4 姫華からの手紙?
学校が終わり、放課後のファミレスでのアルバイトも終えた俺は沢凪荘に戻り、
昼間に尾田先輩が言っていた事が気になっていたので、食堂に居た沙穂さんに尋ねてみた。
「あの、沙穂さん、近々ここに、新しく留学生がやって来るとかいう話、あります?」
それに対して沙穂さんは首を振り、あっさりした口調で言った。
「いえ、そんな話はないわよ。どうして?」
「いや、ないならいいんです。ちょっと気になっただけで」
俺はそう言ってこの話は終わりにしようと思っていたが、
食堂でコーヒー牛乳を飲んでいた矢代先輩が、興味津津で口を挟んできた。
「何々?ここに新しい人が来るの?どんな人?男の子?女の子?」
「いやいや、何か今度ウチの高校に、イギリスから留学生が来るらしいんですけど、
もしかしたらこの沢凪荘に住むのかなと、ちょっと思っただけですよ」
俺はそう言ったが矢代先輩はすっかりその気になったらしく、ちゃぶ台に両肘をつきながら言った。
「そっかぁ、どうせ来るなら金髪で青い目をしたお人形さんみたいな女の子がええなぁ。
そんでお姫様みたいなドレスを着せて可愛いリボンつけて、そんで毎日仲良く遊びたいなぁ」
「いいわねそれ!そんな子が来てくれるなら私も大歓迎よ!」
矢代先輩の妄想に感化された沙穂さんもすっかりテンションが上がり、
ギラギラした目で鼻息を荒くしたが、すぐに何かを思い出したように、
テーブルに置いていた封筒を俺に差し出して言った。
「そういえば今日、聖吾君宛てに手紙が来てたわよ。差出人の名前は書いてないけど」
「え?俺に?」
そう言って俺は封筒を受け取る。
沙穂さんの言葉通り、裏面を見ても差出人の名前は書かれていなかった。
はて、この俺にわざわざ手紙を書いてよこす人物が、知り合いの中にいただろうか?
中学以前のツレなら電話やメールをしてくるだろうし、家族にしてもそうだ。
・・・・・・いや、待てよ?
一人だけ、居るには、居る。
でも、あいつは確か、外国に行っているはず。
だけどこの封筒、よく見ると外国からのものだ。
外国に居る俺の知り合いと言えば、二つ年上の俺の姉と、
三年前、親の仕事の都合で外国に引っ越した、あいつ。
柏木 姫華。
彼女は俺の幼なじみで、結構なお金持ちのお嬢様で、それで・・・・・・
『あなたが私と結婚してくれないなら、あなたを殺して、私も死にます』
「・・・・・・」
いつぞやの記憶が、俺の脳裏をつむじ風のように吹き抜けた。
そして額から少なからぬ冷や汗が吹き出すのを感じた。
「どうしたん聖吾お兄ちゃん?何か手が震えてるで?」
俺の異変を見て取った矢代先輩がそう言ったが、俺は努めて笑顔を作ってこう返す。
「いやぁ、一体誰からの手紙か全く見当がつかなくて。とにかく自分の部屋に行って読んでみますね」
そして俺はそそくさと手紙を持って自分の部屋に戻り、制服も着替えないまま部屋の真ん中に座り、小刻みに震える手で封筒の封を切った。
「まさか、イギリスからの留学生って、あいつ、なのか?」
そう呟き、ゆっくりと便せんを取り出す。
便せんには万年筆で書かれたであろう、流麗で整った字体の文章がつづられていた。
その内容は次のようなものだった。