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194  村を作る


 さて、いよいよ村への出発予定の日がやってきた。


 村といってもこれから作るわけで、まだ存在していないけどね。

 わたしが作っている最中ということになっているが、実際に作ったのは手抜きの水田だけである。


 もし先に行っちゃった人なんかがいたら、キツネに化かされたと思ってしまうところだ。


 朝早く、ロロナリエに魔法で姿を変え、おりんとチアと一緒に南門の外の集合場所に向かう。


 冒険者たちの朝は早い。

 すでにディンさんやレフィア、シリカなど冒険者の面々が集まっていた。


「早いですね。まだ出発の合図にした鐘の音が鳴るまで、しばらくありますよ」

「夜明けと共に起きる習慣がついてるからな。まあ置いていかれるよりはいいさ」

「それにしても、南門って結構賑わってるんですね。ここを使うのは冒険者が中心と聞いていたのですが」


 南門は王都から狩りに出かける冒険者たちが最も多く使う門だ。

 まだ街は眠っている時間だというのに、荷物を抱えた人たちが門の内外に大勢集まっている。

 さすがは王都ってところかな。


「いやいや、何言ってるんだ。ここにいる全員、お前さんの村に行く連中だろ」

「え?」


 たしかに周りをよく見てみれば、見覚えのある者が多い。


 ほぼ手ぶらなのは孤児院にいた冒険者志望の子たちだ。

 剣を履き荷物を背負った狩りに向かう冒険者だと思った者たちは、わたしが傷を治した人たちだった。

 他にもスラムで母親の肺炎を治した一家や、スラムにいた人たち、それにディンさんにシルカたちを加えるとすでに五十人を超える人数が集まっていた。


 てか、まだ出発までかなり時間あるんだけど……。

 これからまだ増えるよね。

 

 二十人くらいに、シリカやファラたち護衛冒険者を合わせて三十人くらいかなと思っていたんだけど、まさかこんなに集まるとは。


「さすがに驚きました」

「そうか? スラムの連中や治療していた連中の反応からしたら、これくらいは集まるだろうよ。むしろ、俺は気付いていなかったお前さんに驚いた」


 たいして集まらないだろうと、ついつい思い込んでしまっていたからな。


 出発の時間には更に増え、百人を超えていた。


「テスト移住どころか、もうすでに小さな村の規模になっちゃいましたね」


 おりんが苦笑する。


 今更追い返すわけにもいかない。

 なんとかなるだろう……というか、なんとかするしかないんだけど。


 それから、数日かけて村の予定地まで移動する。

 季節的に夜も寒くはない。

 野宿で困らない点は助かるね。


 そろそろ村の予定地が近くなってきた移動最終日、チアを連れて一足先にストラミネアのところへ向かった。


「戦えないんだから、無理しないでくださいにゃ」

「チアもいるし大丈夫だよ」


 魔石もマナもないので、今のわたしは魔術も魔法も使えないからね。

 逃げるしかない役立たずである。


 風精霊の力を使った靴で一気に移動した。


 えーっと、この辺だったと思うけど……。

 どこだっけ?


 ってか、なんであんな背の高い木が大量に生えてるんだろ。

 あんなのあったっけ……と、思っていたら、水中からニョキニョキと生えているのは探していた稲だった。

 よく実っている。豊作です。


 ……いや、おかしいよね。

 なんでうちの屋根より高いんだ?

 これ、もう樹じゃん。


「ストラミネアー?」

「ロロ様、チランジア様、早いお戻りで」

「ミネアちゃん、やほー」


 早いかな?

 半年近いんだけど。

 ……まあいいか。本人が早いと言うなら早いんだろう。


「お疲れ様。それより、この育ち過ぎの稲はなんなの? なにかあった?」

「いえ、特別何も。こういった種類の植物なのではないのですか?」

「……あれ? 稲荷神がこっそり来てたとか、ケリュネイアが来てたとかなかった? 何か変わったことがあってから突然伸び始めたとか……」

「いえ、ありません。暑くなってから多少成長が早くなっていたとは思います」


 それは普通の育ち方だな。


 本当にこういう種類だったんだろうか。

 日国で水田に植えられていたものとは確かに種類は違うんだけど。


 天狐にもらったのは水深の深いところに植える浮稲と呼ばれるようなタイプ……のはずで、水面から上に稲穂が顔を出すように育ってくれるものなので、水量に応じて茎はたしかに長く育つこともある。


