145 ロロナ、王国へ帰る
目を覚ますと、おりんの顔が目の前にあった。
そういえばヒトの姿で昨日は寝てたな。
びっくりして一瞬で目が覚めた。
赤毛に変わってたせいもあって、別人かと思って二度びっくりしてしまった。
おりんを起こさないように、そっと身を起こす。
赤くなった髪から、ついちらりと胸元に目がいく。
ボタン全部ちゃんと留めといてよ。首元きついのかな。
本当に毎日この姿でくっついて寝る気なんだろうか。
まったく、かわいい顔してやってくることはかわいくない……こともない。
かわいい仕返しではある。やられている当事者じゃなかったらだけど。
「あんまり意識させないでよね」
つぶやいて部屋を抜け出す。
夢でも見ているのか、おりんの耳がピクリと動いた気がした。
それから、朝からお土産用のお弁当作りにせいをだす。
そのあと、チアとやけに上機嫌で起きてきたおりんとともに、出かけていく稲荷神たちを順に見送った。
最後に残った天狐が、出発する前に今思い出したと言う感じで口を開いた。
「お前のとこの風の精霊、核があるがあれもう要らないぞ」
「はえ?」
ストラミネアのことだよな。
唐突に言われて、理解が追いつかない。
「要らない?」
「あいつ、完全に安定してるからな。ない方が制限がつかないはずだ。風の精霊だし、水の要素もある。居場所にも困らんだろ」
「……割ればいいんですか? あれ、かなり頑丈なんですけど」
「頭ゴブリンか、お前は。マナ使えんだから抜き取れよ。いや、使えるマナがまだねぇのか。……まあ、そのうち出しといてやれ」
「はい、ありがとうございます」
天狐が出発するのを見送る。
わたしが結構マナを使ってしまっただろうから、田植え時期のお仕事とやらは結構早く終わっちゃうかもな。
あ、でも田植えの時期も結構まちまちだからそうでもないかな?
とりあえず、わたしたちも早く王国に帰って用事を片づけてくるとしよう。
「ストラミネア、白狐にこのお弁当届けてから最初に来たあの遺跡で合流ね」
「承知しました」
せっかくなので、白狐にもおすそ分けだ。三段のお重をストラミネアに託して、チアとおりんと一緒に王国から飛んできた遺跡を目指して数日かけて移動だ。
予定通り、遺跡に着くとすでにストラミネアが待っていた。
来たときと同じように転移して王国へ戻る。
一ヶ月ぶりくらいだな。
日国を発ったその日中には無事に家へと帰ってこれた。
一年暮らしただけでも、結構我が家感があるもんだ。
風呂場のあざらしスライムは予想通り乾いて縮んでいたけど、水をかけるとまた元気にもきゅもきゅしていた。
「まだ一年しか住んでないけど、帰ってきたって感じはあるね。まあ、少ししたらまた出発だけど」
「ご両親へ報告へ行くんですか?」
「どうだろ。そろそろ春の社交シーズンでしょ? 第一夫人さんが屋敷に来てるかもしれないよ」
「ああ、そうですね」
「夜中にちょっとか、手紙くらいになるかもね。あんまりゆっくりもしていられないし、とりあえず国王からかな」
翌日、慣れたキッチンでホットケーキを焼いて、ベーコンとシロップを一緒に並べる。
お米続きだったのもあり、おりんは意外なほど喜んでいた。
ネコになったおりんを頭に乗せてお城へ向かう。
ストラミネアには実家の様子を見てきてもらい、チアはアルドメトス騎士団長のところに顔を出しにいった。
部屋に通されると、宰相がやってきた。
宰相が見慣れた仏頂面で口を開く。
「日国から戻ったのか。行って帰るには日が短すぎると思うが……?」
「ちょっと裏技を使ったからね。収穫はたくさんあったけど、大変なことも多かったよ。色々片付いていないままだし」
「まあ、そうだろうな。すっきり解決など物語だけの話だ。実際は解決すればするだけ、次々とやっかいな問題が湧いてでてくるものだ」
宰相がいかにも政務に携わる者といったセリフを吐いた。
「嬉しくない現実の話はいいよ。それより、今日はわりと本気で相談事。トニオ司祭と国王様も呼んで欲しいかな。できたら、一応ギルマスも」
「……急ぎか?」
わたしの要求したメンバーに、宰相の片眉があがった。
「火急じゃないけど、まあまあ。といっても私の都合だから、別に危機が迫ってるとかじゃないよ」
米作りの種まき時期の問題なので、逃せば一年間を棒に振る羽目になる。
「そうか。まあ集まれるだろう。それまで……」
「わしに土産話をしておるといい」
話をどこまで聞いていたのか、国王が現れた。
「まあ、そりゃいいですけど」
寄生虫の魔物に大蛇退治、天狐の神社の結界群など、国王が面白がりそうな話はいくつかある。
国王と話している途中でアリアンナ姫もやって来た。
まあ、冒険者働きの範疇だろう。余計な部分はカットしてそのまま話をする。
お昼前に、御願いしたメンバーに、オマケで魔術師長も来ていた。
国王パーティーメンバーが揃っている。
ついでにアリアンナ姫もついてきている。
国王に、目でいいのかと聞かれたが、もうわたしを祀ってくれる村を作るとか、完全に大々的にやらざるを得なくなってしまった。
