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18  リンカーネイト、猫人の姿に戻る


「はぁ、転生……ですか」

「そうそう。実際死んでたんだよね。なんで記憶が残ったのかよくわからないけど」


 さすがに、黙って転生準備をしていたと言うと怒られそうなのでとぼけておく。


「しゃべり方も変わってますけど……」

「年をとって段々話し方が変わったりするでしょ。ああいう感じで、自分では特に違和感ないんだけどね」

「中身も変わりました?」

「少し変わったかもね。死んだ後に、もう一回生まれて死んで、また生まれ変わって、三年前に記憶が戻って……精神年齢も身体に引っ張られてるし。こんな一面もあったなくらいで、自分じゃなくなったみたいな感じはないんだけど」

「そうでしたか……ところでそのカバン、昔に私が作ってもらったものじゃないですか?」


 一通り疑問をぶつけてきたリンカが、最後にわたしの下げたカバンに気がついて首を傾げた。

 昔、カバンが欲しいと言った時にリンカが店に依頼して用意してくれた物だ。


 わたしの固有空間(ストレージ)と直結させた魔法の鞄(マジックバッグ)へと改造して、死ぬ間際に各所に設置するものの一つとして使ったのだ。


 頭の上に乗っけたリンカに、彼女が気絶している間に考えておいた説明をする。


「……つまり、個人的な思い出のあるものとか、失敗作とか、危険なものとかをまとめて隠しておいた、と」

「で、転生した場所がそこから近くだったから、なんとかそれを手に入れたところだったの」

「なるほど……しかしまた、ずいぶんと可愛らしい姿になってしまいましたね」

「まあ、リンカには違和感あるよね」


 爺から小娘だ。落差に引かれてないか少し心配になる。


「いえいえ、昔のお爺さん姿より断然いいと思います。とてもかわいいですから、ぜひ、ずっとそれでお願いしたいです」


 リンカがはっきりと言い切った。


「……なんか、昔の私の扱いヒドくない?」

「いえ、その……実際お爺さんでしたし」


 でも、そっか……。今の自分、いけてるのか……。

 そうじゃないかとは、ちょっと思っていたけど……でも正面切って褒められると、さすがに照れるな。


「わー、照れてる! かわいい! 上目遣いがあざとい! ご主人にこんな一面があったなんて、ごちそうさまです!」


 ……なんだ、この子。

 半眼になってリンカを拾いあげると、頭の上に乗っけておく。


「最初は、実はそういうのが好みだったのかと思ってしまいましたよ」


 頭の上でちび猫が披露する冗談を、はいはい、と受け流す。


「そんなわけないでしょ。それより、リンカもかなり小さくなってるけど大丈夫?」

「え?」


 子どもであるわたしの頭の上に乗せていられるのは、リンカが猫の中でも小さめのサイズになっているからだ。

 子猫と成猫の間くらいだろうか。


 リンカが、自分の体を見下ろした。


「ええー、なんでですにゃっ!? 大きくなれにゃい!」

「リンカって、驚いたりすると方言でるよね」

「今はそれどころじゃないですにゃ!」


 にゃ、と、つけるのは猫獣人でも帝国方面、大陸東部の方言だ。

 転生するまでは、まあ猫だから、と気にしていなかったけど、転生してから他の獣人に聞いて、初めて方言だと知った。

 これを使うのは、少し子供っぽいらしい。


「多分、呪いを解くのにお掃除砲を使ったせいだと思うんだけど……精霊のコアとか傷ついたと思うし」

「ええー……なんか魔力回路もやられてるみたいで、姿もですけど、魔力も練れないです」

「リンカの呪いをなんとか出来る手持ちの魔道具、あれしかなかったんだよね。精霊コアの修復には準備が莫大だから、当分はそのまま我慢してね」

「まあ、仕方ありませんね。……うん、ヒトの姿にはなれそうです」

「ヒトの姿って、そっちが元々の姿でしょ……」


 転生前のわたしが死んだあと、もしかして猫として生きていたのかな……などと考えていると、リンカの姿が変わった。

 ぽん、と変身したリンカが今の私よりも少しだけ年上の、十二、三才くらいの姿になる。


 成長期然とした、細く長い手足。髪の色とネコ耳、尻尾の大部分は黒く、耳と尻尾はそれぞれ先っぽだけが白くなっている。

 記憶にある大人の姿の時ほどは大きくないけれど、年相応などとは絶対に言えない豊満なバストがたゆんと揺れる。

 思わず見とれかけて、慌てて向こうを向いた。


「洞窟にいる間ずっとネコだったからか、ネコ姿の方が楽な感じがしますね。あ、これ、一応今のご主人よりは年上ですね!」


 マジックバッグから適当な服を探し出すと、リンカの方を見ないようにして差し出す。


「ネコはネコでも化け猫だったけど……。あと、分かったから早く服を着て」

「別に、誰もいないですけど」


 周囲にはただ真っ平らな地面が広がっているだけだ。


「もしかしてご主人、照れてます? ……昔は私が着替えてる時とかに部屋にズカズカ入ってきて、全く気にせずに用事言いつけてましたよね?」


 リンカが半眼になる。


 ヒト型になった本人を実際目の前にすると、感覚的に、昔のようにリンカをお子様扱いしづらい。

 生まれ変わって、若返ってしまった関係だろうか。


「年を取って消滅していたデリカシーが復活したからかな……」

「変に照れられると、逆にこっちも恥ずかしいんですけど……」


 そっぽを向いて差し出している服を、リンカが奪うように受け取ってそれを着た。


「……下着はないんですか?」

「そんな、何でもかんでもあるわけないでしょ」

「すーすーしますにゃー。胸が擦れますにゃー」

「包帯ならあるから、さらしにして巻いときなさい」


 ネコ形態なら服はいらないのだけど、この後、村人が集合している遺跡もどきまで戻ることになる。

 リンカが噴水の猫の像と同じ存在だと気付かれてしまったら、守り神にされてしまうかもしれない。


 背中を向けて、胸と股間にぐるぐる包帯を巻きつけているだろうリンカを待つ。


「しかし、この辺えらく真っ平らですね」

「大規模殲滅魔法でちょっと吹き飛んだからね」

「……また何かやったんですか」


 またってなんだ。まあ心当たりは色々あるんだけど。

 太陽はすでに傾いている。早く戻らないと、日が沈んでしまいそうだ。


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