 とはいえ、普通はこんなに高く、上空に向かって育ちはしない。


 ……よく倒れないな、これ。


 伸びて高くなり過ぎれば、茎が折れたり倒れてしまうのは考えるまでもない当たり前の話だ。

 しかも稲穂はこれでもかとばかりに実っていて、重そうなのだ。


 どんな丈夫な茎と根してるんだよ。

 ワイヤーでも入ってるのか。


 こういうものだとしたら、日国でももっと植えられてるはずだからやっぱりおかしい。

 考えてもわかりそうにないし、とりあえず今はスルーしておこう。


「……稲については今はいいや。それよりストラミネアが倒した魔物はいる? 魔石の補充がしたいんだけど」

「そう言われるだろうと思って魔石は取り出してあります」


 結構な数の魔物を倒したようだ。十分な数がある。

 これなら地脈まで行って充電しなくてもそのまま作業ができる。


「ありがと、助かる。早いうちに刈り取るね。代わりの冒険者もくるから、あともう少しだけお願い」

「お任せください。特別な注意点がなければ私がやっておきましょうか?」

「え? ああ、そうか」


 来年に向けて移住者たちにやってもらおうと思っていたけど、今回のは特殊すぎる。

 結構水深もあるし、やってもらうなら色々準備もいるしな。


 それなら、自分でわざわざやらないといけない理由はない。


「そうだね。お願い。えーっと、じゃあ適当な長さに切ってここに掛けといて」 


 言いながら、魔石の魔力を使って、稲架はさを作る。


「承知しました」

「ミネアちゃん、またねー」


 水田は平原との境目辺りにあるので、そこからできるだけ近い、地面のしっかりしたところを村の建設地とし、早速準備を始める。


 まずはざっと道を敷き、区画整理をしておこう。


 大地神の神殿と、隣に村の管理官用の屋敷も用意しておく。

 将来的には実質的な村の管理を手放すつもりなので、姫……の代理で誰かしらが派遣されてくることになるだろう。


 神殿は避難所も兼ねることになるので、頑丈で広めに。あとで地下も掘っておかないとな。

 基本は地属性魔術を使って作り、必要な部分は確保しておいた材木を元に植物神の魔法で仕上げていく。

 大地神の神像の横に、しれっと小さなわたしの像も置いておいた。


 自分たち用の家も神殿の近くに作っておくか。

 その方が自然だろう。


「ロロちゃん、ベッドは大きいの一個だよ」

「はいはい。これはお客さん用だよ」


 そろそろ一人で寝てくれてもいいんだぞ。

 本当にそうなったらなったで少しさみしいけど。


 あとで希望を聞きながら調整するとして、家族用や単身者用、グループ用、冒険者用などをざっと建てておく。


 共用のかまどや村を囲む堀と柵などまで作っていくと、段々とそれらしくなってきた。


 よしよし、こんなもんでいいだろう。

 飲み水の確保なんかは魔石を使った水道を使うとして、下水道の方は整備しないとな。


 そう考えると、あざらしスライムも持ってきておくべきだった。 

 また確保しておこう。


 各家庭用に水の魔石もいる。

 人数が想定外だったので、ストラミネアにもらった分だけじゃ、とてもないがまかないきれないな。


 燃料に関しては、回収した泥炭があるので匂いさえ我慢すればいくらでもある。


 必要なものを頭の中で数えながら休憩していると、移住者の本隊がやってきた。


「なんだ。堀に頑丈そうな柵まであって外側は立派なのに、中はスカスカじゃないの。ロロに準備してもらってたんじゃないの」

「広めに囲いましたし、まだまだ途中ですからね。あの子にはやってもらうことが色々多いんです。ざっと用意しておいた家は全部空いていますから、好きなところをどうぞ」


 あとからいくらでも変えれるし、どれも大差ないんだけどね。


 歩き詰めで疲れていたはずの移住者たちは、我先にとすぐに家を見に散らばっていった。


「ロロナリエ様、ちょっとストラミネアのところへ行ってきます」

「はい。みんなを連れてきてもらってありがとうございます」


 おりんもストラミネアに顔を見せに行った。


「みなさん、住居に必要なものなんかがあれば言ってくださいね」

「家の話じゃないが、見張り用のやぐらが欲しいわね」


 ファラたちは家にはあまり興味なさそうだ。

 冒険者として仕事で来ているからかな。


「それと、うちのパーティー用の家は外れがいい。建物は十分強そうだから……ドアも特別頑丈にしておいてもらえると助かる」


 獣人のファラが村外れにいれば、そちら側からモンスターが接近した場合いち早く気付いてもらえる。

 滞在中は冒険者として仕事に徹するつもりのようだ。


「魔物対策ですね。助かります」

「え? ああ、まあそれでもいいんだけど」

「他に何かあるんですか?」

「春を過ぎてもここにいたら、恋月期も来るでしょ?」

「……なるほど」


 ロマンチックに言うと獣人の恋の季節。平たく言うと発情期的なものである。

 その間、家にこもっているための対策の方か。


 村外れ希望なのは、あまり人が来ないようにとか目立たないようにとか、そっちの方だったようだ。


「それなら心配しなくても、恋月期をなくせるペンダントがありますよ。お譲りしましょう」

「へえ、すごいわね。でも私はいらないわ」

「いらないんですか?」

「こいつらがさみしがるから」


 横にいるパーティーメンバーの胸をファラが拳で軽く叩く。

 男二人がちょっとバツが悪そうに頭をかいた。


「え? ……ああ、そういうご関係でしたか」


 ただのパーティーメンバーかと思ったら、男女の関係だったようだ。


「お二人と付き合っていらっしゃるんですか?」

「別にいいじゃない。私、セダムもヒントニーもどっちも好きだもの」


 ファラはあっけらかんとしている。

 それでうまくいっているのなら、わたしが口出しすることでもない。


 二人から同時に告白されたりしたんだろうか。

 ジニーやフィフィはこういう話好きそうだな。


「一人だと身が持たない……」

「余計なコト言うんじゃないわよ」


 ファラが二人の頭をはたく。


 ……なんだか詳しく聞かない方がいい気がしてきた。


 ファラたちのことは置いておいて、わたしはやぐらの方でも用意しよう。 

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― 新着の感想 ―
[良い点] ファラさんのような大人の女性は本当に凄いね 詳しく聞かない方がいいけど....
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