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129  白狐と我慢大会

「ロロちゃん、どうするの?」

「服が脱げちゃうと怒られるかもしれないし、引っ張り出すんじゃなくて他の手でいこうか」


 尻尾を無理矢理引きはがしたりとか、ちょっと強引すぎるかもしれない。

 特殊な空間だし、どういう素材なのかわからないけど、コタツが壊れたりしても困る。


「コタツに入っていられないように、私がコタツごとひっくり返してみましょうか」


 ストラミネアが言って、力をこめた。

 風がバタバタと激しく吹き付けたけど、コタツはまったく動かないままだ。

 寒いらしく、コタツから首だけ出している白狐が目を強く閉じた。


「あれ、動かない?」

「何度も移動させようとしたから、何かしたのかな」


 さっきむにゃむにゃ言ってたから、あれかもしれない。


「ちょっとやり方を変えてみよ。寒くてコタツから出てこないわけだから、部屋を暖かくすればいいかも」


 無理矢理引っ張り出すよりも、自分で出てきてもらおう。

 北風と太陽作戦だ。


 魔石を使っただるまストーブを複数置いて部屋を暖める。

 部屋が暖かくなってくると、丸まっていた白狐がだんだん伸びてきた。

 上着を着たままだったわたしたちも、ようやく上着を脱ぐ。


 白狐もコタツの中が暑くなってきたらしい。

 うつぶせになったり、横になったりしながら、だんだんコタツから這い出てきた。


 それから、コタツの上にお酒を注いだ杯を置いてみる。


 今までの感じからして、大体お稲荷様はみんなお酒が好きだから、これでどうかな。


 匂いにつられた白狐が、鼻をふんふんいわせながら座る体勢になって頭をコタツの天板の上に乗っけた。

 これで、ようやく上半身まで出てきてくれた。


「ちょっと服を直すので、あっちを向いていてください」


 着崩れて、色々と危うい感じになっていた白狐の服をおりんが直してくれた。

 それから改めて口元にお酒の杯を近づけてみる。


「はい、白狐様」

「ん~」


 くぴくぴっと飲んで、少しすると目を閉じたまま白狐がむにゃむにゃしながら続きを催促した。


「もっと~」


 くぴくぴ。


「もっと~」


 くぴくぴ。


「ロロちゃん、チアがやるー」

「いいよ」


 面白そうだと思ったらしい。

 しばらくチアが飲ませたあと、白狐のセリフが変わった。


「お腹すいた~」 


 ここは、外に出たくなるように温まる料理だな。

 鶏しょうが鍋にしよう。


 奥の方にあった台所を借りて鍋を作る。


 完成した鍋を取り分けて鼻先に置いてみると、ふんふん鼻を鳴らしてから目を閉じたままレンゲで食べ始めた。


 匂いで判別しているみたいだ。

 器用だな……。

 ここまでしても、白狐はまだ半分眠ったままだ。


「チアも食べていい?」

「わたしらもご飯にしようか」


 白狐の横で一緒に鍋を食べる。


「ごちそうさま~」


 半分寝ているのに礼儀正しいお稲荷様だな。


 部屋は魔石ストーブで暑くなり続けている上に、鍋の効果でますます暑くなってきた。


「あつい~……」

「ほら、外に出たら涼しいですよ」

「いや~。コタツがいいの~」


 たくさん食べて満腹になった白狐がまたコタツに突っ伏した。


「いいんですか?」

「暑くなってきてるし、そろそろ限界じゃない? 我慢比べだね」

「私ももう結構キツいんですけど……」

「てか、なんでわたしたち鍋を食べたんだろ……」

 

 白狐用に作ったしょうが鍋だぞ。

 チアはともかく、わたしとおりんは暑くなるに決まってる。

 アホじゃないの。


 目の前で白狐が食べてておいしそうだったのと、多めに作っていたせいもあって、ついつい食べてしまった。


 わたしは我慢できず、更に服を脱いで薄着になる。

 それでも汗がダラダラ出てくる。

 おりんも脱いでいたが、チアだけは平気なのでそのままだ。


 なんかもう我慢大会みたいになってきたな。

 部屋を軽く暖めたら出てくるかなくらいのつもりだったのに。

 もうここまできたらいくところまでいってやろう。


 薄着になったわたしたちも、暑くて滝のように汗をかいている。

 水を飲んでも、はしから汗になっていく感じだ。


 白狐も薄着だけど、コタツに入ったままの上に、お酒を飲んでいた分わたしたちよりもっと暑いはずだ。


「白狐様、外は涼しいですよ~」

「コタツから出てー」


 そのまま更に暑さに耐えていると、ついに白狐が音を上げた。


「あつ~い!」


 白狐がコタツから完全に出てきた。


「あっ」


 汗で濡れた服が張り付いて、体のラインが出てしまっている。


 おりんが慌ててわたしの前に立って視線をさえぎった。

 そのおりんも、スカートまで汗が染みてお尻に張り付いている。


 白狐はそのまま外に飛び出して行ってしまった。


「あっ、あのまま出ちゃった!」


 白狐を外に出すことしか考えていなかった。

 あの状態で外に出るのはマズい。あんまり人様には見せられない姿だ。

 境内に誰もいないといいんだけど。


 追いかけてこちらも外に飛び出した。


「うわー、涼しー!」

「にゃー! ロロ様、待ってください!」


 体の熱が一気に引いていく。

 風が冷やっこい。

 白狐もすぐそこで風にあたっている。


 境内には、村に来た時に会った兄妹の子たちがいた。

 子供だからセーフ? アウト?


