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180  思い付きで鉱脈

「じゃあ、国王様にも言っとかないとだね」

「私からものちほど報告するが、まだ訓練途中だ。今は離れられん。すまんが頼む」

 

 騎士団長が魔剣の持ち主になったことを伝えとかないといけないだろう。

 そうなると刀の経緯も話さないといけないな。


 そう考えながら国王の居場所を聞いて、そこに顔を出すと宰相もいた。

 仕事中だったらしい。


 ちなみにチアは騎士団の演習場にそのまま残っている。

 国王の報告についていっても、おもしろいわけではないし、訓練を見てる方がいいということらしい。


「なんだ? 面倒ごとか?」

「面倒ごとは色々あったけど、もう終わってるよ。ちょっと報告にね」


 宰相は嫌そうな顔をしたが、すでに片付いていることだと聞いて普通の表情に戻った。普通の表情もどちらかと言えば仏頂面で愛想はないが。


 そんなにいつも面倒ごとを持ち込んでいたっけな。


 すでに骨ではなくなっている元・骨モグラと魔剣のことを説明する。 


「また変なものと関わっているな。騎士団の戦力強化は素直に喜ばしいことではあるが」

「見た方が早そうじゃの。訓練場へ行く。道すがら、さっきの話にあった星銀の地底湖について詳しく聞かせてくれんか。どうやって見つけたのかなんかをな」


 リクエストに添って一通り話し終えると、国王がふむ、とうなずいた。


「ふむ、近くにそんなところがあったのか。わしもなんとか見にいってみたいが……」

「お前な……」


 宰相があきれた声を出すが、場所はわかっているわけだから、夜闇に紛れて空を直線移動すればそれほどの距離でもないかな。

 往復だけなら半日かからずいけそうだ。


「そこまで気になるの?」

「なまじっか近くて行けそうなところなので、余計にな。馬で飛ばせば……いや、うーむ……」

「一晩、自由がきくなら連れて行けるよ。寄り道なしでそこだけになっちゃうけど」

「なに!? それなら、今晩だな!」

「……暇なの?」

「こういうのは後回しにすると行かなくなるから、早いほどよい。何人か集めるとなると尚更じゃ」


 言いたいことはわからないでもない。

 忙しい人たちの都合が合う日なんて、無理矢理作らないとなかなかないだろうしね。


 ん? 何人か集まるの?


 疑問を口をする前に宰相に話を変えられた。


「南に作る村への道は、手配は進めているが実際の工事はまだ先になりそうだ。予算的なところもあるのでな」

「進めてくれてるならいいよ。お金に困ってるの?」

「そこまで困ってまではおらん……余裕があるわけでもないがな。資金繰りや時期的なことなどもある」

「ふーん」


 めちゃめちゃ余裕があったのなら、すでに開拓が始まってたんだろうしね。

 紙の上だけの計画だけだったのを、わたしが横からかっさらったんだし。


「それより、人を集める方が問題だな」

「集まらない?」

「はっきり言えばそうだ。お前は民衆に対して知名度がないからな」

「獣人の作る村なんてのは嫌がるだろうしね」

「……まあ、それもある」


 それもあるというか、ほぼそれだろうな。


 国王が認めた聖女であること、実際に不思議な力を持っていること、肥料がどの程度有用かはわからないが、知識的にも素人じゃなさそうなので多少は役に立ちそうだ、というあたりで貴族は獣人のわたしをまともに相手してくれた。


 募集をしても、事情を知らない人たちはよその国から来たという獣人の元で頑張ろうとはならないだろう。

 国の方策として、わたしのことを知らない農家の次男三男を無理矢理に集めたところで素直に言うことを聞くとは思えない。

 おまけにあまり馴染みのない米作である。


「動き出せばそこからは早いだろう。先頭にお前がいてやってしまうから、自分たちで切り拓く必要がなく、王都からも近い。魔物の危険性もお前のことだ、ほぼないだろうからな」


