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124  遊びたがりの金狐


 食事のあとはすぐにみんな眠ってしまったので、次の日の朝にお風呂に入った。


 魔術で洗浄だけでもいいんだけど、山の中で寄生ミミズを駆除してまわったので気分的に入りたい。


「これ、必要?」

「黒狐姉様、そのまま入ったらお湯が汚れるじゃないですか」


 チアと二人がかりで黒毛の狐を泡まみれにする。


 チアは毛の感触をたしかめながらワシャワシャしている。楽しそうだな。

 三人がかりで洗うほど黒狐は大きいわけでもないし、おりんはネコ用湯船でのんびりしている。


 黒狐は洗われている間は嫌そうにしていたが、そのあとお風呂につかると目を細めてうっとりしていた。

 お風呂狐だ。


「黒狐姉様、かわいい」

「あ……ありがと」


 狐がお風呂に入ってのんびりしているのは、ファンタジーというより、日本の昔ばなし感があるな。

 まだぎりぎり冬毛なので、乾かすとモフモフのふわふわになっていた。


 最初会った時はまさに山の神といった、威厳を感じさせる姿だったのだけど……。

 今、お風呂から出てソファで寝転んでいる黒狐にタイトルを付けるとしたら、『失われた野生』といった感じだ。

 かわいいけど、威厳はない。


「黒狐さんの毛、柔らかーい」


 チアにさっきからめっちゃ撫でられてるし。

 大丈夫かな。


 黒狐が私の心配そうな視線に気付いたらしい。


「気にしない。子供のすること」


 そう言って小さくあくびをした。




 黒狐と別れてからは、まず遺跡もどきに向かった。

 おばちゃんにお酒の入っていた入れ物を返して、お礼を言う。

 黒稲荷様に飲んでもらったと言うと喜んでいた。


 まあ、実際に神様に飲んでもらって感想まで聞くなんてこと普通はないだろうからな。


 それから町に立ち寄り、新酒も含めてお酒を多めに買った。

 今回は(おり)と分けただけだったけど、せっかくなので錬金魔術で味の調整とか色々試してみたい。

 黒狐にもまた改めて加護のお礼をしたいので、それまでに完成度を上げておこう。


 次の目的地は、金狐のいる神社だ。

 銀狐のお社への道すがらで、ごくたまに銀狐が来ることもあるので、念のために顔を出していったら、と黒狐に言われたのだ。


 魔道具の靴を使うので、わたしたちの移動速度は速い。

 それでも、めったにないことを見事に引き当てて行き違いになりました、というのも嫌なので素直に立ち寄ることにした。


 田畑の広がる里山を抜けて進んでいく。

 来たことがないのに懐かしい感じがする。


 昼過ぎに着いた、大きな町にある神社はなかなか立派だった。金穂(かねほ)稲荷(いなり)、と看板が掲げられている。

 山中にある黒狐の社は質素だったからな……。


 境内で遊んでいた子供たちに聞いてみる。


「お、お稲荷様!?」

「ううん、お稲荷様に加護をもらった狐獣人。お稲荷様って言っても、ここの神社のじゃないよ」


 立派な神社でも神主さん的な人はいなくて、持ち回りで管理しているらしい。

  黒狐からは、金狐は見える子だと聞いていたけれど、誰かが見えるわけでもないし、社でも何も起きない。

 子供たちが近くにいるせいもあるのかもしれない。


「一応お参りはしたし、とりあえず明日もう一度来てみようか」


 それを聞いた子供たちが寄ってきた。

 まあ、わたしも子供だけど。


「もう用事は終わったのか? 一緒に遊ぼうぜ?」

「他の里はどんな遊びしてるの?」


 よその里の子でもないんだけどね。

 追いかけっこやかくれんぼばかりという子供たちに、せっかくなので新しい遊びを提供する。


 影踏みや氷鬼、それから缶蹴り……。


「チランジア、見っけ!」

「ひひひ、はーずれ! そら、鬼さんとってこーい!」

「なつめ!? 服変えたのか!!」


 遊んでいると、いつの間にか木の影から見ている金髪の獣人の子が目に入った。

 この町にも獣人がいたんだな。


「見てないで一緒にやろうよ!」


 チアが誘うとびっくりした顔で自分の顔を指差した。

 驚いた瞬間、一瞬、体が透けて反対側が見えた気がした。

 あれ? 尻尾も普通の犬系の獣人のものより大きい。

 

 戸惑っているその子の手を引いて、チアが連れていく。


「お前もロロみたいな感じか? 名前は?」

「え? ……キ、キンコよ」


 キンコ……って金狐(きんこ)! 金穂(かねほ)稲荷(いなり)だ!

 子供のお稲荷様だったのか。


 楽しそうな騒ぎにつられて出てくるとか、ある意味では日本のえらい神様っぽい。


「おーい、ロロ! 他にどんな遊びがあるんだ?」

「ん? えっとー……」


 道具のいらない遊びというと……。


「カバディカバディカバディカバディ……」

「なんであんなの教えたんですか?」

「ちょっと趣向を変えてみたというか……ある意味鬼ごっこの延長だし。あと、一応ちゃんとしたスポーツだからね」


 本気でやってるプレーヤーが聞いたら怒られるぞ。

 わたしは最低限の基本ルールくらいしか知らないけど。


「次はチランジアね。今度は止めるわよ」


 真剣な顔をした金狐がメンバーを見回す。

 うん、本気でやっているヒトがここにいた。

 遊びにも全力タイプだったんですね。


「ここは止めたいよな」

「じゃあ、金狐(きんこ)さ……キンコちゃんはこっちで……」

「そうね。ロロは私と手をつないでて」


 チアを陣地の奥に誘い込む。

 さっきから狙いどころがずっと同じなので、フェイントを混ぜてきても本命はバレバレだ。


「今だ!」

「チア、待ちなさい!」

「んぎゅっ」

「よっしゃ、つぶした!」


 チアは身軽だし馬鹿力だけど、体重はむしろ軽い方だ。

 守備側が狙い通りに捕まえた。


「な、なんで……」

「キンコちゃんばっか狙ってるからよ」

「お前尻尾さわりたいんだろ」

「さすがにわかるよ」

「だって、モフモフがそこにあるから……」

「……少しくらいなら、あとで触らせてあげるわよ」


 子供たちは何をやってても楽しいお年頃だけど、お稲荷様も一緒になっていろんな遊びで盛り上がる。


「ご本人は楽しそうですけど、声をかけれませんね」

「うん……金狐様にあいさつする暇がないね」


 誰かに聞かれると困るので金狐呼びしておく。


 こっそり二人で話をするチャンスがなかなか作れない。

 そして、結局そのまま夕方になってしまった。


「あ、そろそろ帰らないと」

「ホントだ。また明日なー」

「明日も遊ぶの!?」


 あれ? 金狐、明日も遊ぶ気?


「朝は水汲みとか仕事があるから、昼からなー」


 そして、子供たちがいなくなったあとに声をかけようと思っていたのに、金狐の姿は一瞬目を離した隙に消えてしまっていたのだった。

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