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116  両親にあいさつ

「いってらっしゃい。気をつけてね」


 あいさつを済ませてから、ルーンベルをはじめとした孤児院のみんなに見送られてナポリタを出発し、王都へと舞い戻った。


 冒険者ギルドに寄ってカードを一時休止扱いにしてもらう。


「……はい、じゃあこれでもうギルドカードは使えないわ。町に入るときには税を払って。日国(ひのくに)には冒険者ギルドはないから仕方ないわね」

「ありがと。じゃあ、またね」

「ええ、気をつけていってらっしゃい。無事に帰ってくるのよ」


 さて、最後に両親のところだな。

 まだ父の第一夫人は到着してないはずだ。

 普通に訪ねて中に入れてもらう。


「こんにちは、おじゃまします」

「おかえりなさいませ、クレアお嬢様、チランジアお嬢様、りんお嬢様」


 執事さんに迎えられて中に入る。


「お嬢様……。なんか、こういう扱いされるのはものすごく久しぶりですね」


 おりんが戸惑いと恥ずかしいのとまんざらでもないのが一緒くたになったような、微妙な顔をする。


 まあそんな呼ばれ方するのニ、三百年ぶりだろうからね。

 この場で一番年上のお嬢様だな。

 あとが怖いので、もちろん口には出さない。


 父と母がやってきた。


「そろそろって前から言ってたけど、明日出発しようと思ってるの。もし手がかりが見つからなかったら適当なところで一回帰ってくるつもりだけど」

「そう……気をつけていくのよ。チランジアちゃんもおりんちゃんもね」


 両親が二人とも寂しそうな顔になった。

 それから、母がチアの頭をなでながら話しかける。


「いい? チランジアちゃん、生水を飲まないのよ。それと、知らない人についていかないように。あと、お菓子をくれるって言われても付いていっちゃいけませんからね」

「お母さん、なんでチアだけそんな扱いなの?」

「クレアは詐欺師とでも騙し合いができそうだけど、チランジアちゃんは悪い人に簡単に騙されちゃいそうだもの……」

「チアは悪い人も改心させるくらいにいい子だから大丈夫だよ」


 母と一緒にチアを撫でる。

 おりんが半眼になって、父は横で唸り声を出した。


「姉バカですかにゃ」

「クレア、それはいいすぎじゃないか? セレナ、君もなるほどみたいな顔をするんじゃない。そもそも、娘に詐欺師とやり合えるなんて言い方は……」

「でも、できそうよ」

「できるでしょうね」

「チアもできると思うー」

「やめなさい」


 いい時間なので、テーブルの上に作り置きしておいた玉子焼き入りのクラブハウスサンドとキノコとエビのアヒージョ、あっさりめのコンソメスープを並べていく。


「お昼用の軽食を作ってきたから、使用人さんたちのも全員分あるから一緒に食べよ」

「クレアの手料理……!」

「お嬢様の手作り……!」

「たいしたものじゃないし、やりにくいからいちいち大げさに反応しないで。あとお父さん、なんでちょっと微妙な顔してるの?」


 父は一度嬉しそうな顔をしたものの、少し渋い顔をしている。


「あ……うむ。可能なら、クレアには読み書きやダンス、歴史や音楽なんかを学ぶ機会も与えたかったと、ちょっとな……」

「坊ちゃん、いい男をつかまえるのに得意料理も二つや三つあってもいいじゃないですか」


 屋敷の料理人のおばちゃんが豪快に笑い飛ばした。


「……わたし、一応全部できるよ。ダンスは下手かな。歴史も最近のところは怪しいけど、語学とかは得意な方だと思うし、ピアノなら少し弾けるよ」


 ダンスは元々得意なタイプではなかった、基本的には男性パートの方なのでうまくは踊れないだろう。


「クレア、無理しなくていいのよ」


 子供の強がりか、手遊び程度のものだと思ったのか母がとりなすようにわたしの頭を撫でる。


「やってみせようか?」


 ピアノはないが、今いるサロンにはオルガンが置いてある。

 わたしの住んでるところのはピアノだったんだけど、宰相サービスしすぎだよね。あれ絶対高いやつだし。


「そんなに弾けるわけじゃないけど……」


 一応習い事の定番なので、少しだけど、習っていた時期はある。


 最初はエリーゼのために。

 転生した時の再構成のおかげで記憶を引き出せるので、一番うまく弾けたときと同じように弾ける。


 少し難易度を上げて、ショパンの子犬のワルツ。

 うん、問題ないな。


「すごいわ」

「聞いたことのない曲だが……本当に弾けているな」


 最後に好きだったゲームのテーマ曲の弾き語り。

 テンポの早い曲ではないけど、それでも指が回らなくなっていく。


「お嬢様お見事でございます」

「すごいじゃない、クレア! 今のは何の曲だったの?」


 母に抱きしめられた。


「えっと、ハーフリングの友達とかいるから」

「まあ、そんなお友達もいるの。それで最後のは歌のある曲だったのね」


 久しぶりに音楽に触れた気がする。

 というか、今のところ好きな曲を聞こうと思ったら演奏するしかないんだよな。この世界だと。

 曲としてしか知らないものの再現についてはそのうち何か考えたいなあ。

 記憶からの耳コピとか、わたしレベルにはしんどすぎる。


 屋敷を発つ時には両親に加えて使用人全員まで揃って見送ってくれた。


「じゃあ、いってきます」

「いってきまーす」


 といっても、一度家に帰るんだけどね。




 次の日、わたしたちは獣人の村の近くにある、昔作った遺跡もどきまでやってきた。

 獣人でないチアも連れているので、今回は村には寄らずに直接だ。


「リンカ―ネイト、開けて」


 噴水がズレて階段が出てくる。

 チアが噴水の上のおりんの像を見て不思議そうな顔をした。


「……ネコの遺跡? おりんちゃんと似てるね」

「そうだよー。おりん遺跡だよ」


 地下に下りてストラミネアとの連絡に使った魔方陣があった部屋へ行く。


「ここからですか」

「うん、他の作った遺跡もどきへの転送魔方陣が設置してあるから」


 スタンピードの時の、獣人の村の者だけでも無事に乗り切れる方法というのもこれのことで、この前ストラミネアに確認をお願いしていたものだ。


 周囲の魔力を集めるタイプだから連続で使えるものではない。帰って来るのは向こうの遺跡のもので可能だろうが、二度目はない。


「なかなか無茶苦茶をしますね。どれだけ手間をかけてるんですか……。あとこれ、転移したら土の中ってことはないですよね」


 おりんが不安そうな顔になる。


「そういう時は転移できないようにしてあるから。じゃあ、日国(ひのくに)に設置していた遺跡に飛ぶよ。チア、こっちにおいで。ストラミネアは一応防御結界の準備ね」


 魔方陣を起動すると、わたしたちは大陸から消え、はるか遠くの島国にいた。


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