3 留学生が、来るらしい
その日の昼休み、俺は一人で御撫高校の学食へ行き、本日の日替わりランチであるチキン南蛮定食を食べていた。
すると正面の席に、
「この席いいかしら?」
という声と共に、絹のようにつややかな黒髪を背中までのばした、生まれた時代が中世ヨーロッパであれば、女王にでもなっていそうな美貌とオーラを兼ね備えた女子生徒が現れた。
彼女の名前は尾田清子。
御撫高校新聞部の部長で、その美貌から、
「ミナ高三大美女」
の一人に数えられ、そのあまりに明晰すぎる頭脳から、
「ミナ高の裏の生徒会長」
とも呼ばれている。
誰もが見とれる美人だが、その一方で油断ならないお方でもある。
この人には今まで何度か助けられている(?)けど、俺は正直この人が苦手だった。
そんな事を考えていると、尾田先輩は野菜炒め定食が乗ったお盆をテーブルに置き、俺の正面の席に腰かけた。
そしてこの人独特の、人の心を見透かすような笑みを浮かべてこう言った。
「あなたの周りは相変わらず賑やかそうね」
それに対して俺は、慎重に言葉を選びながらこう返す。
「まあ、毎日賑やか過ぎるくらい賑やかですね」
「いい事じゃないの。それだけ毎日が充実してるって事だもの」
「そうなんですかねぇ」
尾田先輩の言葉に俺はため息交じりにそう返すと、尾田先輩は少し目を細めて言った。
「ところで今度、この学校にイギリスから留学生がくるそうよ」
「へぇ、そうなんですか」
「一週間ほどの短期留学だそうだけど、稲橋君知ってる?」
「いえ、知らないです。俺は尾田先輩みたいに、色んな情報に精通してないんで」
実際尾田先輩の情報網はとてつもなく広くて深い。
一体どこから仕入れてくるのか知らないが、あらゆる情報を誰よりも早くキャッチするという、まさに新聞部部長にふさわしい(?)能力を備えているのだ。
そんな尾田先輩は、至ってさりげない口調でこう続けた。
「沢凪荘に住むのかしら?」
「え?」
尾田先輩の言葉に頓狂な声を上げる俺。
「いや、そんな話は聞いてませんけど、イギリスからわざわざやって来る留学生なら、あんな古い木造の学生寮より、本館の学生寮に入ってもらうんじゃないんですか?」
俺はそう言ったが、尾田先輩は
「ふぅん」
と意味ありげに言っただけで、後は話題を変え(最近沢凪荘で何か面白い出来事は起こっていないかとか)、その話題には触れなかった。
一体、何なんだ?