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沢(さわ)凪(なぎ)せ女(にょ)り~た4  作者: 椎家 友妻
第三話 英国からの求婚者
35/62

11 困ったら丸投げ

 「何でそうなるよ⁉」

 俺は目が飛び出すくらいびっくらこいてそう叫んだ。

そして姉ちゃんの目論見(もくろみ)を瞬時に理解したので、すぐにそれを弁明しようとしたが、姉ちゃんがそれより早く口を開いた。

 「この子は世界で一番私の事を愛しているのよ!」

 愛しとらん!

 「それに私の言う事を何でも聞いてくれるし!」

 それはあんたが無理やり(したが)わせてるだけだろうが!

 「おまけに私がピンチの時は体を張って助けてくれるのよ!」

 そりゃあんたが俺に尻拭(ぬぐ)いさせてるだけでしょうが!

 俺は口から火を()くほど姉ちゃんにツッコミを入れたかったが、それを制するように姉ちゃんが矢継(やつ)(ばや)に言葉を並べる。

姉ちゃんは俺を口実にして無理矢理ジルの愛の申し出を断る気だ!

そんな姉ちゃんが次に言った言葉はこれだった!

 「だから私の理想の男になりたいなら、まずは弟の聖吾を越えるような男になる事ね!」 

 それ見ろやっぱりそうじゃわい!

こいつ全部俺に丸投げしやがった!

本当に困った事にぶち当たった時はいつもそうだ!

それは三年ぶりに再開した今も全然変わっていなかった!

が、こんな事に巻き込まれるのはさすがにまっぴらごめんなので、俺は(あわ)ててこう叫ぶ。

 「待て待て待て!どうしてそうなるんだよ⁉姉ちゃんの恋愛(れんあい)沙汰(ざた)に俺を巻き込むんじゃないよ!」

 すると姉ちゃんは俺の頭を右手でガシッとつかみ、ひきつった笑みを()かべて俺を見つめた。

その目は

『お姉ちゃんがピンチなんだから、弟のあんたが助けるのは当然でしょうが!』

(うった)えていたが、俺は

『んな事知るかよ!自分で何とかしろよ!』

という目で見返した。

 そんな俺と姉ちゃんの激しいアイコンタクトを知ってか知らずか、ジルは静かに立ち上がり、俺を見据(みす)えて言った。

 「そうか、そういう事だったのか。道理でいつも一緒に居るし、やけに仲がいいと思ったよ。

実の姉弟とはいえ、そういう事もありえるのかもな」

 「ないから!絶対ないから!」

 俺は必死にそう言ったが、ジルはそんな事は(つゆ)ほども耳に入らない様子で俺を指さし、(けわ)しい目つきでこう言った。

 「こうなったら決闘だ!美咲の理想の男である君を打ち倒し、僕が真に美咲の理想の男である事を証明して見せる!」

 「断わる!」

俺は全力でそう叫んだが、

 「いいでしょう!その決闘受けて立つわ!」

 さも自分の事のように姉ちゃんがそれを引き受けた。

 「うぉおいっ⁉何勝手に決闘を引き受けてるんだよ!

何でもかんでも俺に丸投げするんじゃねぇよ!」

 「嬉しいわ聖吾!そこまでお姉ちゃんの事を愛してくれているのね!」

 「聞けやバカタレ!」

 俺はそう叫ぶが姉ちゃんは全く聞く耳持たず、俺の太股(ふともも)を思いっきりつねりあげた。

 「ぅいってぇっ⁉」

 「決闘、受けてくれるわよね?」

 姉ちゃんは優しい口調で俺に言ったが、その目は

『受けなきゃあんたを殺すわよ?』

という殺意に満ちていた。

これは物心ついた頃から(あるいはそれ以前から)繰り返されてきた事なので、俺はもはや観念(かんねん)し、

 「わかったよ!受けりゃあいいんだろ!」

 と、(なか)ばヤケクソに言い放った。

もうこうなったらどうにでもなれ!

するとそれを聞いたジルはひと(きわ)(けわ)しい目つきになり、

 「決まりだな。これがその印だ!」

 と、自分の手首に手をやったが、

「あれ?」

と声をあげ、ズボンのポケットを(さぐ)りだした。

 もしかして、白い手袋でも探しているんだろうか?

欧米じゃあ決闘を申し込む時、白い手袋を相手に投げつけるらしいからな。

そんな事を考えていると、ジルは

 「どうやら忘れてしまったらしいな」

 とつぶやいたかと思うと、足に()いていた白い靴下(くつした)をおもむろに脱ぎ、それを俺の顔に投げつけた!

