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114  ナポリタ北の森

「よろしくお願いしまーす」

「あ、ああ……よろしく」


 集合場所の北門前に行くと、もういくつかの冒険者パーティーが集まっていた。ざっと七、八グループくらいかな。


「若い子のパーティーが来るとはギルドから聞いていたが、ホントに……なんというか若いな」


 あいさつを返してきた冒険者が、戸惑いと心配の混じったような声を出した。


「あれ、孤児院の嬢ちゃんたち、どうした? なんだか久しぶりにみたな。今日は外に出れないぞ」


 町を出て以来の門番さんが横から声をかけてきた。


「おっちゃん!」

「お兄さん、な」

「わたしたちも、狩りに参加するんだよ。もう孤児院は卒業して、今はDランクの冒険者だよ」

「なにっ!?」

「大丈夫か? 気をつけろよ。クマは牙ウサギみたいにはいかないぞ」

「これでもオークとか色々普段から狩ってるから」


 心配そうな顔をする二人に手を振る。

 冒険者の一人がそのやり取りを見て尋ねてきた。


「おまえら、ここの孤児院出身なのか?」

「うん。チア、孤児院にいる子たちみんな知ってるよ」

「去年の夏まで住んでたから。採集に出る子たちもいるし、安全にしといてあげないとね」

「そうか……」


 話を聞いていた冒険者が、一度天を仰いだ。


「こんな小さい子が、他の子たちのために……」

「少し前まで守られる側だった子供が……」


 いや、偶然タイミングがあっただけだし、別にそんな感動的な話じゃないんだけど。


 集まっていた冒険者たちの何人かがうなずきあう。


「俺たちの本気を見せてやろうじゃねえか」

「この子たちには指一本触れさせねえ」

「目的が違う!」


 仕事にきたんだよ。

 お姫様か。


「よし、じゃあ二パーティーずつを基本に組んでいくぞ。嬢ちゃんたちの戦い方は?」

「わたしは術師で、この子は剣士。二人ともDランクで、こっちの猫人のおりんはクロスボウと短剣使いのCランク」

「術師か……探知魔術は?」

「わたしはできないけど、おりんはピン打ちが使えるよ」


 聞いてきた冒険者が腕を組んでうなった。


「すまないが、分かれてもらっても問題ないか?」

「別に問題ないよ」


 わたしたちの戦い方に連携といったものはない。

 なんとなくチアが前衛、おりんが中衛、わたしが後衛ではあるが、基本的に戦闘能力の高さに任せたゴリ押しだ。


 ピン打ちの探知魔術が使えるのがおりんの他にもう一人しかいなかったので、人数などの調整もありおりんは別行動になった。


 わたしたちと一緒に行動するのはCランクの五人組のパーティーらしい。

 おりんはCランクなので戦力としてカウントされていそうだが、わたしたちは一番安全そうなパーティーに混ぜられている気がする。


「俺はこのパーティーのリーダーのアーノルドだ。よろしくな。術師の嬢ちゃんは、必要時に後ろから援護してもらう。剣士の嬢ちゃんは術師の嬢ちゃんの側で守ってあげてくれ」


 これは、基本的には後ろで見てろってことかな。


 まあ、端から他のパーティーの戦い方なんかを見るのはチアの経験的にもいいかもしれない。

 ひとまず甘えさせてもらうとしよう。


「フィリフォリア、探知を頼む」


 魔術師のお姉さんが探知魔術を使いながら、わたしたちは森の中を進み始めた。

 森の魔物を集めてしまったりするので、普通の時は使わないが、今回は森の浅い部分の魔物駆除も仕事なので探知魔術が使える。


 探知魔術の使用頻度は、やや多めだ。

 それほど慣れてはいなさそうだな。


 あれはソナー的な魔術なので、慣れ次第で相手との距離や方向を把握する精度が変わる。


「そろそろ近くにいるはずなんだけど……刺激しちゃうから見つけられるなら目で見つけたいわね」


 みんなが立ち止まって周囲を警戒する。

 余計な音が消えたので、わたしも周りの気配を探るのに集中できた。


「向こうの茂みに何か……三匹いますね」

「それね」

「お、小さくてもさすが獣人だな」


 アーノルドが抜刀して、近くの茂みに剣を構えた。


「そこじゃなくて、向こうの倒木の方です」

「え? 向こうって……あれか? あんな遠くのがわかるのか!?」

「獣人なんで普通です。この前組んだ獣人の先輩冒険者は、加護も使ってもっと遠くで見つけてましたし」

「いや……一応言っとくが、獣人でも普通じゃないと思うぞ」


 そうかな。

 わたしが仕事で一緒に行動した獣人の冒険者はカティアくらいだし、加護を持っていた彼女に比べたらわたしの見つけられる範囲なんてたいしたことがない。


「それで、どうする? 適当に石でも投げて追い出すか?」

「適当に追い出すくらいなら、狙えるわたしがやりますよ」


 集中して、ぼやっとした範囲からさらに深く気配の場所を絞る。


 こっち……いや、これか?