隠して話を進めていけるレベルを越えてしまっているので、おおっぴらにするしかないとあきらめている。
「それで?」
「まず一つ目。わたし、神様になった」
「ほう。それはすごいな。それで?」
当たり前のように宰相に流された。
ちょっとイラッとしたけど、手のひらに麦の粒を乗せる。
天狐の結界内にいるとマナが少し回復するので、ほんのちょっとくらいはまだ余裕がある。
マナを流し込むと、手のひらの上で麦が芽吹き、育ち始めた。適当に育ったところで止める。
全員見事なまでに絶句した。
「大地神の眷属で、豊穣神の一派って感じ」
自然と司祭のトニオに視線が集まる。
「……法術ではない。本物の、神の奇跡……ですね」
呆気にとられたままの表情で、トニオ司祭がそれだけ言った。
「お前、何があった!?」
「まあ……なんやかんやあったんだよ」
「そのなんやかんやを聞いているんだ!」
そう言われても、あんまり詳しく話してうっかり転生前の話になっても困るからなあ。
「えっと、豊穣神に会ったの。で、マナの使い方を教えてもらった。それで神様になった」
「お前、説明下手だな……」
「神と邂逅したという話だ。何か理由があって詳細は言えないのではないか?」
魔術師長がいい感じに勘違いしてくれたので、のっかっておこう。
そうそう、とばかりにうなづいておく。
「びっくりした?」
「そりゃそうだ。ただまあ、驚いてるが納得したといえば納得したわな。お前には何かあるとは思っていたからよ」
ギルマスが頭をかいた。
あれ? わりと似たりよったりの反応なんだけど、みんなそんな感じに思ってたの?
そんなにやらかしてたかな、と思い返していると、我に返ったトニオ司祭がいきなり祈りのポーズをとった。
「トニオ司祭、やめて下さい」
「いや、しかし……」
「今はそれより、相談の続きをしたいので。わたし、豊穣神として、わたしを祀る村を作れって言われたんです」
強引に話を進めて、トニオ司祭を椅子に戻す。
知り合いに本気で祈られると反応に困る。
「村を……」
「なんでまたそんなことを?」
「わたしを祀ってくれるところがあると、多分扱える力が増えるから……だと思う。半分はわたしのためだって言われたし」
「ふむ……? どう思う、トニオ?」
トニオ司祭が難しい顔をして腕を組んだ。
「アウラ様の眷属で、豊穣の神……。正直、この国で大地神教に割って入るような真似は厳しいでしょうね。広い意味ではアウラ様に祈りを捧げているのと変わらないでしょうから、私は反対するつもりはありませんが……」
「割って入るんじゃなくて、横にひっそり祀ってもらうとか、一緒に祈ってもらえればいいんだけど……」
ここは土着の神が多い日国とは違うからイメージが伝わりにくいな。向こうは神社内にも他の神が分祀されてるとか普通にあるし。
「聞いたことねえな。そりゃ、食うのに困ってる連中を集めて世話してやれば、感謝してそういう風習の村もできるかもしれないけどよ。ただ、その豊穣神ってお前なわけだろ?」
「わたしだけど?」
「生き神を祀る村って、なんつーか……」
「うさんくさい?」
「まあ、そうだな。この辺りだと馴染みがないしよ」
呼んだのは元々別の理由だったけど、ギルマスは冒険者と関わってるだけあって、庶民寄りの感覚があるし、遠慮なく言うのでこういうときは意外と助かるな。
宰相が視線を空中に置いたまま、こちらに問いかける。
「確認だが、祈ってもらえばいいと言ったな。お前の言い方だと、神殿などを建てて神として祀る必要はないということか?」
「うん。祈ってもらうのが大事だね。別に祭壇とかそういうのはいらないよ」
祈りや願いがやがてマナを生み、それはいずれわたしの力になる。
お前のためだと言われたのは、そういうことだろう。
「……それなら、いっそ神として敬われる必要もないのではないか? 神の言葉を伝える者ではどうだ」
宰相の視線がこちらに向いた。
国王が笑う。
「なるほど、一案ではあるな」
「えっ、えっ、どういうことですか?」
国王たちはすぐにピンと来たようだが、同席していたアリアンナはキョロキョロしている。
トニオ司祭が苦笑した。
「神の言葉を伝える存在……まあ厳密にはおかしいことなのですが、それらも祈られる対象になることは珍しくありません。御使い、巫女、聖女……」
「そういうことだ。ロロナ、お前聖女になれ」
「ロロ、聖女になるんですか? すごいじゃないですか!」
「イヤ」
盛り上がっていたみんなが肩をコケさせた。
「聖女って字面がイヤ。がらじゃないし。御使いでも十分嫌だけど」
みんなの顔にこいつ面倒くさいな、と顔に書いてある。
「めんどくせえな、お前。神はよくて聖女は嫌なのかよ」
声に出してきたギルマスに舌を出す。
「神様なら善い神様から迷惑な神様まで色々いるじゃん」
おりんもひざの上であきれているみたいだけど、他人事だからそう思えるだけだからね。
おりんだって、自分がやれって言われたら絶対嫌がるくせに。
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