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136  大蛇退治の報告

 翌日の昼頃にわたしは銀狐への報告へ行った。


 神社はラウに聞かされていたとおり、人でごったがえしていた。

 わたしが稲荷の遣いとして大蛇退治で活躍したので、たくさんの人が参拝に訪れているのだ。


 わたしが宴会場にいたのが広まってたらヤバかったな。


 宴会場にいることは別に隠されてはいないけれど、まずそこで宴会をしていること自体、関係者しか知らないからな。

 わたしがその場にいるのを知っているのは参加者だけだし、全員がいまだに宴会を続けているのであまり広まっていないようで、宴会場に人が詰めかける事態にはなっていない。


 わたしはバレないようにいつもの猫フードをしっかりかぶって銀狐のところへ向かった。




 部屋で銀狐の前に座って頭を下げる。


「銀狐様。大蛇の討伐は約束通り、無事に成功しました」

「そうかい、よくやったねえ……。それじゃあ、加護はそのままで大丈夫だね」


 よし、これで本来の目的は果たしたぞ。

 これで、わたしの狐耳と狐尻尾はこのままだ。


「それと、そうかしこまらなくていいんだよ」

「はあ……?」

「あんたは大蛇を退治した。それは、私にもできない立派なことだ。私にへりくだるようなまねをする必要はないよ」


 まあ豊穣神だもんね。別に戦闘能力自体は高くないのだろう。

 といっても、単に得意分野の問題で、金狐や黒狐のやっていたことを考えると、わたしよりできることは断然多いはずだ。


「まあ、それにだ……。よく考えたら、あんたはバカ息子の子孫にあたるわけだろう。それなら、私にとっては孫みたいなもんだよ」


 照れ隠しの言い訳のように銀狐が付け加えた。

 前回より銀狐の態度が柔らかくなっているのは、どちらかというと大蛇退治をしたからというよりも、日記を渡したからって気がする。


「ありがとうございます、銀狐様」


 不服そうな顔で銀狐がこちらを見る。


「銀狐……おばあさま?」


 満足そうに銀狐が肉球でわたしの頭を撫でる。

 人の姿になっていないからわからないけれど、天狐の弟子だったんだから、天狐よりは年下だろう。

 おばあちゃん呼ばわりして大丈夫なんだろうか。


「このあとはどうするつもりなんだい?」

「とりあえずは、まだ討伐成功の宴会が続いているのでそちらへ。そのあとは天狐様のところで少しだけ稽古をつけてもらう約束になっています」

「……天狐様に?」


 そういえば、その辺りの話はしていなかったな。


「はい、わたしも神様目指して修行中ですので」

「おやまあ! それは楽しみだねえ」

「なれるまで、どれだけ時間がかかるかわからないですけど……。あ、お酒とお料理を置いていくので、銀狐様もよろしければあとでどうぞ」

「ありがとうよ」


 付き合ってあげるべきなのかもしれないけど、おりんとチア、おまけでなぜかついてきたたぬきちもずっと宴会の方へ参加しているからな。

 全員が宴会場で食べて飲んで寝て、起きたらまた参加して……なんて感じでずっと続いているのだ。


 討伐時にいた人以外にも、色々関係者が差し入れを持ってそのまま参加したりなんかでまだ人数が減る気配はない。

 一応、大蛇退治の主役になるわけだし、ずっと不参加ってのも盛り上がらないだろう。




「本当にぎりぎりの戦いだった……。赤字にはならなかったのである」

「そうか、よかったな」


 数日後、連日の宴会が終わり、コジロウが財布の中を確認する。

 ラウがどうでもよさそうに答えた。


 町全体もお祭り騒ぎで、代金は不要だなんていう差し入れも多かったが、コジロウはすべて律儀に支払っていた。


「おい、ロロナ。大蛇退治について、国から改めて稲荷の遣いへ礼をしたいそうだ。なにか希望があればまた言ってくれ」

「大蛇の魔石に、あと素材も結構もらうし、もらいすぎじゃない? みんなで倒したんだから」


 解体はラウが手配していて、今人員を集めている所らしい。そこから素材と魔石をもらう予定だ。


「酒で眠らせられたのはお前のおかげだし、最初に首の半分を落としたのもお前たちだったろ。仕切り直した時もお前らが中心で倒したんだしな」

「そうだけど……お酒を集めていたのは、わたしじゃないしなあ」

「それこそ、俺らでもねえよ」


 まあ、それもそうだけど。


「ああ、そういえば手持ち使い切っちゃったから、いくらか魔石が欲しいかな」

「こんなんでいいのか?」


 ラウが腰に下げた袋から三つの魔石を差し出した。


「結構いいやつじゃん」

「やるもんだろ」


 オークキングクラスかな。

 まあ、ラウが強いのはもうとっくに知っている。改めて驚くほどのことでもない。


「それと、わたしたちはこのあと天柱稲荷に行って、そこにしばらく滞在する予定だから」

「ああ、わかった。じゃあ必要な連絡はそちらにする。魔石もそっちに届けてやるよ」


 そのまま宿へ一晩泊めてもらい、最後にもう一度銀狐にあいさつして出発した。

 次の目的地は天柱稲荷神社だ。


 なぜか町の宴会にまで付いて来ていたたぬきちともここでお別れだ。

 町外れでチアが抱っこしていたたぬきちを地面に降ろした。


「おうちまで自分で帰れる?」

「きゅ~ん」


 賢いたぬきだなあ。

 チアに返事をすると、たぬきちは道から外れてやぶの奥へガサゴソと消えていった。


「おりん、大丈夫?」

「いまいち体調が戻りませんね」


 おりんが気だるげに答えた。


「まあ、向こうに着いたらおりんはやることはないはずだし、ゆっくり休んでて」

「そうですね。少し楽させてもらいます」


 稲荷神社の遣いによる大蛇退治の報告がもう伝わっているのか、こちらも前回よりにぎわっている。


 神社にいくと、顔バレしているのですぐに神主さんがとんできた。

 神主さんが頭を深々と下げる。

 目立つからやめて欲しい。


「西国で例のない危険な大蛇を退治されたとお聞きしております。いや、お見事でございました」

「あんまり覚えていないんですけどね」

「ははあ、無我夢中というやつですかな。稲荷神社の関係者としては我々も鼻が高うございますよ」


 お酒のせいで記憶がないのだとはちょっと言えないわたしだった。


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[一言] なんだたぬきち付いてこないのか
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