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122  寄生生物を退治する

「さて、駆除と治療法を考えないといけませんね」

「体から追い出せるなら、あとは私が治す」


 黒稲荷から心強い言葉をもらった。さすが神様。

 体から追い出してもダメージが深そうなので助かるところだ。


 寄生されたものは、体中いたるところに寄生ミミズが入り込んでいる。 

 治療も、わたしの知ってるような虫下しを飲ませてなんとかなるってレベルではなさそうだ。

 本格的な薬となると、本職に任せないとどうにもならない。


 仮死状態にして死んだと思わせるとか……?

 でも卵もあるわけだし、それで全部きれいに出ていってくれる可能性は低いか……。


「ロロ様、魔力を枯渇させるのはどうです?」

「ああ、なるほどね」


 いい案だ。

 撫でるとおりんが照れた。


「昔、ロロ様も使ってた手ですよね」


 魔物には、魔力がある前提で体を維持しているものもいる。

 強制的に魔力を枯渇させれば不具合を起こしたり、今回みたいに原始的な生物ならそれだけで死ぬ可能性もある。


「実験してみようか」


 魔力を吸い上げる術式を描いた。

 これで、寄生ミミズの魔力を涸らす。


 完全に枯渇させる場合は、これに加えて周囲の魔力をシャットアウトする結界術を組み合わせるが、微量しか魔力を持たない小さな魔物なのでこれで十分だろう。


 まずはストラミネアが捕まえていた寄生ミミズに試してみることにする。


 魔力をすべて吸い尽くされた寄生ミミズが暴れ出した。少し経つとそのまま動かなくなり、体が溶け始めた。


「やった!」

「溶けた?」

「体が維持できなくなるみたいですね」


 溶けた寄生ミミズを、黒稲荷が肉球にのせた。

 うわ……素手でよく触るな、あんなの。


「うん、毒などはない。体内で溶けても問題ないと思う。……なにか失礼なこと考えてる?」

「キノセイデス。ありがとうございます」


 どうやって調べたのかわからないけど、毒の有無を調べてくれたらしい。


 続いて、ストラミネアが浮かせたままのせいで、さっきから空中を必死に泳いでいるネズミたちを対象に術を発動させる。


 魔神の眼を使い、体内で寄生ミミズも卵も溶けて消えたのを確認した。

 黒稲荷がネズミたちに肉球をかざした。


 治療したネズミの匂いを嗅いだり、鼻でつついたりして黒稲荷が確認をしている。


 方法はわかったが、山の広範囲に感染している生き物がいるからな……。

 具体的にどう治療していくか。


「時間がかかりますが、魔力を枯渇させる薬を作って手分けして飲ませていきましょうか?」

「いや、私が山の生き物すべてを呼び寄せ、今の術を使ってまとめて体内の魔物を殺し、そのまま回復させる。念のため、あとでもう一度術を見せて欲しい」


 呼び寄せる? そんなことまでできるのか。

 まあ、神様だもんな……。


 こういったトラブルの解決方法についてはこちらに一日の長があったようだが、当然ながら黒稲荷の方が能力は圧倒的に上だ。

 ある程度長期戦になると予想していたのに、まとめて一気にやってしまうつもりらしい。


「あとは、水中にいる寄生ミミズの駆除ですね」


 治療してもまた感染すれば意味がない。


「それも術の範囲を広げてまとめて殺すので問題ない……と言いたいが、すでにそれなりに神通力を使ってしまっている。治療まで考えると、この湖がせいぜい。可能なら協力をお願いしたい」


