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130  銀狐と大蛇退治

 白狐の神社がある小さな村には泊まれるようなところもない。

 白狐を起こしたので、素直に村を出て次は銀狐の神社を目指す。


 道中にある町で宿に泊まったり、ストレージに入れて持ち歩いているログハウスに泊まったりしながら西に向かった。

 行き先は天狐の神社で神主さんたちに教えてもらっている。


「この辺りで一番大きいところだし、この町かな。神社はもう少し奥らしいけど……てか、なんか騒がしいね」

「冒険者や武芸者のような人たちが多いですね」

「お祭りとかかなー?」

「そういう雰囲気でもなさそうなんだけど」

「でも、お酒の匂いがいっぱいするよ」

「ホントだね。まあ、わたしたちはとりあえず神社の方へ行こう」


 町外れの神社へ向かう。

 天狐の所ほどじゃないけど、こちらも立派な神社だ。


 タイミングが悪いのか、神社の人が見あたらない。

 どこにいるのかな。


 奥の方まで行くと、急に静かになった。


 おかしいな。人の気配もないような……。


 建物の戸が開いて、銀色の狐が出てきた。

 あら、本人かな。

 静かになった時にどこかで結界に入っていたってことか。


「銀狐様ですか?」

「よう来た、よう来た。さあさあ、ついといで」


 銀狐に案内されるがままについていく。

 前を歩く銀狐がのんびりした口調で話しながら奥へと進んでいく。


「かれこれ何年前になるかねえ……。加護が残っているのはわかっていたけれど、もう覚えている者はおらぬかと思うとった。まさか直接訪ねてくるとは驚いたよ。いやはや、懐かしいねえ」


