2 矢代はいつもご機嫌
俺は自転車に乗り、後ろに矢代先輩を乗せ、御撫高校へペダルをこぎだした。
今日は少し早く沢凪荘を出たからゆっくり行こうと矢代先輩が言うので、
俺はのんびりしたペースで自転車を走らせる。
俺達が住む御撫町は、山と田畑に囲まれた田舎町。
五月も半ばになり、山の緑は一層濃くなり、様々な花がツボミをつけだしている。
普段はあまり意識しないけど、こうしてのんびり自転車をこいでいると、道端にもいろんな花や草木が生えていてるのがわかる。
色も形も大きさも様々。
そのひとつひとつに命が宿っていて、一生懸命生きてるんだろうなぁという事は、
草花の名前なんか全然知らない俺でも何となく感じる。
そんな事を思っていると、後ろの矢代先輩がご機嫌な口調で言った。
「この辺のお花もすっかり咲いてきたなぁ。
ねぇお兄ちゃん、今度ミナ高の裏山に、みっちゃんや沙穂さんと一緒にピクニックに行けへん?
あそこはもっといっぱいきれいなお花や森があるから、きっとめっちゃ楽しいで!」
「そうですねぇ、でも美鈴は行くって言うかなぁ?」
「行くに決まってるよ絶対!だってみんな一緒ならメチャクチャ楽しいに決まってるもん!
そんで夏になったらみんなで海に行って、
御撫神社(別名鬼松神社)のお祭りに行って、楽しい事が目白押しや!」
「いいですねぇ」
心底楽しそうな矢代先輩の言葉に、俺の顔も自然とほころぶ。
この人は本当に無邪気で素直で、まぶしいくらいにピカピカな心根を持っている(無類のいたずら好きでもあるが)。
そんな矢代先輩は、一転してしみじみした口調になって言った。
「ホンマに、こんな楽しい時間が一生続けばええなぁ」
そんな矢代先輩に、俺はあえていたずらっぽくこう返す。
「そうですか?俺はもう結構お腹いっぱいって感じですよ?」
すると矢代先輩は俺の背中をバシバシ叩きながらこう言った。
「まだまだ楽しい事はこれからやの!もっともっといっぱい、皆で楽しい思い出つくるんやからね!」
「わかりましたよ先輩。わかりましたから、そんなに背中を叩かないでください」
しかし矢代先輩は勢いに任せて、俺の背中をバシバシ叩き続けた。
「痛い痛い!」