 違う……よし、見つけた。

 

 ここだ!


 間髪入れずに三本の石の矢を放った。


 矢を撃ち込んだ茂みがガサガサとゆれる。

 それきり沈黙した。


「手応えはありました」

「反応がないな……。近づいてから、俺が踏み込もう。警戒しといてくれ」


 アーノルドが一度石を投げ込んでから、警戒しつつ一気に飛び込んだが、すぐに動きを止めると振り向いて戻ってきた。

 なぜか、頭を抱えている。


「牙ウサギだった。当たっていたよ。この距離で見えない相手に三匹とも心臓を一撃とか、どう狙ったらこうなるんだ……」

「がんばりました」

「そ、そうか……」


 しばらくそのまま森の奥に進んでいく。


 今度は何かが周りを遠巻きにこちらを見ている。

 うっとうしいな。


「嫌な感じだな」

「探知には何もかからないけど?」


 アーノルドの言葉にフィリフォリアが首を傾げる。


「だろうな、多分オオカミだ」


 魔力のない野生動物なので、魔力を探る探知魔術には掛からない。


「さっきからつかず離れずを保ってますね」

「だよな。隙をみせるのを待っているんだろう」


 チアはわたしの耳をじっと見ている。


「どうかした?」

「さっきから耳がぴくぴくしてておもしろかわいいー」

「変な言葉作らなくていいから」


 周りを探っているからだよ。

 一緒に行動している冒険者たちが、大丈夫かこの子みたいな顔で見てるぞ。


 変化があったのはそれから少しあとだった。

 丘のふもとに差し掛かったときに、丘の上の大きな岩の上に三頭のオオカミが姿を見せたのだ。


「くそっ、あいつらか」

「プレッシャーをかけてるつもりか?」


 バカめ。

 人間風情だと侮ったな。


「倒します!」


 背中を向けかけていた三頭の足元の地面を錐へと変えて、そのまま刺し貫いた。


「なんだ!?」

「チア! そっち二体! そこの木の向こうまで行けば見えるから」


 即座に急加速して飛び出していったチアに左を任せて、右にある少し先の木まで一気に加速して飛び上がる。


「お、いたいた」


 こちらと目が合った二頭のオオカミが唸り声をあげた。

 風の魔術で倒して戻ると、チアもちょうど両手に一頭ずつ仕留めたオオカミを引きずって戻って来るところだった。


「ただいまー。とったどー。ロロちゃん、剣洗ってー」

「はいはい、えらいえらい」


 チアの頭を撫でてから洗浄をかけてあげる。


「お前らな、先に言えよ」

「倒すって言いましたよ。のんびりしてたら逃げられてたじゃないですか」

「そうだが、チャンスがあったら狙う、くらいでもいいから事前に言っといてくれ。一緒に行動してるんだから……フォローができんだろ」

「そうですね、すみません。じゃあ、敵を見たら倒します。サーチアンドデストロイ」

「それは言ったうちに入れないからな」


 アーノルドがため息をつく。


「ねえ、この子たち強くない!? あと、さっきのどうやって飛んでったの? 魔術? それとも魔道具? あと、オオカミ倒したのは?」

「一つずつ言ってください」


 興味津々で尋ねてきた魔術師のフィリフォリアが思案顔になった。


「じゃあ、耳触ってみてもいい?」


 それが最初でいいのか。


「最初に見た時から触ってみたかったのよねー」


 フィリフォリアが耳と、続いて尻尾を楽しそうに触っている。


「下着が見えるからあんまり尻尾持ち上げないで」


 一緒にスカートのお尻のところが持ち上がってる。


「あ、ごめんごめん」


 一通りモフってから満足そうな顔をしたフィリフォリアが仲間たちのあきれ顔に気付いたらしい。キッと真面目な表情を作った。


「さあ、行きましょう」

「……お前が言うな」


 道中は、イノシシをアーノルドたちのパーティーが仕留めたくらいで、他は何もなく集合地点までたどり着いた。

 森の中からは時折、他のパーティーと思われる戦闘音が聞こえてきていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 多くの人に平等であるように設計されたランク制度じゃ、イレギュラーなメンツは測れないよね
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