112 コウノトリの魔法
「はい、本人たちから確認も取れたので、わたしの解決案を発表します。ぱちぱちぱちー」
「そういうのはいいから、早く言え」
「感動してむせび泣くことになるから準備しといてね」
「ふん、それは楽しみだ」
腕を組んで憮然とした表情でこちらを見下ろしていた宰相が、口の端を釣り上げた。
「女性同士で子供を作る魔法があるから、それを使いましょう」
「……ほう、そんなものがあるのか」
返事をしたのは国王だ。
宰相とトニオ司祭は、たっぷり数十秒沈黙した。
「……本気か?」
「本気。ただ、封印されていた魔法だから、こちらの出す条件を飲んでもらいたいし、それとは別にトニオ司祭に神の奇跡にしてもらうか、国王様の功績に加えるかして秘密にしてもらう必要があるけど」
「わしはかまわんぞ」
「まずは封印されていたという、魔法の詳細をうかがってからですね」
国王はあっさりと即答し、トニオ司祭も思案顔でうなづいた。
「昔、国を捨てた魔術師たちの隠れ里ってのがあって……そこに残っていた秘法なんだよね」
内容を封印をしたのも、彼らを見つけたのもわたしなので、わたしが死んでから今までの間に新しく開発した者がいなければ、もうわたししか知らない魔法だ。
記録を抹消する代わりに、取り引きとして隠れ里の者は遠くに逃がした。
「なんでそんなものをお前が知っているんだ?」
「そこは乙女の秘密」
「……まあ、どうせ例の精霊絡みであろう。人の定めた決まりなぞ、ああいった存在に意味があるとは思えんしな。それで、封印されていた理由は女同士で子をなすという魔法だからか?」
「ううん、この魔法は子供が必ず強い魔力を宿して生まれてくるの。つまり、やろうと思えば魔術師を量産できちゃうからだね」
帝国には戦力強化のためになりふり構わない一派もいたので、そこらに察知されると厄介なことになる、と秘密にした。
あれからもう二百年以上経つのか。
「魔術師の子孫を確実に残すための秘法というわけか」
「ご明察……と言いたいけど、隠れ里が小さかった頃、里を維持するために女性同士で子孫を残せるようにと作ったら、結果的にそうだったみたい」
いずれ魔力の有無を自然に任せられるような魔法が作れたら表に出しても、と思ったこともあったけど、結局実現できないまま今に至っている。
「それでは、こちらがのむ条件は、生まれた子供に魔術を習わせないといったところか?」
「ううん。魔力が大きいからって魔術師にさせようとせず、本人の好きな道を選ばせてあげれるよう誘導したげて。子供が作れない二人のためにやるんであって、兵士にするためや国の戦力のためにやるわけじゃないから。本人が魔術に興味を持って、学ぶのなら別にいいよ」
もし、わたしがそんな理由で魔術を学ぶなと言われたら絶対に納得できない。
貴族は立場に縛られるものだから、せめて選べるところは選ばせてあげられるようにしておいてあげたい。
「……ロロナ殿、譲りすぎでは? 魔術師にしないことを条件に出してもよいと思いますが」
「でも、その子が本気でなりたがった時に、生まれ方という理由でそれを潰すのも違う気がしますから」
「……お優しいですね」
トニオ司祭が静かに笑みをこぼした。
この人も貴族の生まれだ。理不尽な選択や生き方を迫られたことがあるのだろう。
「わかった。その条件をのむのに異論はない。それで、その魔法はどうやって使うんだ?」
「魔法っていうか実際には魔法薬だから、飲んでもらう感じだね。わたしは使い方とか注意点とかをざっと書いとくから、表向きどうするかはそっちで考えてね」
そういったことについては、わたしの出る幕ではない。
「世話になった。むせび泣きはせんが、礼を言う。何かして欲しいことなどはあるか?」
「じゃあ、今回のことをそれっぽい内容で指名依頼にしてもらえる? ちょっと今サボってるから」
「わかった。今日中に処理しておく。他にも何かあれば遠慮なく言いにこい。旅の無事を祈っておく」
