18 お嬢様は、とにかく美鈴を誘いたい
姉ちゃんのお願いはあっさり通った。
そして理奈は息を吹き返したようにまくしたてた。
「なによ美鈴、あなた衣装がないからパーティーに行かないとか言っていたの?
バカねぇ、そんなの私に相談すればいくらでもあつらえて(・・・・・)あげるわよ。
この場で採寸して明日までにドレスを作らせるわ。そうすれば何も問題ないでしょう?」
「何言ってるのよ!大アリよ!そんなドレスのお金、私に払える訳ないでしょうが!」
そう言って美鈴は食ってかかるが、理奈は事もなげにこう返す。
「はあ?あなたみたいな庶民にドレス代を請求する訳ないでしょう。
こんなの私のポケットマネーで簡単にできるわよ。もちろんここに居る全員分の衣装もね。
私にかかればそのくらい何でもないわ」
「な・・・・・・」
理奈の太っ腹発言に言葉を失う美鈴。
さすがは超大金持ちのお嬢様。
金銭感覚がまるで違う。
そんな中矢代先輩は右手を挙げて理奈に言った。
「リナリンの提案は嬉しいけど、ウチは自前の振袖があるから、今回は遠慮させてもらうわ」
矢代先輩の言葉に特に気を悪くした様子でもなく理奈は
「あらそう」と頷き、沙穂さんの方に顔を向けて言った。
「沙穂はどうするの?あなたメイド服はあるでしょうけど、パーティー用のドレスは持ってないでしょ?」
「私はそのパーティーにはホールスタッフとして参加する事になっているので、自分のメイド服でじゅうぶんです♪」
沙穂さんはスタッフとしてパーティーに参加するのか。
まあ元々王本家でメイドとして働いていたから、そういう仕事はお手の物なんだろう。
とか思っていると、そんな沙穂さんに密かに(というかバレバレ)思いを寄せている浜野さんも、急にテンションを全開にして言った。
「じ、実は私もそのパーティーには、ホールスタッフとして参加する事になっているんです!」
「まあそうなんですか、当日はお互い頑張りましょうね」
沙穂さんに笑顔でそう言われ、浜野さんは今すぐ天国へ昇って行きそうな幸せそうな笑みを浮かべた。
よかったですね。
と、そんな浜野さんに構わず、理奈は俺達の方を見て言った。
「じゃあ衣装が必要なのはあなた達姉弟と、美鈴の三人ね。
パーティー当日までにバッチリ仕上げるわ」
「ちょ、ちょっと待ってよ!何勝手に話を進めてるのよ⁉私は行くって言ってない!」
そう言って美鈴は声を荒げるが、理奈も負けじと言い返す。
「衣装がないから行けないんでしょう?
衣装は私が用意するし、お金も要らないって言うんだから問題はないでしょうが!
つべこべ言わずにパーティーに参加しなさいよ!」
何か理奈の奴もなりふり構わなくなってきたな。
それだけ美鈴に一緒に来てほしいって事か。
するとそんな美鈴の肩に姉ちゃんが手を回し、俺や理奈に背を向け、何やらゴニョゴニョと内緒話を始めた。
話の間に美鈴の
「ええ?」
「そんな事は・・・・・・」
「う~ん・・・・・・」
という言葉が聞こえたが、具体的にどういう話をしているのかはわからなかった。
が、結局姉ちゃんの説得に負けたらしく、再びこっちに振り返ると、何やらモジモジした様子でこう言った。
「まあ、そこまで言うなら、パーティーに行くわよ」
するとそれを聞いた理奈ははじけるような笑みを浮かべ、あふれる喜びを解き放つように言葉を並べた。
「そう!やっとその気になったのね!
まったく素直じゃないんだから(お前もな)!
行きたいなら行きたいって最初から言えばいいのよ!」
が、理奈の言葉をそのまま受け取るのは悔しいのか、美鈴はやけにふんぞり返ってこう返す。
「別に行きたいって訳じゃないけど、その、色々あって、仕方なく・・・・・・行く事にしたのよ!
まったく、あんたの方こそ私に来てほしいなら来てほしいって素直に言えばいいじゃないの!」
「んなっ⁉べべべ別にそんな事一言も言ってないでしょう⁉
私はあなたのためを思ってパーティーに誘ってあげただけよ!」
「どうだか!」
そう言って睨み合う理奈と美鈴。
何だかこの二人、素直になれないという面で実によく似ている。
だから喧嘩もよくするけど、案外気が合うのかもしれない。
するとそんな二人をなだめるように、沙穂さんと矢代先輩が声をかけた。
「まあまあ二人とも、そんなに興奮しないで」
「そうそう、せっかく皆でパーティーに参加できるんやから、仲良くしようや」
それを聞いた理奈は
「まあ、それもそうね」
と頷き、一転して張り切った口調になって言った。
「さあ、それじゃあ今からドレスの採寸をするわよ!
浜野!別の部屋で稲橋聖吾の採寸をしなさい!
私はここで美鈴と稲橋美咲の採寸をするわ!」
「へぇ、リナリンが服の採寸するんや?」
矢代先輩がそう言うと、理奈は
「そうよ」
と言い、その目に情熱の炎を燃えたぎらせてこう続けた。
「採寸もデザインも私がするわ。将来はドレスデザイナーになるつもりだし。
世界一センスのいい私のデザインと、
世界一高級な生地を使って、
世界一素敵なドレスを仕立ててあげるわよ」
おお、何だか理奈の奴が燃えているぞ。
というかこいつ、最初から美鈴のドレスを仕立ててやるつもりだったんだな。
まったくどんだけ美鈴の事が好きなんだよ。
と思っていると、
「さあさあ!そうと決まれば男どもはさっさと出て行きなさい!今からここは男子禁制よ!」
と理奈にどやされ、浜野さんとともに食堂を追い出された。