 なんか、話し方とか雰囲気がものすごく田舎のおばあちゃんっぽい。


 ちなみに一般的なイメージの話であって、わたしの前世の祖母とはまったく似ていない。


 案内された部屋の座卓にはお茶とお菓子が用意されている。

 ん、これは……くず餅かな。


「ほらほら、遠慮せず食べなさい」


 銀狐に肉球で頭を撫でられる。


「いただきまーす」


 チアはもう食べ始めている。

 おりんは初めて見るよくわからない食べ物を警戒してチアの様子を見ていた。


「えっと、借りたままの加護を返して欲しいと伝えられていたみたいで……わたし、そのために来たんです」

「おやまあ……あいつ、一応返す気はあったのかい」

「でも、この狐耳も尻尾も生まれた時からずっとあったものなので、わたしこのままでいたいんです」


 これのおかげで苦労もしたが、これのおかげで今がある。

 もしなくしたら、その時は黒狐や金狐が生やしてくれるそうだけど、色も変わるかもしれないらしいし、やはり今のものに愛着がある。


「なるほどねえ……しかし、約束は約束なんでね。はいそうですか、というわけにはいかないんだよ」


 銀狐が一つ息を吐いた。


「何の因果か、あの時と同じことが起きてはいる……。しかし今回はあんたたちじゃ、役に立ちそうにはないし……」

「同じこと?」

大蛇(おろち)が出たんだよ」


 銀狐が宙をにらんだ。


「より正確に言うなら、この国の古くからの倒し方が通用しない巨大な大蛇がまた見つかったのさ。大蛇自体はたまに出るものだからね」


 大蛇はヒュドラ系の頭がたくさんある蛇の魔物だ。


「ロロ様のご先祖が退治して加護をもらった大蛇も今いるのと同じだったってことですか」

「じゃあ、それを倒せば?」


 大蛇を倒せば加護をもらえる。

 うん、シンプルでわかりやすい。


「そうさね。もちろん倒せたなら筋は通る。認めてやるともさ。ただ、今回はあの時のものが子供に思えるほどに巨大なやつだからねえ。あんたらじゃ役に立てんだろう」

「こう見えて結構強いつもりですけど」


 銀狐がわたしとチア、おりんを順に見やる。


「多少腕に覚えがあるなんてのは、あれの前じゃ何の意味もないだろうよ」


 そこまで言うとは、なかなかの大物らしい。

 まあ、ストラミネアがいるからなんとかなるだろう。


「ちなみに、昔ながらの倒し方っていうのはどんなものなんですか?」

「酒だよ。あれらは酒に尋常でないほど執着する。そのくせ、さほど強いわけでもないからね。酔って眠ったところを一息に始末するんだ」

「ああ、それで町に酒の匂いがすごかったんだ」

「今回みたいな大物を退治するためには、とにかく大量に酒を集めるからね」


 なるほど。色々な地方からお酒が集まっているのか。

 ぜひ買い集めたいところだけど、どう考えても今回のはそういう目的のものじゃないね。


「まずはその大蛇を見にいってみないとかな」

「やめなさい、食べられちまうよ」


 銀狐の口調が厳しいものになった。


「うんと遠くから見るだけにしときますから」

「……それなら、気をつけて行くんだね。見れば諦める気になるだろうよ。いいかい、一目見たらすぐ帰るんだよ。目をつけられたらおしまいだからね」




 ストラミネアを案内役に、山を越えて進んでいく。


 ストラミネアの探知は魔力のあるものの位置を一方的に調べられるので、こちらが気取られる心配はない。


 明らかにこれしかないという巨大な魔力反応があったとのことなので、それに向かって進んでいるところだ。

 人里からはかなり離れている。


「単純な魔力量なら私よりも上ですね」

「ヒュドラの類なら、それがほぼ再生能力に向かうんですよね。ストラミネアより上となると……」

「一息に殺しきらないと、いくらでも再生するだろうね」


 ストラミネアがなんとかできる範囲を超えているかもしれないな。


「あの山を登ったら見えそうですね」

「チアがいっちばーん」


 尾根まで登りきったチアが、ぽかんとしている。

 追いついて、チアの見ている方に視線を向ける。わたしにもそれが見えた。


「……縮尺バグってない、あれ?」

「ロロ様の言ってる意味はわかりませんが、言いたいことはわかります」


 バハムートを除けば、今まで見てきたどの巨人や竜よりも大きい。

 首は八じゃなく、十以上あり、木をなぎ倒しながら移動している。


「家でも一飲みですね……」

「木の大きさから見て、大体の大きさが……うーん、ヒュドラだし、首一本でも残ったら余裕で復活するんだよね。魔法で吹き飛ばすにしても、残ってる魔石じゃ厳しいかもしれないな」


 たしかに、少しくらい腕が立つとかまったく意味をなさないだろう。そういうレベルの相手ではない。

 これはもうなんというか、怪獣大戦争だ。


「ストラミネア、なんとかなりそう?」

「全魔力を込めた一撃でまとめて全ての首を切り落とせれば……というところでしょうか」


 なかなか厳しそうな条件だな。

 ストラミネアの言い方的には、そこまで条件を整えてもできるかどうかかなり分が悪い賭けのようだ。


 とにかく大きいのだ。

 そして、間違いなくウロコは硬く厚く強靭だろう。

 おまけにそれを破って傷を付けても、おそらくあっという間に回復する。


「普通に戦えば、私の魔力と大蛇の再生力、どちらが先に尽きるかの勝負になると思われます。単独では倒せません」


 わたしの魔法を除けば、こちらの最大戦力になるストラミネアにも難しい。

 大規模な殲滅魔法を使うには魔石が心許ない。

 つまり、現状わたしたちだけでは大蛇を倒すことはできないということになる。


 うーん、困ったな。

 っていうか、これ普通に日国の危機だよね。

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― 新着の感想 ―
[一言] ヒドラなら首の切り口焼いてメインの首埋めて退治だし、ヤマタノオロチなら酔って寝たところを切り刻むんだけどどっちも無理よね
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