 王都の南だし、立地や環境はいいからね。


元々、最初は何かあったときにフォローのきく少人数の方がと考えてはいた。

 今年の収穫だってどうなるかわからない手探りだし、最初は少数からのほうが気楽だ。

 まずは、自分で集めた方がいいかもしれないな。


 あとは悪くない生活だと口コミが広がれば宰相の言うように人も増えてくるだろう。

 待遇面をよくするためと考えると、道作りもあんまり放置はできないな。

 国の金回りがよくなればいいんだろうか。


 アルドメトスたちのいる訓練場へ着いて、刀やモグラ、モグラの技なんかが国王たちへ披露された。


「いいのう。魔剣はロマンじゃからな。わしにも今度一本探してきてくれ」

「子供へのお使いみたいに頼まないでください」

「国王様、持っていても使う機会があると思えませんが」


 国王が、言うだろうなと思っていたことを予想通り口に出して、わたしと宰相が騎士団員の手前、よそ行き言葉でツッコみをいれる。


 そこで、ふと思いついた。


「探してくる……か。他にも道をひいてもらったりするし、お金も探してくればいいわけだ」


 国王と宰相にもなんだかんだ世話をかけてはいるし、わたしにとっても村の整備は早い方がいい。

 それだけ早く自由の身になれる。


「ん、なんの話だ?」

「ちょうどここ広いし、あと材料もいるかな。……で、よいしょ!」

「にゃにゃー!」


 固有空間(ストレージ)から希少金属を含めた金属類をばらばらと取り出すと、マナを使って描いた魔法を発動した。

 整備されている訓練場の地面が、団員たちの立っているのもおかまいなしに広範囲に動き、ねじれて形を作っていく。


「うおっ」

「なんだなんだ!?」


 慌てる騎士団員を尻目に、宰相が怒鳴りつけてくる。


「突然、思い付きで行動するんじゃない! 今度は何をした!?」

「思いついたら試してみたい性分なんであきらめて。それに、まだ地図を出しただけだよ」

「開き直るな! ん? 地図……?」


 地面に作ったのは、この国を縮小した立体地図だ。周りの国も多少入ってるかもしれないけどその辺は適当である。


「ふむ、たしかに地図だな。ここが王都か」

「国王様、よくできておりますね。王都……こちらがナポリタ……あ、小さな村なのですが、私の生まれた村もちゃんとありますね」


 国王の言葉に、騎士団員の一人が嬉しそうに答える。

 それを聞いた宰相が顔色を変えた。


「おい、これはどういった地図なんだ!?」

「見たまんま。この国を小さくして地面に写した普通の地図だよ」

「ばっかもん! それは普通の地図とは言わん! 詳細な地図は、国防上の機密だぞ! 全員この場を離れ……いや、ここに近づく者がいないように離れて警護せよ! このことは他言無用だ!」


