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104  絵描きの怪異

 チアの差し入れがてらガトランド伯爵邸に行くと、暗い顔をしたアルドメトス騎士団長に声をかけられた。

 チアは奥でまだ稽古中のようだ。


「呼ぼうと思っていたのでちょうどよかった。相談があったんだ……ちょっと絵を見て欲しいのだが」

「絵?」

「ああ、呪いの絵だそうだ」


 アルドメトスが魔眼を持っているというのは王都内にいる貴族たちには周知の事実だ。

 今回は貴族の間でトラブルになった絵が持ち込まれたらしい。


「断ったんだがな……押し切られてしまった。揉めているのが伯父でな。そんな、なんでもかんでもわかるような便利な眼じゃないと言ったんだが……」

「呪いの絵は興味深いですけど、貴族の揉め事には巻き込まないでくださいよ。それで、どんな絵なんですか?」

「最近デビューした、伯父のお抱え絵師が描いた人物画だ。生き生きしてるというか……素人目にも上手い絵だとは思う。すぐに有名になったらしい」


 大型新人ってやつか。

 怪しい経歴の持ち主だったりするんだろうか。


 アルドメトスが肩をすくめた。 


「ただ、しばらくすると描かれた者たちが、何人も原因不明で体調を崩していってな……」

「ヤバいヤツじゃないですか。焼いちゃうか、上から塗りつぶしましょうよ」


 横で聞いているおりんはあからさまに引いている。

 それでなくても、おりんは呪われてひどい目にあったことがあるのだ。


 アルドメトスがため息をついた。


「それが、なんともない者もいるんだ。絵師を育てた雇い主の伯父も困っていてな。弱っている者もいるわけで、早急に真偽を確かめて欲しいと」

「育てた……ですか? 流れ者とかではなく?」

「ああ、そう言っていた。仮に呪いだとしても、雇い主の伯父にも絵師にも得がない」

「絵が原因だとしたら、故意ではないってことですか。とりあえず状況はわかりましたけど……それで、その絵というのはどちらに?」

「向こうの部屋だ。各所からまとめて預かっている」


 呪い除けの守護具を身につけてから部屋に行くと、数枚の絵が置かれていた。

 幸い反応がなかったので、呪いの類ではないようだ。


 絵の内容はどれも貴族の人物画だ。

 部屋には、絵の匂いが漂っている。


 なんというか、どの絵も今にも動きそうなほど生き生きしている。

 絵の雰囲気や色使いはモデルの人物の雰囲気に合わせているのかそれぞれまるで違うが、めちゃくちゃ上手いというのはわかる。生き写しってやつか。

 デビューしたのは最近だという話だから、かなりハイペースでこれだけの絵を描き上げたわけだ。

 天才ってやつだな。それが余計に怪しさを増しているんだけど。


 そして、その中の三枚だけが分けて置かれていて、なんというか上手いけれど、力を感じない普通の絵だった。


「本当かウソか、最近では絵が動いたなんて証言もあったそうだ。何か力を感じる気はするが、私には正直わからん」

「ちなみに無事な者は?」

「そちらの者たちだ」


 予想通り、アルドメトスが分けられていた三枚の絵を指した。


 近づいて、一枚一枚をよく見てみる。

 さっきから、何か違和感がある。


 絵の内容というか、なんだろう……。


 そうか、匂いだ。

 

「ねえ、おりん。これ、匂いおかしくない?」

「近づきたくないです。あと、絵を触ったロロちゃんも手を洗うまで近づかないでください」


 おりんの方は取り付く島もなかった。

 一度呪いでひどい目にあっているからな。

 今回は呪いではないようだけれど、関わりたくないんだろう。

 

 絵からは絵の具の顔料や油の匂いなんかがしている。

 でも、それがでたらめなのだ。


 絵の端っこだけから匂いがしていたりするものもあったり、色使いのまったく違う絵なのにほぼ同じ匂いがするものもある。

 なんというか、アリバイ作りのためにわざと匂いをつけているような感じがある。


「……これは、本当は絵の具を使っていない……?」

「む?」

「……鑑定しても、わからない類の気がしますね。何かの能力で描いている気がします。とりあえず、この絵はまともじゃないですよ」

「うーむ、そうか……。絵を引き取って詳しく調べてもらえるか?」

「嫌ですよ。こんな絵をうちに置いとくなんて」


 そんなことをしたら、おりんが家出しかねない。


「そこを、助けると思って……。妻も使用人も怖がってこの部屋に近づかないのだ……」

「押し付けようとしてません? 目をそらさないでくださいよ。やっぱり絵描きが怪しいみたいですし、お縄にかけて絵は焼けばいいんじゃないですか?」

「そんな乱暴な解決では伯父がおさまらんよ」


 そうは言っても、どうやって証拠なんて見つけるんだ。

 手がかりもないのに。


「症状だけ聞くと、似たようなことをする魔物は見たことがありますね」

「ああ、そういえばそうだね。まあ、今回は絵だけど」

「何の話だ?」

「ドッペルゲンガーです。本物そっくりってところと、生気を奪うって辺りは似てますね」


 無事だという三人の絵を見る。

 貴族然とした白髪のお爺さんに、口ヒゲのおじさん、それからいかにも令嬢っぽいなんか目力のある女の子だ。


「あれ、この絵のお爺さん……あ、このおじさんも……ってことは……」

「なんですか、怖い話はやめてくださいよ」


 おりんが情けない声をあげる。

 今回はそもそもが怖い話な気がするんだけど。


 しかし、この絵の共通点って……。


 白髪のお爺さんや口ヒゲのおじさんのモデルについて、アルドメトス騎士団長に尋ねると想像通りの返事が返ってきた。

 女の子については知らない子らしい。でもこの子も予想がつくな。


 ひとまず絵を描かれても影響がなかった人たちの原因については仮説が立った。

 でも、だとすると今回の犯人の能力は、お世辞にも高いとはいいがたい。


「うん、似たような異能かもしれないけど、多分ドッペルゲンガーそのものじゃないね。あいつらはもっと抜け目がないから、絵描きに成り替わってるってことはなさそうかな」


 早く解決したいという話だし、ここは絵描きから直接聞き出すしかないだろう。

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