 せいぜいと言っているが、湖は生半可なサイズではない。

 万全ではないのにそれだけのことをできるとか、さすが神様だ。

 万全だったら、一人で全部解決してしまえたかもしれない。


「残りの生息地の駆除は問題ないと思われます」

「ストラミネア?」

「上空から観察したところ、この湖を除けば分布範囲はそれほど広くありません。手分けして駆除すれば一日あればなんとかなるでしょう」

「手分けって言っても、魔力を涸らすための術式はわたししか使えないけど」


 手分けのしようがない。

 今から教えるわけにもいかないし。


「普通に殺すだけなら、私やおりんも可能です。黒稲荷様、水生生物に被害が出ますが、かまいませんね?」

「状況が状況なので、仕方がない」


 黒稲荷様からお許しが出た。


 ストラミネアの言う通り、魔力枯渇させなくても単純に駆除すればいいんだった。

 別に魔力を涸らすのにこだわる必要はない。


「わたしとストラミネアはともかく、おりんも? あの虫、魔力が弱すぎてピン打ちでの探知じゃきついでしょ」


 わたしは魔神の眼の力を喚ぶことができるし、ストラミネアも高度な魔力探知ができる。

 おりんはそこまで精密な探知はできない。


「目星をつけて一帯すべて焼けばいいんですから、水中でも燃やせるおりんの方が私よりも向いてますよ」

「そうは言っても、見えない相手を残さず燃やすのはちょっと難しいにゃ」


 見えない、か……。

 チアを連れて行ってもらえば、代わりに見つけてくれるかな。


「チア、にょろにょろ見える?」

「見えなーい」


 湖を指差したけどチアが首を振る。

 見えないか……いや、ネズミに寄ってきた時は見えていたわけだし、今は泳いでいないんだな。隠れているのか。


 どこに隠れてる? 寄生型の魔物だし……そういえば最初に貝だとストラミネアが誤認してたな。


「ストラミネア、もしかしてこの寄生ミミズ、水中だと貝に寄生してる? もしくは貝殻に隠れてる?」

「なるほど、それで……。すぐに確認してまいります」


 ストラミネアが飛んでいって、すぐに帰ってきた。


「圧壊させたところ、中に寄生しているのを確認いたしました」


 ストラミネアが指先ほどの巻貝をみせる。

 いわゆる、中間宿主ってやつか。


「じゃあ、おりんはこの貝を目標に燃やして回って。チアはおりんのフォローでこの巻貝を探す手伝いかな。おおまかな指示はストラミネアよろしく。黒稲荷様も準備はいいですか?」

「問題ない。私は早く片付けて休みたい」


 今まで対応に苦慮してきた経緯もあるのだろう。

 黒稲荷はさっさと決着をつけたいようだ。


「じゃあ、始めましょうか」


 山の中を歩き、地道に住み着いているポイントを回り、寄生ミミズを駆除していく。

 おりんが行った方からは、派手に煙があがっている。

 途中見かけたストラミネアは、川を凍結させたり、圧縮してミンチにしたりしていた。


「あー、疲れた」

「終わったにゃー!」


 駆除作業を終えて、岩の上でひっくり返った。

 横でおりんが伸びをする。


「お疲れさまでした……おや?」

「ストラミネア、どうかした?」

「取りこぼしがありますね。おりんの火で燃えるだろうと放っておいたところですが、そのまま残ってしまったようです」

「ストラミネア、よろしくー」


 わたしはもう一歩も動きたくない。


「一か所ではありませんから、ロロ様もお願いします。放っておくとまた駆除範囲が広がります。早く行きましょう」

「……うぐぅ」


 反論の余地がなかった。

 また山の中を移動して、わずかな生き残りを始末する。


「こ、今度こそ終わった……」

「おかえりなさい。私の取りこぼしなのに、すみません」

「ううん。探知できないのに、おりんはよくやった方だと思うよ」


 取りこぼしがあってもストラミネアと二人でやるよりは断然マシなのだ。


 もう、このままここで寝てしまいたいくらいだ。

 お腹も減っている。

 なにか食べたいけど、食べて満腹になったらその瞬間に気絶しそうだ。


「こちらも終わった……」


 黒稲荷も疲れた様子で、ふらふらしながら姿を現した。


「え? 終わり……ですか? 山の端に、わずかに感染している動物がいるようですが……」

「山のものすべて集めたはず。力不足で声が届いていなかったものがいた……? でも、もう限界」


 ぱたりと黒稲荷が倒れた。


「ストラミネア……」

「では、わたしが捕まえますので、ロロ様は魔力を枯渇させるのをお願いしますね」

「うぐぅぅ……」


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