 宰相の怒号に、アルドメトスとレザルがすぐに騎士団員を別の場所に集合させた。

 いくつか指示を飛ばし、騎士団員たちが周囲に散っていく。


「人の出入りを止めてるわけでもないし、誰かが調べれば似たようなもの作れるでしょ」

「……こんなものを簡単に作れるわけがあるか。人の入り込まないような場所は、そこらに売ってる地図では空白だ」

「それで、これをどうするつもりなんじゃ? 簡易化したものでも売れば金になるじゃろうし、領主に自領のものを売りつけてもよさそうじゃが」


 いや、地図として売るつもりはないんだよ。


「国の金回りをよくしてもらおうかなって。鑑定……しなくても錬金魔術でいけるかな」


 取り出した金貨を元に、同じものがあるところ場所の反応を探す。


「ん。まずはここと、ここに金鉱があるね。量はどんなかな」

「……お前、まさか」


 続いて銀貨に石炭、鉄なども確認していく。


「こっちは銀……ここは石炭だね。ここの鉄は多そう。あ、すごいミスリルの反応がある」

「ロロナ、ちょっと待て。お前そんな方法で地下にあるものを……!?」


 縮小再現しているので、鉱物なんかもそのまま埋まっている。

 自分の手持ちに探したい素材がないとできないので、この前の星銀探しには使えない方法だ。


「そこまで行くと直轄地から外れるな。採掘地の整備と鉱脈の情報で領主と共同管理にして取り分は得られるじゃろうが」


 頭を抱えている宰相と対照的に、国王はわたしが示した場所をチェックしていく。

 一応やればできる人なんだよな。やる気がないだけで。


「領地の境界線まではわかんないよ。国王様、線引ける? それより、金鉱まるごとわたしが掘ってきた方が早いかな」

「それだと単にお前の金が増えるだけじゃろ」


 国王と話している横で、頭を抱えていた宰相が盛大なため息をついて復活した。


「公開できる情報ではないし、アーウィンはどうせやる気もないだろう。私は手が回らんぞ……」

「わしら以外にやらせればいい」

「なにか案があるのか?」

「わしは表向き、手柄を立てすぎておるきらいがある。ここは、次代の王に頑張ってもらうのはどうじゃ?」

「……なるほど」

「ロロ、このまま地図を運べるか?」

「おっけー」


 そのままストレージに一度収納して中庭まで移動する。

 大きすぎて室内には入らないからね。


「父上、お呼びですか。宰相どのと……聖女様まで?」

「うむ。これを見てくれ」


 わたしもロロナリエモードである。さすがに従者がいても場違いだからね。

 おりんも頭の上ではなく、足元におろしている。


 国王の息子――王太子はわたしの作った地図を見て目を丸くした。


「これは……」

「先の魔物の暴走(スタンピード)のための調査を元にした成果の一つでな、主にロロナリエに協力してもらい作ったものだ」

「……非常に精巧な地図ですね。起伏まであり、他国まで含まれているとは……」


 王太子が山をなぞったり、町の位置関係を確かめたりしている。


 知ってる町の地図っておもしろいもんね。


「そこここに刻まれておる印があるが、それは地下に埋まっておる資源や鉱脈で、量もランク付けしてある」

「なっ!?」

「分かるだろうが、これはあまり人に漏らせん情報だ。信頼できる者のみと相談し、うまく料理してみよ。一応、いくつか思いつく案をあとで宰相から伝えるので参考にするといい」

「しかし、これは父上の成果では……」


 王太子が戸惑った声を上げる。

 父親のやった仕事にタダ乗りするようで気が引けるのかな。


「厳密に言うと、わしじゃなくロロナリエの成果だがな。わしは今更手柄はいらんし、これに関わる気はない……というか、はっきり言うと手が回らんのだ」


 国王の手が回らない理由は遊んでたいからだけどね。

 宰相の手が回らない理由は本当に忙しいからだけど。


 それでも、王太子は国王が裏で国を守るためになにかしらやっているのだろうと思ったらしく、納得顔になった。


 わたしも獣人の立場向上を考えると手柄が欲しくないわけではない。

 ただ、そういう調査能力を持っているとわかれば、間違いなくやっかいごとに巻き込まれるので勘弁だ。


 元々宰相にぶん投げるつもりで、国の金回りがよくなって村の整備なんかがスムーズになればいいくらいのものだったからね。

 ついでに、孤児院の補助が増えればなおいい。


「な、なるほど……わかりました。ロロナリエ様もそれでよろしいのですか?」

「ええ。国が豊かになり、苦しい暮らしをしている方々に伸びる手が増えますようお願いします。それと……鉱脈は採り尽くせばなくなるもの。長い先の話でしょうが、その次の手もお考えくださいませ」


 宰相が奇妙な生き物を見るような目でわたしを見る。

 わたしがネコを被っているのに違和感があるからか、まともなこと言っているのに違和感があるからかは知らない。


 わたしでも好き勝手言う相手は選んでいるぞ、一応。


「すぐに何人か集めます。宰相どの、ジルもお借りします」

「ええ。未熟者ですが、お役立てください」


 国王に頭を下げると、王太子は急ぎ足で出ていった。


「ジルって、息子さん?」

「うむ」

「似てる?」

「いや、まったくだ」

「そりゃよかったね」

「……どういう意味だ」


 言うと怒るので、そちらには答えずに国王に声をかけた。


「一回帰ってくるね。夜にまた来るよ。それで、国王様は星銀を見るのに誰か連れていくの?」

「そりゃ決まっとるじゃろ。()()だぞ」

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