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150  湿地整備


「とりあえず軽く見て歩きながら王都の方へ抜けようか。やるなら王都側だろうし」


 湿地の方へ向かうと、山側から見て玄関とでも言うべき辺りに太い魔力樹がものすごい数生えていた。


 魔力樹は植物の魔物だ。

 魔力を宿すだけで普通の木と変わらないようなものもあるし、中には自分で移動したり、生き物を襲ったりするものまで色々いる。

 結構色々な材料として使えるのだが、手つかずのままだ。


 魔力の多い水が流れ込んでくる山側に集まっているんだな。


「魔力が多かったからか……誰も切ったり採ったりしないのかな」

「場所がら無理なんでしょう」

「ああ、そっか」


 不安定な泥地や腰くらいまで水に浸かってしまうようなところがランダムに散らばっている。

 魔物に襲われたりしたらかなり厳しいし、おまけに襲ってくるような魔力樹も混じっているわけだから危険と割に合わないのだろう。


 切り倒しても足場が悪くて運ぶのも難しいし、舟で入ってこれる場所でもない。


 わたしたちは風精霊の力を借りた魔道具の靴で浮いているので問題ないけど。


「わたしがまとめて掘り起こすから回収していこ」

「……全部ですかにゃ?」

「こっちに来る魔力止めたんだから、放っといたら枯れるもん。もったいないじゃん。動くようなやつは焼いてっていいから」

「はい……」


 おりんがげんなりした顔で答える。


「心配しなくても集めるからだいじょぶ、だいじょぶ」

「チアは何するのー?」

「チアも掘り起こしたのを回収してって」

「はーい」


 魔術で地面を動かして数区画分の木をひっくり返す。

 更に木を大まかに一か所に集めていく。


「うわ」

「わー、うねうねだー」


 チアの言うとおり、大量の木が根を動かしながら逃げ出し始めた。

 結構な数の魔力樹が動けるタイプだったらしい。


「焼き切ります!」


 おりんが雑に炎の線を飛ばす。

 当然切ったところから燃え広がらないようにしてあり、きれいに一直線に切断された。

 丸太がごろごろと転がる中で、切断されて背の低い切り株や高い切り株になった魔力樹が身軽になったとばかりに加速して逃げていく。


「あれはまとめて焼いて」

「わー、はやーい」


 おりんが広範囲に炎の魔術を走らせた。


 おりんとチアに回収を任せて、わたしは掘り起こした地面を鑑定してみる。


「んー、泥炭地だね……」

「なんですか、それ?」

「帝国にもトルフ湿原ってあったでしょ」

「じゃあ、これ燃える泥ですか? 畑になんてできないんじゃ……」

「燃える泥なのは正解。畑じゃなくて水田ね。ちゃんと実例もあるから大丈夫」


 北海道でも泥炭地が開発されて米どころになっているわけだから、なんとかはできるはずだ。


「この泥、燃えるの?」

「これは腐りそこねた植物なの。だから乾かしたら燃えるよ。わたしが知ってるやつは寒いせいで腐らないんだけど……ここのはなんだろね」


 大量にあった魔力樹やなんかと関係があるのかもしれない。

 わたしの知識で理由まではよくわからないけど、腐りにくい環境だったってことだろう。


 湿地が広くて水の動きが少ないからか、それとも門か塀かのほうに大量に並んでいた魔力樹が水中の酸素を大量に使っていたせいとか……?


