8 惨敗の聖吾と、ヘベレケの美鈴
何てこった。
最悪引き分けに持ち込みたかった食事のマナー対決で、まさかの失格になってしまった。
対するジルは実に上品に料理を皿にとりわけ、
周りの人たちと分け隔てなく楽しげに会話をかわし、
フォークを落としたりしても自分で拾わず、近くのスタッフに声をかけて拾ってもらっていた。
という訳でビュッフェにおけるジルの振舞いは減点なしの百点満点で、
一回戦から俺はジルとの差をまざまざと見せつけられた。
わかっていた事とはいえ、ここまで完膚なきまでに負けるとさすがに落ち込むぞ。
ホールの隅で肩を落としていると、よろめいた足取りの美鈴を支えるようにして、理奈がこっちにやって来た。
よく見ると美鈴の顔がやけに赤らんで、ろれつの回らない口調で、
「あやれひゃん、かわいひゃったぁ・・・・・・」
とつぶやいている。
俺はとりあえず、まともな状態の理奈に尋ねた。
「よお、彩咲綾音のサインはもらえたのか?」
「ええ、握手つきでね。色紙は浜野に預けてあるわ」
「そりゃあよかったな。で、なんで美鈴はこんな事になってるんだ?」
「その後すっかりこの子舞い上がっちゃって、ジュースと間違えてカクテルを飲んじゃったのよ。
それが一気に回って、この有様という訳」
「そ、そうか・・・・・・」
「とりあえず、私は美鈴をどこか静かなところで休ませてくるわ。
あんたはジルとの決闘に集中しなさいな」
「おお、何か悪いな、せっかくのパーティーなのに」
「別に構わないわよ。孝の居ないパーティーなんてたいして興味ないし」
理奈はそっけない口調でそう言うと、千鳥足の美鈴を従えてホールから出て行った。
まあ、彩咲綾音のサインがもらえてよかったな、美鈴。
あいつにとってはそれだけでもこのパーティーに来た価値があるだろう。
しかし俺はまだここで終われない。
ジルとの決闘が続いているんだ!




