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123  黒狐の加護

 さすがにそのまま寝るわけにもいかないので、黒稲荷様の社まで根性で歩く。

 ここまで疲れると、疲れすぎて逆に目が冴えてきた感じがあるな。

 なんか変な脳内物質とか出ていそうだ。


「結局、あの魔物がどうして発生したのかわからない。不満」

「渡りをする鳥に寄生してとか、他の国からの持ち込みなんかじゃないですか? 近くにある里は焼き物の名産地らしいので、遠方から来る者もいるでしょうし」

「……なるほど。外からか」


 社に着いて、黒稲荷がふり返る。


「いつもは私一人だから、狭いかもしれない」


 ワンルームくらいのサイズだからな。

 三人と一匹なので、一晩くらいは困らない大きさだとは思うけど。


「ロロちゃん、おうちを出す?」

「うん。この辺、借りますね」


 社の周りなら十分な広さがある。


 ストレージから、ログハウスを取り出した。

 こういう時に便利かな、と一個作って入れておいたのだ。


「なに、これ……」

「家です。便利なんで」


 わたしたち三人用に元々作っているので、黒稲荷が増えても広さには余裕がある。

 目を丸くしている黒稲荷を家の中、テーブルのある方に案内する。


「黒稲荷様はこちらの椅子に……あ、高さが足りないか」

「おひざ、おひざ」


 テーブルについたチアが、ポンポンと太ももを叩く。

 あれは自分がモフりたいだけだな。

 

「不要」


 言うが早いか、黒稲荷様がおかっぱの高校生くらいの女の子に姿を変えた。


「ヒトの姿にもなれるんですね」

「でも、山で二本足は不便」


 少し得意そうだけど、淡々としているのは変わらないな。

 表情もそんなに変化がない

 変化(へんげ)したからというより、元々の性格だろう。


「黒稲荷様は、パンは大丈夫です?」

「米の方がいい。あるから取ってくる」


 一度外に出て、米の入った袋を持ってきた。


「じゃあ、鍋で炊きますからそれまでこの辺を」


 魚の塩焼きやチーズなどツマミになるものや、食べでがある揚げ物などストックしていた食事を色々と並べる。


「こんなにたくさん、もうできている料理が……」

「あと、山に行くと聞いた里の者から……あれ、これ濁り酒か、どぶろくかな」


 御神酒(おみき)といえば、清酒のイメージがあるな……。

 まあ、別に何でもいいんだろうけど。


 (おり)と分ければいいのか。

 試しに錬金魔術で分離する。


「どうぞ」

「ありがとう。今、何をしたの?」

「えっと……どう言うんでしょう」


 見た方が早いかな。

 お酒を注ぐ。

 