「うむ、土産話期待しとるぞ」
「お気をつけて」
部屋の端でメモ書きを作る。
「二人の本当の子供だと言うためにも、大々的に発表して結婚させてしまった方がよさそうだな」
「奇跡とするなら、やり方を考えねば……」
早速話を始めた三人を横目に、メモと薬を置いてその場をあとにした。
「あいさつだけにしては遅かったですね。何かありましたか?」
部屋に戻るとアリアンナ姫に尋ねられた。
部屋では、チアとおりんがまだエライア姫と遊んであげていた。
今はエライア姫がぶんぶん振っている下手な猫じゃらしに、おりんが猫パンチをしている。
「宰相様の相談にのったりしていたので」
「……あら、そうだったんですね。どのようなことを?」
「なんというか、人生相談的な」
「もしかして、孫のレイラ様ですか?」
アリアンナ姫が見事に言い当てた。
「あれ、アリアも知ってたんだ」
「色々と有名な方ですから」
このあと彼女たちの問題は急速に解決するはずなわけで、これで何も知らなかったというのは無理があるな。
逆に関係者ですと白状しているようなものだ。
「……一応、とある秘法の存在を示したので、あとは国王様とか司祭様が頑張って見つけ出して、なんとかしてくれるはずです」
「なるほど、表向きはそういうことにするわけですね。本当はもう解決してしまっていて、あとは各所の調整だけとかでしょうか」
ギクッ。
アリアンナ姫が鋭い。
「ななな、何のことでしょう」
「ロロナからこっそり聞きましたと言えば、お父様は簡単にしゃべると思いますよ」
にこにこしながらアリアが黒いことを言う。
うん、だろうね。
容易に想像できる。
「教えてくださいよー。いいじゃないですか、私とロロナの仲でしょう」
秘密を共有するような仲になった記憶はないんだけど……。
「よそでしゃべらないでくださいよ」
「もちろんです!」
前から思ってはいたけど、このお姫様もなかなか好奇心旺盛だな。
家に帰ると、ヒト型に戻ったおりんとチアが詰め寄ってきた。
「今日の話、ホントなの?」
「うん、これでわたしとチアもDランクに上がるはずだから、明日ギルドに行かないとね」
次の依頼で絶対に上がるから、と太鼓判を押されている。
むしろ、もう上がってしかるべきなのにギルマスが妙に厳しいと受付嬢にこっそり言われた。
多分、年齢制限を無視してギルド登録をねじ込んだ関係であえて厳しくされているんだろう。
「そっちじゃありません! 魔法薬の話です! あんな話、今まで聞いたことなかったですよ!?」
「そりゃ、誰にも言ったことないし……」
二人ともアリアンナ姫との話を聞いていたのか。
「全部渡しちゃったって言ってました? もう残っていないんですか!?」
「そんなに持ってたわけじゃないからね。材料は面倒だけど製法は知ってるから、追加を頼まれても大丈夫だとは思うけど」
「なるほど、それなら安心ですね」
おりんがこぶしをグッと握った。
おりんは会ったこともない二人の話なのに、妙に力が入っているみたいだけど、何か思うところでもあったのかな。
理由はわからないけど、魔法薬の在庫を心配したり、まるで自分のことのように力が入っている。
チアについては、このあといつものパターンだろうな。
「ねえ、結婚してお薬飲んだら、コウノトリがきてくれるの? ロロちゃん、結婚!」
「しない」
チアが抱きついてきて、予想通りのセリフを言った。
「チアが大人になっても同じこと言ってたら、またその時に聞いてあげる」
「ぶー」
膨れていたチアに飴を与えて黙らせる。
「明日は、ギルドに寄ってからナポリタへ行くからね」
「あーい」
チアの口の中で、噛み砕かれた飴が音を立てた。
前話に続いてなので投稿しましたが、今回は色々と直接的すぎるかなと思うエピソードになってしまったので、申し訳ありませんが本編に影響のない範囲で結構修正してしまうかもしれません。
この場を借りて、お読みいただいた方々、ブックマーク、ご評価いただいた方々にお礼申し上げます。




