12 いざ!尋常に!
翌日、決闘の時間はそれはもうあっという間にやって来た。
放課後の体育館で、俺とジルはすでに剣道着を身につけ、竹刀を持ってお互い睨みあっている。
ちなみに姉ちゃんを賭けて俺とジルが剣道で決闘をするという話は、
速きこと風のごとく全校生徒に広まり、今この体育館のギャラリーは、
そんな決闘を見ようと集まったミナ高生徒でごったがえしていた。
しかも体育館でいつも練習をしているバレー部とバスケ部と卓球部に一時的に場所を譲ってもらい(ホントすみません!)、
剣道部員には審判を担当してもらい(まったくもって申し訳ない!)、
この決闘が行われる事となった。
予想はしてたけど、どえらい大ごとになっちまったなぁ。
こんな大勢の前で情けない試合したら、後でどんなにボロカスに言われるか分かったもんじゃない。
これはいつも以上に気合を入れないとヤバいぞ!
全く理不尽な理由でこの決闘に巻き込まれてしまったとはいえ、もはや後戻りする事などできるはずもない。
なので俺は腹を括り、目の前のジルを打ち倒す事だけに集中した。
そしてそんな俺に、背後に立つ姉ちゃんが激しい声を飛ばす。
「ボコボコにしていいわよ聖吾!
もう二度と私に付きまとおうなんて思えなくなるよう、思いっきりやっつけちゃって!」
「へいへい」
俺はそう返すが、実際そう簡単にいくとは思えない。
ジルは今日初めて剣道のルールを知ったようだけど、剣道着をまとったあいつからは、ただ者ではないオーラが放たれている。
下手をすりゃあこっちがやられるぞ。
そんな中審判が間に立ち、
「始め!」
の声とともに試合が始まった。
ちなみに審判は両手にそれぞれ赤色と白色の旗を持っていて、
俺が一本取ると白の旗があがり、ジルが一本取ると赤い旗があがる事になっている。
ここはバシッと一本とって、白い旗をあげさせてやるぞ!
俺は竹刀を握る両手に力を込めた。
そして竹刀の先をジルに向け、ジリジリと間合いを計る。
俺は至ってオーソドックスな中断の構えだが、対するジルは右肩を前に出した反身の態勢で、竹刀を右手だけで持ち、その切っ先を俺に向けている。
これってもしやフェンシングの構えじゃないのか?
そうか、こいつは剣道こそ今日が初めてだけど、フェンシングじゃあかなりのやり手なのかもしれない。
だから構えがやけにどっしりしていて隙がないんだ。
こりゃあうかつ(・・・)に仕掛けたらやられるぞ。
と、思っていたその矢先、
「ヒュッ!」
とジルが鋭く息を吐いたかと思うと、竹刀の先が俺の喉元目がけて放たれた!
「うぉっ⁉」
俺は咄嗟にそれをかわす。
危ねぇ!
まったくノーモーションから突いてきやがった!
うまくよけられたからよかったけど、下手すりゃ今の一撃で一本取られてたぞ!
こいつやっぱ強い!
と思っていると、ジルは余裕の笑みを浮かべて言った。
「今のをよけるなんて、君も随分できる(・・・)ようだね」
それに対して俺も余裕の笑み(もちろんハッタリだけど)を浮かべてこう返す。
「そちらもなかなかやるようですね。これはちょっとは楽しめそうだ」
本当は楽しむどころじゃないんだけど、精神面で負けたら一気にやられる。
ここは強気で押し返す!
一層気を引き締めた俺は、
「めぇえええんっ!」
というありったけの気合いを込め、ジルの脳天目がけて竹刀を振りおろした!
そして俺の竹刀は見事にジルの脳天に命中した!
と、思った、が、同時に俺の体はフワリと空中に浮き、後ろに吹っ飛んだ。
ジルの竹刀の切っ先が、俺の喉元を一瞬早く貫いていたのだ。
その衝撃はすさまじく、後ろに吹っ飛んだ俺は背中から激しく床に打ち付けられた。
「ぐへぁっ⁉がはぁっ」
喉を突かれた衝撃で一瞬息が止まり、激しくむせかえる。
そして床に打ち付けられた背中の痛みが少し遅れて俺の全身を襲い、声も出ないし体も動かない。
「稲橋君!」
「ちょっと聖吾、大丈夫⁉」
駆け寄って来たのは美鈴と姉ちゃん。
何か色々言ってるようだけど、俺の耳にはほとんど入ってこない。
そして俺はそのまま・・・・・・。