「あれ、お姉ちゃんたち。白さま、起きたの?」


 白狐なら目の前にいるけど……あ、見えてないのか。

 よかった。セーフだったみたい。


「お姉ちゃん、服、服!!」


 女の子が男の子を目隠しした。


「へ? あっ!」


 わたしの服も汗だくになったせいで濡れて張り付いていた。

 まあまあ透けちゃってるな……。


 お嫁に行けないってほどじゃないけど、個人的にはあまり人に見せたくない格好だ。


「待ってって言ったじゃないですか! ロロ様、早く中に戻ってください!」

「いや、おりんもだからね」

「え? にゃにゃっ!?」


 おりんはおりんで透ける感じの服ではないのだけど、白狐みたいに張り付いて体のラインが出ている。


 体もいい感じに冷えていたので、見えない白狐は放っといて、木の陰に入るとすぐにチアのいる部屋に戻って二人とも服を着替えた。


「おりん、早く洗浄かけて」

「ロロちゃん汗くさーい」

「わかってるから言わないで」


 それからすぐに白狐も戻ってきた。

 濡れていたはずの服は、もう乾いて普通の状態に戻っている。


「こんにちは~。どちら様かしら?」


 そういえば、勝手に上がり込んだんだった。

 天狐に頼まれて起こしにきたことを伝えて、あいさつをする。


「あの……白狐様、濡れていた服は?」

「この中だと体があるように見えるわよね~。でも、私本当は肉体がないから服も着てないもの~」

「体がなくても、外に出ると涼しいんですか?」

「その辺は、体があった時の癖というか、思い込みみたいなものだから〜。感覚的には本当に暑かったり寒かったりするし、汗をかいてたりもするのよ。でも本当の本当は違うの~」

「そういうものなんですか……」

「そういう感覚を残しておこうと思ってるからね~。ほら、私、豊穣神だから」


 神様としての仕事内容的に、気温の感覚なんかはたしかにあった方が都合がよさそうだ。

 わりかし真面目らしい。


「起こしてくれてありがとね。天狐様は起こし方がとっても乱暴なのよ~」

「なんとなく想像できます」


 あの天狐だもんな。

 でも、わたしたちの起こし方も大概だったと思う。

 天狐はいったいどんな起こし方したんだ。


「十年寝てたくらいでひどいわよね~。それ以来、毎年春になると起こしにくるのよ~」

「寝すぎじゃないですか?」


 あんまり真面目じゃなかった。

 単に暖かくしてごろごろするのが好きなだけなんじゃ。

 ああ見えて天狐も結構苦労しているようだ。


 せっかくなのでコタツを囲んでお酒をすすめる。

 さっきは寝ながら飲んでいたからね。


「おいしいわね~。もっとちょうだい」

「日国の神様って、みんなこうやって神社とかに住んでいるものなんですかね」


 今のところ、会った稲荷神はみんなそんな感じだった。

 他の神様も同じなんだろうか。


「そうでもないわよ~。私たち稲荷神は天狐様の影響でやってる者が多いけど~」


 天狐がやってるからか。稲荷神のボスだもんな。

 そもそもなんで天狐がやっているのかわかんないけど。

 お酒が飲みたいからとか?


「天狐様は大昔にこの国が荒れ果てた時に、大地神様にお願いされて神になったの。土の力を取り戻し、緑豊かな土地に戻すためには実際にこの地にいるべきだって思ってる方だから~」


 わりと真面目な理由だった!

 修行をつけてくれようとしているのはお酒目当てかな、とか勝手に思ってたけど、真面目に異世界の知識の方なのかもしれない。


「さて、いい気分になったし、一仕事しようかしら~」


 白狐が外に出るのについていく。


 外にはまださっきの子供たちがいた。


「お姉ちゃんたち、どこに行ってたの?」


 うーん、なんて答えるべきか。


「それっ、暖かくなあれ~」


 白狐が言うと、南からの風が吹き抜けた。

 まだまだ涼しい風だけど、冷たいってほどではない。


 これって春一番ってやつ?

 今この瞬間、北国に春がきたらしい。


「春の風だ!」

「お姉ちゃん、本当に白さま起こしたんだね! ありがとー!」


 みんなに知らせにいくと言って、二人の子供たちはあっという間にいなくなってしまった。


「じゃあ、わたしたちも行こうか」

「またいらっしゃい。緩んでいるから、山を通るのなら雪崩に気を付けてね~」


 手を振る白狐に見送られて、わたしたちは北にある神社をあとにした。

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