そしてその靴下は見事に俺の顔面に直撃した。

 「ぶふぅっ⁉何すんだよいきなり⁉人の顔に靴下を投げつけるんじゃねぇよ!」

 しかしジルは何ら悪びれる様子もなくこう返す。

 「これが決闘の申し込みの印だ!手袋がなかったから靴下がその代わりだ!」

 「そこまでして形式にこだわるこたぁねぇだろ!」

 そんな俺の言葉は完全にスルーしながら姉ちゃんは言った。

 「覚悟しなさいよジル!あんたなんかこの(せい)()がケチョンケチョンにやっつけるんだからね!」

 おいおいそんなにハードルを上げるんじゃないよ。

あんた自分の弟の事を買いかぶりすぎだよ。

俺がハラハラする中、ジルは姉ちゃんに(たず)ねた。

 「で、どういう形で決闘するんだい?(こぶし)(なぐ)り合うというのでも、僕は全然構わないよ?」

 何かめちゃくちゃ本気で決闘する気だよこの人!

以前にもこんなシチュエーションがあったけど(第二巻参照)、その意気込みは前の奴とはケタ違いだ!

そんな決闘モード全開のジルに、姉ちゃんは余裕の笑みを浮かべてこう言った。

 「拳で殴り合うなんて野蛮(やばん)な事はさせないわよ。勝負の内容は、剣道よ!」

 「け、剣道?」

 姉ちゃんの言葉にマヌケな声を上げる俺。

しかしジルはそれに納得した様子でこう言った。

 「剣道、か。日本のフェンシングのようなものだろう?

やった事はないけどそれでいいよ。男同士の決闘は、剣を振るう事こそふさわしい!」

 何か俄然(がぜん)盛り上がってるよこの人。

そんな中姉ちゃんはジルにこう続けた。

 「決闘は明日の放課後、学校の体育館よ。勝った方が私をモノにできる。それでどう?」

 「それでいいよ。この決闘に勝って、僕こそが君にふさわしいと証明するよ!」

 ジルは力強くそう言い放つと、足早に(さわ)(なぎ)(そう)を後にした。

黒スーツの男達も()()さんに

「ブリ大根、初めて食べましたけどおいしかったです」

丁寧(ていねい)にお礼を言い(実はいい人達なのか?)、そそくさとジルの後を追って出て行った。

 後に残された沢凪荘の面々は、空気が抜けたようにそれぞれ(たたず)んでいた。

そんな中、何の反省の色もない様子で姉ちゃんが俺に言った。

 「と、いう訳なんで、明日頑張ってね、聖吾♪」

 それを聞いた俺はブチ切れた。

 「頑張ってねじゃねぇよ!とんでもねぇ事に巻き込みやがって!俺は決闘なんか絶対嫌だからな!」

 「今更(いまさら)そんな事言っても遅いわよ。

もうあっちはやる気満々なんだから、やめるなんて話は通用しないわ」

 姉ちゃんがそう言うと、それを応援するように他の沢凪荘の面々も言葉を続ける。

 「そうよ聖吾君。ここはお姉ちゃんを助けるために、一肌脱ぐべきよ」と沙穂さん。

 「頑張ってやお兄ちゃん!ウチを助けてくれたみたいに、美咲(みさき)お姉さんも助けてあげて!」と矢代先輩。

 「もちろんお姉さんの為に決闘するんでしょ?何せ裸で寝起きを共にする仲だもんね」と美鈴。

美鈴の言葉がやけにトゲトゲしいが、今はそれは置いておこう。

そして女性陣がズズイッと俺に詰め寄る。

こういう時の女性の団結力は一体何なんだ?

四対一で(にら)まれ、四面楚歌(しめんそか)極まりない状況に(おちい)った俺は、こう言う他なかった。

 「わかったよ!姉ちゃんの為にがんばるよ!」

 そんな俺の背中をバシンと(たた)き(メッチャいてぇ!)、姉ちゃんは言った。

 「その意気や良し!でもがんばるだけじゃダメよ!

あのジルをコテンパンにやっつけて、もう二度と私に言い寄らないようにしてちょうだいね!」

 「そうは言うけどよ、俺は剣道なんか体育の授業でやったくらいで、全然強くないよ?」

 「大丈夫!あっちは剣道をやった事ないみたいだし、聖吾の方が断然有利だから!」

 「そうかなぁ?」

 勝てる気満々の姉ちゃんに、俺は不安いっぱいでつぶやいた。

でも決闘するのは決まった事だし、今回は忘れたでは済まなそうだし、こりゃあ腹をくくって頑張るしかねぇか。

 そう思うものの、深いため息が出るのを俺は(おさ)える事ができなかった。

 はぁ・・・・・・。



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