15 次なる決闘
翌日の夜、ジルは昨日言っていた通り、次の決闘の内容を伝えるため、沢凪荘へやって来た。
そして食堂に集まった沢凪荘の面々を前に、一枚の封筒をちゃぶ台の上に置いた。
「この封筒の中に、次の決闘の内容が書いてあるんですか?」
俺の質問にジルが頷いたのでその封筒を開くと、そこには一枚の紙切れが入っていて、そこにこう書かれていた。
『ジェラード財団主催・社交パーティーのご案内』
それを見た俺は目を丸くしてジルに尋ねる。
「社交、パーティー?これが次の決闘の内容なんですか?」
「その通り!」
ジルは大きく頷いてこう続けた。
「このパーティーで、どちらが優れた紳士なのかを競うんだ!
社交パーティーは食事のマナー、ゲストとのコミュニケーション、ダンスでの相手のエスコート等、
紳士としてのあらゆるステータスを試される場所。
美咲にふさわしい男を決める決闘として、これ以上ふさわしいものはないだろう⁉」
「な、なるほど」
ジルの迫力に気圧されるように俺は納得したが、もうこの時点で俺の負けが確定したようなもんじゃないか?
俺は社交パーティーなんかに出席した事がないし、食事のマナーもゲストとの接し方もダンスのたしなみも一切ない。
勝てる要素が何ひとつないじゃないか。
と、絶望的な気持ちになっていると、姉ちゃんがガバッと立ち上がり、これまた自信満々な口調でジルに言った。
「いいわ、その勝負受けて立ちましょう!
このパーティーで聖吾があんたより優れたジェントルメンだという事を見せつけてあげるわ!」
もういい加減にそこまで弟を持ち上げるのをやめてもらえませんかと願い出たかったが、そんな姉ちゃんの言葉を真に受けたジルは、
「僕も負ける気はないよ。聖吾君より優れたジェントルメンである事を証明し、必ず美咲を振り向かせて見せる!」
と力強く言い放ち、一転して笑顔になってこう続けた。
「ちなみにこのパーティーには、沢凪荘の皆さんも招待したいと思っています。
ジェラード財団が真心こめておもてなししますので、是非来てください。
日時は明日の土曜日の夜、僕がお迎えに上がります」
ジルはそこまで言うと、
「それでは決闘の日を楽しみにしているよ」
と言い残し、沢凪荘から去って行った。
それと同時に俺は頭を抱え、ちゃぶ台の上に突っ伏した。
「もうダメだ。パーティーでどっちが優れたジェントルメンかを競うなんて、絶対勝ち目がねぇよ・・・・・」
俺は絶望的な声を上げたが、姉ちゃんはそんな俺の背中を全力で叩いて(だから痛いって!)言った。
「何言ってんの!勝負する前から負けを認めてどうすんのよ⁉
そんなのフタを開けてみないと分からないでしょ!」
「いやいや、こればっかりはどうしようもねぇよ。
俺、パーティーなんか出た事ないし、紳士的な振舞いなんかどうすりゃいいのか全くわかんねぇよ」
俺と姉ちゃんがそんな事を言い合っているかたわらで、パーティーに招待された矢代先輩達は別の意味で盛り上がっていた。
「パーティーかぁ、そんなん出るの子供の頃以来やなぁ。
何着て行こう?振袖でも大丈夫なんかな?」
「服装指定に洋装とは書かれていないから、振袖でも大丈夫じゃない?」
招待状の内容を読みながら、矢代先輩と沙穂さんがキャアキャア騒ぐ中、美鈴が不安そうな声を上げる。
「でも私、パーティーに着て行くようなドレス持ってないです・・・・・・」
「そういえば俺も持ってないよ。さすがに学校の制服で行く訳にもいかないしなぁ」
「ちょっと、それじゃあ決闘うんぬん以前にパーティーに行けないじゃないの!
そんな事でジルに勝てると思ってるの⁉」
姉ちゃんは俺に食ってかかるが、俺も負けじと言い返す。
「だから最初から勝ち目はねぇって言ってるだろうが!
そもそも姉ちゃんだってパーティーに着て行くドレスなんか持ってるのかよ⁉」
「ないわ!」
「何でないのにそんな堂々としてるんだよ!」
そんな中美鈴はおずおずと右手をあげて口を開く。
「あの、私、パーティーは遠慮しておきます。
衣装はないし、例え参加しても、場違いだし、浮いちゃうだけだから・・・・・・」
「あらぁ、そんな事ないわよ。ドレスを着た美鈴ちゃん、きっと素敵よ?
パーティーってね、女の子を今までの何倍にも綺麗に成長させてくれるのよ?」
「で、でも・・・・・・」
沙穂さんの言葉に美鈴は気おくれしているようだ。
そんな美鈴に矢代先輩も声をかける。
「一緒に行こうよみっちゃん。衣装はレンタルなんかもあるはずやし、何とかなるよ」
「だ、だけど・・・・・・」
気が進まない様子の美鈴は視線を床に落とす。
まあ確かに、美鈴の気持ちもよく分かる。
ジェラード財団とやらの社交パーティーなんてきっと金持ちばっかりで、俺や美鈴みたいな庶民が行くような場所じゃあない。
行ってもきっとみじめな思いをするだけだ。
言葉が途切れ、食堂に何となく気まずい沈黙が流れる。と、その時だった。
「ご、ごめんくださ~い」
と、玄関の方から、どこかで聞いたような男の声がした。




