラに背中を殴られていた。
「では、私たちは一度王都に帰ります。必要なものの手配をしておきますので、よろしくお願いしますね」
◇ ◇ ◇
「やっほー、ギルマスいますか?」
「あら、ロロちゃん。忙しくしてるみたいだけど、ギルドの仕事はまだ再開しないのかしら。あなたたちに貴族からの指名依頼もきてるんだけど」
「それなら早く用事を早く片付けないとだね。……ってことで、ギルマスいる?」
「いいけど、普通は気軽に呼べる相手じゃないのよ」
「ねえ、誰からの指名かな~」
受付嬢さんが呼んできて、奥の部屋で話をすることになった。
その間に指名依頼は代わりにおりんとチアに話を聞いておいてもらおう。
「それで、今度はなんだ?」
「サウレ盆地への立ち入り許可が欲しくて。表向きは調査目的で月一回くらいって感じでどう?」
「待て待て、順番に話してくれ」
ベヒモスを連れてのサウレ盆地での採取について説明する。
「ちゃんと報告書を回すし、ギルドも情報を得られるってメリットはあるでしょ?」
「たしかによくわからん禁足地のままよりはいいが、大丈夫だろうな……。自然の魔力だけで暮らせるって、魔力量は測ったのか? 実際の魔物の生活パターンなんかは? その辺の報告書をもらうまでは仮の許可がせいぜいだぞ」
筋肉マッチョマンのギルマスからは、意外にアカデミックな回答が返ってきた。
とりあえず仮の許可でも得られるなら十分だ。
「それなら大雑把にはわかるから、それでいいかな?」
こういう仕事は得意な方だ。むしろ、転生前ならこういったことも本業である。
「わかった。地脈の管理者とやらのお前のことを信用しておくぜ。回収した素材はまわしてもらえるのか?」
「そこはちょっと微妙なとこ」
「なんでだ?」
「簡単に言うと、村に商人を呼ぶエサに使いたいから」
「それなら仕方ねえか……。まあ、村がデカくなりゃ職員も送れるかもしれねえしな」
提案に意外に前向きだったギルマスのおかげで、話はスムーズに決まっていった。
「ギルマスなら、危ないかもしれんからダメだ、と言うかと思ってたよ」
「この前のベヒモスの件があっただろ。放置したままなのもどうかとは思っていた。……それに」
「それに?」
「断ってもどうせ国王のところに行って、許可させるだろ。あいつはあいつで、面白そうなものが見つかるかもしれんから許可してやれっていうのが目に見えるからな」
ギルマスが嘆息した。
ギルマスと国王が元々友人同士だというのもあるが、冒険者ギルドも国に属する組織ではないとはいえお互いに協力して運営しているわけで、一方的に無視はできない。
「よくわかってるじゃん」
「嬉しくねえ。俺は手続きを進めといてやるから、アーヴィンへはお前が言っといてくれ」
「ん、わかった」
おりんたちと合流してから王城へと向かう。
「国王に報告しとくことになったからそっちに行くよ。それで、指名依頼はなんだったの?」
「スレイン・フィンフィールド北部辺境伯から、魔剣の調査協力依頼でした」
「魔剣?」
知らない名前の貴族だ。
魔剣と言われて思いつくのはモグラの魔剣を手に入れたアルドメトス騎士団長だ。
それを見て羨ましくなった貴族が、そういえばわしの領地にもそれっぽいものが……みたいなところだろうか。
あれは特別製だし、すごい魔剣なんてものはそうそうないと思うけどね。
横を見るとチアがいなくなっていて、屋台でなにかを買っているところだった。




