6 ざわめく沢凪荘
手紙はここで終っていた。
「・・・・・・・」
俺はその手紙を静かにたたみ、机の上に置いた。
差出人の名前は、ここにも書かれていなかった。
が、やっぱりこれは、あいつ、姫華からの手紙なのか?
と、目を大きく見開きながら考えていたその時、
背後からデリカシーが粒子レベルすら存在しない声が響いた。
「あらあらあらあらまあまあまあ♡なんて素敵なラブレターなのかしら♡」
「なあなあなあ、これって聖吾お兄ちゃんの彼女?恋人?婚約者?」
沙穂さんと矢代先輩が、俺の背後から手紙をのぞき見していたのだ。
俺はとりあえず驚きと怒りが混ざった感情を爆発させて抗議した。
「だああああぁっ!何で二人とも勝手に俺の部屋に入ってきてるんですか!
しかも人の手紙を勝手にのぞかないでくださいよ!」
しかし沙穂さんは何ら悪びれる様子もなくこう返す。
「だってぇ、どう見ても聖吾君の様子がおかしかったから、これは何かあると思うじゃない?」
「そうそう、もしかしたら昔の恋人からのラブレターかなー?と思ってたら、ホンマにそうやったんやね!」
矢代先輩も目をキラキラ輝かせながら言った。
よく見ると部屋の入り口から、パジャマ姿の美鈴もこっちをのぞいている。
何か、昨夜の再現みたいな光景だぞ。
とにかく俺は一旦大きく深呼吸し、沢凪荘の面々の方に向き直ってきっぱりと言った。
「言っときますけど、この手紙の主は、別に俺の恋人だとか婚約者なんかじゃありませんから!
こいつはただの幼なじみなんですよ!」
そう、本当に、ただそれだけなんだ。
しかし、それで納得する沢凪荘の方々ではなかった。
沙穂さんは俺にズズィッと詰め寄ってこう続ける。
「でもこれは、どう見てもただの幼なじみっていうレベルの内容じゃないでしょう?
完全に聖吾君にメロメロじゃないの?」
「お兄ちゃんも悪い男やなぁ。あっちこっちで色んな女の子に手ぇ出して」
「そんな訳ないでしょ!」
矢代先輩にそう返しながら、俺はチラッと美鈴の方に目をやった。
すると美鈴は
『別にあんたが誰から手紙をもらおうが関係ないし』
という様子でプイっとそっぽを向いた。
だったら何でそこに居るのか詳しくご説明願いたい。
とにかくこの状況を一刻も早く終わらせたかった俺は、ガバッと立ち上がって言った。
「とーにーかーくっ!この話はこれで終わりです!
俺はこいつとは何でもありませんから!今すぐ俺の部屋から出てってください!」
しかし沙穂さんは右手の人差し指を唇にあててこう言った。
「でもこの手紙に書いてある事が本当なら、あなたに恋い焦がれている白銀の乙女は、近々ここに来るんじゃないの?」
「うっ・・・・・・」
その言葉にたじろぐ俺。
本当にここに、あいつが来るんだろうか?
もしそうなったら一体、どうなっちまうんだ?




