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沢(さわ)凪(なぎ)せ女(にょ)り~た4  作者: 椎家 友妻
第四話 社交パーティーでの決闘
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6 カカシのような聖吾

 パーティーホールは学校の体育館の何倍もの広さがあり、

その一角のテーブルに和洋(わよう)折衷(せっちゅう)の料理が所せましと並べられ、

パーティーの参加者は手に持った小皿に、その料理を盛り付けている。

 ホールの真ん中にいくつも並べられた丸テーブルには様々なゲストの人達が集まり、各々会話や料理を楽しんでいる。

何か、映画の世界にそのまま迷い込んじまった気分だ。

自分自身がこのパーティーに参加しているという実感が、今だに()いてこなかった。

と、その時、(かたわ)らからジルの感動に打ち震える声が聞こえてきた。

 「おお!何と美しいんだ美咲(みさき)

今夜の君は世界中の宝石を集めてもかなわないほどに(かがや)いている!

どんなほめ言葉も君の美しさを現すにはとても足りないよ!」

 「それはどうもありがとう。あなたも今夜のタキシードは最高にクールよ。タキシードはね」

 姉ちゃんは相変わらずジルに手厳しい様子だ。

まあ、ジルのアプローチをはねつけるためにここに来たんだから、それも当然か。

そんな二人の様子を見た理奈(りな)が、好奇心に満ちた目で俺に耳打ちする。

 「あなたのお姉さん、本当にジルにアプローチされてるのね。

しかもそれをあんなに冷たくあしらうなんて、何だか痛快だわ」

 「まあ、そのおかげで俺も巻き込まれてるんだけどな・・・・・・」

 俺がげんなりした口調でそう返すと、ジルはそんな俺をビシッと指さして言った。

 「(せい)()君!約束は忘れていないだろうな!

このパーティーでどちらが優れた紳士かを競い合い、勝った方が美咲の真のパートナーとなる!」

 「え?あんたそんな勝負するの?何よ何よ、ちょっと面白そうじゃない!」

 「これが他人事ならな・・・・・・」

 興味津々(きょうみしんしん)の理奈に俺はつぶやくように答える。

その俺にジルは続けて言った。

 「勝負の内容は食事のマナー、社交性、ダンスの三項目だ。

この中で二つ以上紳士的に優れた振舞いができた方を勝者とする。これで構わないな?」

 「へい、それでようござんす」

 最初から全く勝てる気がしていない俺は、投げやりな口調で答える。 

 「頑張ってなお兄ちゃん!美咲お姉ちゃんを取られたらあかんで!」

 「そうよ聖吾!私を守るため、あんたの紳士的振舞いをこいつに見せつけてやりなさい!」

 矢代(やよ)先輩と姉ちゃんは口ぐちにそう言ったが、それに対して

「おうよ!任せとけ!」

と、ハッタリでも言い放つ度胸は俺にはなかった。

 と、そんな中、美鈴(みすず)はやけにそわそわした様子で回りをキョロキョロ見回している。

 「どうしたの美鈴?誰か探しているの?」

 理奈の問いかけに、美鈴はおずおずと(うなず)いて答える。

 「うん、さっきステージに出てきた(さい)(さき)綾音(あやね)ちゃん、このパーティーにも参加してるんだよね?

もし迷惑じゃなければ、サインをもらえないかなぁと思って・・・・・・」

 「ああ、あなたあの子のファンなの?

あそこの人だかりがそうだと思うから、私もついて行ってあげるわよ」

 理奈が会場の一角にできた人だかりを指さしてそう言うと、美鈴ははじけるような笑みを()かべて理奈の手を握った。

 「え?いいの?ありがとう理奈!」

 「そ、それくらい構わないわよ。私達、と、友達・・・・・・なんだから・・・・・・」

 そう言ってモジモジする理奈。

このお嬢様は他の事では常に自信満々で堂々としているが、友達関係の事になると、まるで人見知りの激しい小さな子供のようになる。

まあ、今までちゃんとした友達っていうのが居なかったんだろうな。

よかったな、理奈。

と、父親のような気持ちで(なが)めていると、理奈は美鈴を(したが)え、人だかりの方に向かって歩いて行った。

するとジルも、

 「それじゃあ僕はゲストのあいさつ回りをしなくちゃいけないから、一旦(いったん)ここで失礼するよ。

美咲、後でダンスのパートナーをお願いするね」

 と言い残し、優雅な足取りでステージの方へ去って行った。

そして矢代先輩も、

 「それじゃあウチも、知り合いの人が何人か来てるから、一応挨拶(あいさつ)してくるわ。

それじゃあ後でね、お兄ちゃん、お姉さん」

 と言い、振袖(ふりそで)をひるがえし、人の輪の中へと消えて行った。

更には姉ちゃんも、

 「何か私の顔見知りの大学教授も来てるみたいだから、ちょっと行ってくるわ。

あんた、みっともない振舞いをするんじゃないわよ?これはジルとの真剣勝負なんだからね!」

 と言い残し、スタスタと俺の元から去って行った。

 え、皆この会場に知り合いが居るの?

何で皆そんなに顔が広いの?

 いきなりポツンと取り残された俺は、まるでカカシのようにその場に突っ立っていた。

と、その時、たくさんのグラスが乗ったトレイを右手に持ったメイドさんが、それを俺に差し出しながら声をかけた。

 「お客様、お飲物はいかがですか?」

 その声の主は()()さんだった。

そういえば今日はこのパーティーのホールスタッフとして働く事になっていたんだな。

俺はトレイに乗ったオレンジジュースをもらい、それを一口あおって言った。

 「何か、パーティーってすごいですね。俺みたいな庶民(しょみん)の住む所とはまるで別世界みたいですよ」

 それにたいして沙穂さんは、軽い口調でこう返す。

 「あら、そんな事ないわよ。皆でおいしいご飯を食べて、楽しくおしゃべりして、(にぎ)やかに(おど)る。

基本的にはいつも(さわ)(なぎ)(そう)でしている事とそう変わらないわ」

 「そんなもんですかねぇ?」

 「そんなもんですよ」

 沙穂さんは笑顔でそう答え、俺に一枚の丸い皿を差し出して言った。

 「それじゃあ(せい)()君も、おいしい食事を楽しんでね。

でもこれはジルさんとの勝負でもあるんだから、紳士的な振舞いを心がけなくちゃだめよ?」

 「は、はい」

 俺は(うなず)きながら沙穂さんから皿を受け取った。

そうだ、勝負はすでに始まっているのだ。

この丸皿が勝負のゴングのようなもの。

ここまで来たらもう後戻りなどはできない。

腹をくくった俺は、料理が並ぶテーブルに向かい、紳士的な足取り(?)で決闘への第一歩を踏み出した!



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