176 増える女子会
屋敷に帰り、門の外をふと見ると停まっていた馬車から見知った顔が下りてくるところだった。
頭の上に妖精を乗せている人間なんてそうはいない。
「チアちゃん! おりんさん! ……と、ロロナリエ様」
「メイちゃん! シアも!」
「メイレーン……様ですね。うちの者がお世話になっております」
おっとっと、危ない危ない。今はロロナリエだった。
ほぼ一年ぶりになる、魔術師長の姪っ子のメイレーンだ。
今年の春から王都の学園に通うと言っていたっけ。
日国へ行ったりしていたせいで、ずっと会う暇がなかった。
メイレーンだけならロロナリエとロロは同一人物だとバラしていいんだけど、今はメイレーンの横にもう一人、メイレーンとよく似た女子大生くらいの人がいた。
王都にいると聞いていたメイレーンの姉かな。
「すみません、妹がお世話になっております。本日は先ぶれもない突然の訪問申し訳ありません」
メイレーンの姉がぺこりと頭を下げる。
シアは気付いているのかいないのか、いつものように無言で手をあげてあいさつしている。
「いえいえ。ひとまず、中へどうぞ」
二人を中に招いて、本館へ案内する。
おりんがお茶を淹れてくれている間に、チアにメイレーンを呼んできてもらう。
「えっと、なんでしょう、ロロナリエ様」
「わたし、わたし。ロロだよ」
「ええっ!?」
驚いているメイレーンに事情を説明する。
頭の上に乗っているシアはなぜか少し得意げだった。
気付いてましたってことかな。
「だから、メイレーンはいつもどおりでいいよ。それで、今日は遊びに来ただけなの?」
「はい! 私は素敵な演奏会をやってると聞いて遊びにきました。姉様は遠慮してましたが、どう見ても聴きたがっていたので無理矢理連れてきました!」
「そ、そう……いいけど」
シアと指をくっつけてETみたいなあいさつをしているチアを横目に見ながら、メイレーンの姉のところに戻り改めてあいさつする。
「メイセリアです。本日は急な訪問で本当に申し訳なく……」
「そちらについてはもう結構ですよ。メイレーン様にいらっしゃった理由を聞いたのですが、演奏会ではなく友人とここ数日ほどお泊まり会をしていただけでして……」
「まあ、そうだったのですね。そんな場にお邪魔してしまい……」
席を立とうとするのを引き止める。
「ああ、いえ……そうではなく、居ていただいていいのですけれど、ここでのことは他言無用でお願いできますか」
「いいんですか!? ありがとうございます! 絶対にどこにも漏らしません! 必要なら契約魔術もやります!」
「あ、はい……では、言葉を崩させてもらいますね。友人と堅苦しく話すのはやり辛いですから」
しかし、なんかすごい反応だな。
そこまで喜ぶ理由もよくわからない。そんなに聞きたいものなのだろうか。
「ええと、音楽が好きなんですか?」
「姉様は推薦をもらってて、もうすぐ宮廷楽団の試験を受けるんですよ」
「え、そうなの? 本職じゃん」
それで聴きたがっていたのか。
誰も聴いたことのない異国の歌や音楽だと思って興味を持ったわけだ。
わたしがメイレーン相手に言葉を一気に崩したせいで、メイセリアがちょっと驚いている。
「あ……は、はい。実はその課題の一つで、自分で作曲した曲の提出も求められていまして。要望に応えて新しい曲を作ったりするのも仕事の一つとなりますから……」
「あー、それでなんかヒントにでもなればってのもあるんだね」
「はい、正直ちょっと詰まっていました。それで、気付いた妹が気を回してくれたみたいで……」
メイレーンを見ると、きょとんとして、そうだったっけみたいな顔をしている。
妹さん、深く考えてなさそうですけど。
メイレーンはわりとノリで行動するタイプの子だからな……。
「メイレーンもなにかやってたりするの?」
「習わされてますけど、私は十人並みです。進むとしたら専門課程は魔術方面のつもりですし」
「魔術関係なら、困ったらいつでも教えてあげるから言ってね。おじさんが宮廷魔術師長だし、モールズもいるから出番なさそうだけど」
「あれ……ロロナリエ様……?」
「あー、そっか。どうするかな」
家族関係まで知ってるのバラしちゃったな。
口止めはしてるから……よし、これでいくか。
「よいしょっと」
縮んで、元々のロロの姿に戻る。
「えっ、えっ、あの……」
「聖女パワーが切れたので縮みました」
「え? はあ……そういうものなんですか」
「約束通り、人には言わないでね。わたし、この姿でよくうろついていて、シェリグサリス領にも行ったことがあるんです。それでメイレーンとも友達なんですよ」
「ロロ様、さすがに雑すぎませんかね……」
おりんからツッコミが入った。
納得してくれてるからいいんだよ。
そこで門の鐘の音が鳴って、バルツの様子を見にいっていたフィフィが帰ってきた。
「おかえり、どうだった?」
「とりあえず一段落はついたみたい。まだやる気になってるからもう少し放っておいてもいいけど、家が荒れ果てちゃ困るから明日帰るよ。それと、お客さんみたいだよ」
結構ヒドい状況だったんだろうか。
フィフィが肩をすくめる。
その横には、お隣のメイドで今注目の化粧師になってしまったジニーの姿もあった。
「それで、ジニーはどうしたの。遊びにきたの?」
「どうしたもこうしたも、キミらいつまで歌う気なの? うちの主人は毎日客が来て面倒だからって、居留守きめこんじゃったよ」
隣の屋敷を見ると、たしかに明かりがない。
ごめん、バーレイ子爵。
「それに関しては普通にごめん。でも追加で友達が来ることになったし、明日まではやるつもり」
「明日までね。それなら、居留守のせいでお休みになっちゃってるから私もお邪魔させてもらおうかな」
結局遊びにはくるらしい。
「ここにいるフィフィもだけど、ジニーの知らない人が何人かいるけどいい?」
「そりゃ、もちろん。多ければ多いほど楽しいじゃん。一度帰って、明日までだって伝えてくるからまたあとでね」
誰が参加するのかも伝えてないのにまったく気後れする様子がないのは、いかにもジニーらしい。
うわさ話が大好きな彼女らしく、知らない人と話をするのは普通に楽しいことに分類されるのだろう。
「なんだかメンバーが増えてきたな」
アリアンナにはお姫様扱いはしないと伝えてある。問題はないはずだ。