2 彼女の本音
最後の望みをかけて屋上へ出てみたが、くまなく探してみても、美鈴は見つからなかった。
「見つからないわねぇ、一人でホールに戻ったのかしら?」
ありこちかけまわり、すっかり疲れた様子の姉ちゃんは、水平線がよく見える屋上の柵にもたれかかって言った。
が、美鈴はまだ戻っていないという内容のメールを矢代先輩にもらっていた俺は、
「ホールにもまだ戻ってないみたいだよ」
と、自分の携帯をしまいながら言った。
「そっか」
と姉ちゃんは言い、月の映る海を遠い目で見つめた。
「ねぇ聖吾。あんた、ジルの事どう思う?」
「え?まあ、ちょっとキザでナルシストなところはあるけど、本気で姉ちゃんの事が好きなんだなぁとは思うよ。
姉ちゃんが考えた無茶な勝負に乗ってくれたし、全力で俺を打ち負かして、姉ちゃんに思いを伝えようとしてるもんな。
うわべだけで言い寄って来てたなら、途中でバカバカしくなって、こんな勝負投げ出してるんじゃないか?」
「そうなのかなぁ・・・・・・」
姉ちゃんはそう言って両腕に顔をうずめると、俺の方に向き直ってこう続けた。
「ねぇ、人を好きになるってどんな感じなの?
もちろんlikeじゃなくてloveの方よ?
小説や漫画だと、好きな相手を見るだけで胸がキュンとなったり、顔が赤くなったりするじゃない?
でも私、そういうのを経験した事ないし、いまいちよく分らないのよね。
ジルに対しても全然そういう気持ちにならないしさ、
そんなんでジルの申し出を受けて恋人になって婚約とかしても、それって逆にジルに失礼だと思う訳よ。
そうでしょう?」
「う~ん、まあ、そうなるのかな?」
「ねぇ、あんたは好きな人居る?
居るでしょう?
居るわよね?
それとも、自分の気持ちに気付いてない?
私が気付かせてあげようか?」
「何だよいきなり⁉今は姉ちゃんの話だろうが!」
「そうね、でもまあ私は、そういう訳でジルの申し出を素直に受ける気になれないのよ。
あいつのためにも、ね」
「そっか」
いつも強引で大ざっぱな姉ちゃんだけど、そういう事はちゃんと考えてたんだな。
とシミジミ思っていると、姉ちゃんは頭をかきながら言った。
「さて、無駄話はこれくらいにして、聖吾が大好きな美鈴ちゃんを探しに行きますか」
「ちょっとちょっと⁉そんな事は一言も言ってませんけど⁉」
俺は慌ててそう叫んだが、
「あーっ!」
と、俺以上に姉ちゃんがでかい叫び声を上げた。