「上澄み酒? 珍しい。これ、好き。ありがとう」

「そうそう、上澄みですね。今のは、このお酒全部を上澄み酒に変えました」

「そうなの? ……人の術も色々ある」

「結構、くせが強いですね……」


 ちょっとだけ舐めてみる。

 あんまりいいお酒ではないな。

 まあ、前世のお酒と比べるのは酷か。 


「お酒、くわしい?」

「特別詳しくはないと思います。飲んだことのあるお酒の種類は、多い方だと思いますけど。あ、これもよかったら……。大陸の葡萄酒です」


 呑み道楽のドワーフじゃあるまいし、神様に任せろと胸を張るほど酒飲みではない。

 話している横で、チアはすでに勢いよく食べ始めている。

 お昼も食べていないからな。


 黒稲荷様はご飯が炊けるのを待っているのか、食が細いのか、のんびりと食事している。


「それで、何の用でここに来たの?」

「ああ、そうでした」


 やっとここに来た本題に入れた。

 黒稲荷に日国に来た事情を説明する。

 その間も、チアのお腹が物理的にふくらみ続けている。


「先祖の加護……なるほど。ちょっと調べさせて」


 黒稲荷がわたしの頭に手を置いた。


「……うん、わかった。もしかしてと思っていたけど、やっぱり。これは、銀狐(ぎんこ)ちゃんの加護」

銀狐(ぎんこ)?」

「私も黒狐(こっこ)という昔からの名がある。稲荷同士呼ぶときの名は、人間の呼ぶ長い名前とは別。銀狐ちゃんは、私の姉弟子。会える場所を教えてあげる」

「ホントですか!?」


 こんなに早く探せるとは。

 ここを訪ねてよかった。


「もう一つお礼に、私の加護」


 何かがスッと入ってくる感じがしたけど、それ以外は何も変わりはない。


「もし銀狐ちゃんに加護を返しても、これで耳も尻尾もなくならない。その時は色が黒に変わるかもしれないけど」

「いいんですか!? 黒稲荷様、ありがとうございます!」

「ロロナたちが来たおかげで解決したから」


 おりんの耳をちらりと見る。

 おりんの毛色は先っぽが少しだけ白いので、厳密には真っ黒ではないけど、まあ黒猫といっていい。


「その時はおりんとお揃いだね」

「ロロ様は今の色の方が似合いそうですよ」


 それからご飯が炊きあがると、やはり待っていたらしく黒稲荷の箸が進み始めた。

 食が細いわけではなかったようだ。


 元の狐のサイズから考えると、めちゃめちゃ大食いなんじゃないか、この(ひと)


 わたしも、前世ぶりに懐かしのお米だ。

 日本人の血が騒ぐ。

 焼き魚とご飯!


 もっと早く来ればよかった。

 まあ近くに里が出来てたとかもさっぱり知らなかったわけだからどうしようもないけど。

 数日間は歩かないと村なんてない、くらいの想定はしていたし。


 チアも普通にお米を食べているな。

 おりんは少しだけ味見したけど、パンの方がよかったみたいだ。


「ありがとう。こんな豪華な食事は久しぶり」

「いえいえ。黒稲荷様もお疲れ様でした。せっかくなのでたくさん食べてください」


 しばらく食事の時間が続き、黒稲荷はまだのんびりお酒を飲んでいる。

 たくさん食べたチアは、もうソファに転がって寝息を立てていた。

 おりんも椅子の上でネコ姿になってうとうとしている。


 酒の杯を片手に、黒稲荷が頭に手をのせてきた。


「忘れてた。加護の(パス)の確認がしたい。……試しにおいしいお酒を一つ思い浮かべて」


 おいしいお酒……?

 日本酒系ですぐ思い出せる銘柄を思い浮かべる。


「うん。大丈夫そう」


 それから無表情で杯に口をつけて、ほうっと息をついた。

 ちょっと色っぽい。


 かすかに知っている匂いが漂う。

 あれ、今もしかして……わたしの思い浮かべたお酒を作った?


「内緒ね」


 指を口元にあてて、黒稲荷がかすかに口の端を釣り上げた。


 ホントに今のは確認のためだったのかな。

 さっき飲んだことのあるお酒は多い方って言ったので、知らないお酒を飲んでみたかっただけじゃないだろうか。


「ロロナは見た目通りの年じゃない? (パス)がつながった時に、少し見えた」

「そうですね。前世の記憶を持ってる転生者で、一応三百年以上生きてます」

「三百……もう少し正確に」

「ええと……魔法使いと異世界人と今で、合わせて……三百七十ちょっとくらいですね」

「勝った。私はもうすぐ三百八十」


 楽しそうに黒稲荷が笑う。


 ……もしかして、酔ってる?


「黒稲荷様の方が少しお姉さんですね」

「お姉さん? お姉ちゃん……うんうん。ロロナは神になりたい?」

「はい。魔法使いとして歩いてきた道の先にあるのが神だったって感じで……」


 それもさっき加護の確認の時に見られたのだろう。


「そう。稲荷たちは私のことを黒狐(こっこ)と呼ぶ。ロロナもすぐにそうなる。だから、今からそう呼ぶといい」


 ええと、応援してくれているってことかな。


「ありがとうございます……黒狐様」

「お姉ちゃん」

「……黒狐……姉様」


 お姉ちゃんだと、孤児院で一緒に育ったルーンベルやミラドールのイメージが強いし、ちょっと馴れ馴れしい。

 お姉様とかなら、女子高のお嬢様学校で先輩とかを呼ぶのに使いそうなイメージだからまだ抵抗が少ないかな。

 もちろん、そんな学校に通っていたことはない。


「……姉様。うん、これはこれで悪くない。困ったことがあったら呼ぶといい。姉様が助けてあげる」


 ……やっぱり酔ってるような。

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[一言] 色んなお稲荷様の加護をもらって色とりどりの尻尾を持つ九尾に?
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