 他にも理由はあるだろうけど、まあそんなところだろう。


 そのまま移動を続け、湿地を抜けた。


「やるとしたら、この辺りだね」


 向こうの方には平原が見えてきている。

 水に沈んだ地面を隆起させて確認したらこの辺りも泥炭地が続いていた。


「んー、回収してからちょっと手を入れようかな」

「そのまま種をまくっていっていませんでした?」

「あの時は魔力がなかったからね。せっかくマナがあるんだし、むしろわたしが何ができるのか、実験するのにちょうどいいかもしれないかなって」


 水はほとんど入れ替わらない。そして、腐っていない大量の植物。

 調べるまでもなく、栄養不足の土地だ。


 泥炭については強制的に腐らせてしまうのも手だけど、燃料としても使えるので何か使う機会があるかもしれない。

 まとめて回収してしまおう。


「御使い様の初仕事だもんね。派手にやっちゃいますか」


 マナを魔力に大量に変換してから、巨大な術式を描き上げていく。


 完成した魔術発動すると、大地が動き出した。


 湿地全体の地面が動き、泥炭を押し上げる。

 それはうねりとなって動き出し、大量の泥炭が集まり山を作り上げていく。


 しばらく集まり続ける泥炭をストレージに回収し続ける。


 よし、下準備は終わりだ。


 まずはおおよそ種をまく範囲を区切って整える。

 本格的な水路などはまた来年まででいいだろう。


「おりん、草全部焼いといて」


 草取りを兼ねてささやかながら焼畑をしておく。


 おりんが焼き払っているのを見ながら、腕を組んだ。


 泥炭地だから育ちにくいだろうなと知識的に思っていたが、それだけじゃないな。

 見ているだけでここで米を育ててもあんまり育たないだろうな、という今までにはなかったふわっとした感覚がある。

 わたしにそういった農家的な感覚は本来皆無なので、豊穣神特有のものかもしれない。


 さて、土を肥やすのにどうしたものか。

 まあ思いつく限り試していこう。


 発酵系のものを作るのは、この場で完成させようと思うと魔力消費が激しいから、ここの分くらいはともかく日国では使えないだろう。

 適当な腐り神のような存在を知らないのだ。


 ん、でも菌種なんてものまでは知らないけれど、発酵したりする現象と理屈については知ってるから……今なら自分でもできる?

 試す価値はありそうだ。


 一部の泥炭をストレージから取り出し、ついでにおりんの焼いた草木灰と日の国で手に入れていた玄米を削った米ぬか、そこらの土とを混ぜる。


 菌の活発化による発酵分解を幻想術式で作り出す。

 お、いけるいける。


「なんかいい匂いがするー」

「成功したかな。投入ー」


 植える予定の範囲におりんが焼いた灰と一緒に混ぜ込み、土を混ぜ、水を動かし酸素を吹き込む。


「わー、生きてるみたい」

「器用ですね」

「そりゃ魔術制御だし」


 誰がやってると思ってんだ。

 今は自前の魔力だし、この程度余裕だ。


 最初よりは改善しているけど、まだまだ足りないな。

 草木灰と雑草堆肥……になるのかな。

 となるとあとは……。


「窒素かなぁ」

「なんですか、それ?」

「肥料の成分の話だよ。土に必要な三要素ってね。どうしたものかな……」


 祖父母特製の米ぬかベースの肥料なんかには油をしぼったあとの菜種かすなんかが入ってたっけ。

 あとは動物由来のものなんかだろうか。

 とりあえず手持ちになんとかできそうなものがない。


「マナを流し込んで元気に育てー、みたいな感じじゃだめなんですか? 他の稲荷神の言い方だとそんな感じでしたけど」


 豊富なマナを持ち、効率よく植物や生き物の生命力を高めることができる、それこそ天狐なんかならそれでいいだろう。

 ただ、それはある意味マナを使ったゴリ押しでもある。


「できるけど、わたしがやると効率が悪いから。豊穣神としては新米もいいとこだからね」


 他の豊穣神たちはよく育つように植物を活性化させたり、実りを豊かにさせたりと直接的にマナを行使するが、わたしは肥料や土壌の改良などで間接的に行うしかない。

 でないと非常にマナの効率が悪い。

 ただ、その知識についてはあるため、ある意味それはわたしの強みでもある。


 うーん……有機肥料がだめなら、化学肥料……?


 アンモニアの合成、硝酸の合成は学校で習う範囲なのでわかるけど……。硝酸から先は?

 硝酸系肥料って何だっけ?


 ……仮にわかっても材料がないような気もする。


 ああ、尿素があった。尿素も窒素系の肥料だ。高校でやったから記憶から引っ張り出せる。

 あれなら原料は空気と水だけでいい。


 さて、やってやろうじゃない。


 幻想術式で描き出す。

 窒素と水からアンモニア、そしてそこから二酸化炭素と合わせて尿素を合成させる。


 真っ白い尿素の結晶ができあがった。


「やった!」

「何これ? 食べれる?」


 なんでも食べようとするな。


 水中に拡散させ、土に混ぜ込み、反応を早めてなじませる。


「農作業とは思えない魔術オンパレードですね」

「一応これで終わり。日国での使い方も考えないとだね。ここまで手間かけてらんないし」


 今年なら追肥として量を少なめに抑えて溶かした状態で直接まくとかだろうか。


 むしろ材料が手に入るなら発酵がいけるわけだし有機肥料作った方がいいかな。

 来年以降自力で作ってもらえるし……。


 さて、あとは適当に種をまいておしまいだ。


 しばらく行動を抑えたいというストラミネアにここは任せて王都へと帰路につくことにした。

 戻ってきたら全部食べられてましたっていうのも困るからね。


「えー、ミネアちゃん寂しくないの?」

「問題ありませんよ。制御に慣れるまで動かない方が楽ですから」


 性格的なものなのか、精霊だからなのか、ストラミネアは百年単位でもまったく平気で待つことができる。


「ぎゅってして寝たいとか、ならないのかな」

「そういう実体がないからね」


 ああ、でも作ろうと思えば今なら体を作ることもできるんだな。

 本人は特にそういうのに興味なさそうだけど。


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