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沢(さわ)凪(なぎ)せ女(にょ)り~た4  作者: 椎家 友妻
第三話 英国からの求婚者
33/62

9 食卓にジル

 翌日、ジルはまた学校へやって来るのかと思い内心ハラハラしていたが、意外にもジルは姿を現さなかった。

じゃあバイト先にやって来るのかとも思ったが、そこにもジルは現れなかった。

やれやれ今日は何事もなく一日を終えられそうだとホッとして、俺達は(さわ)(なぎ)(そう)に帰り、晩御飯の食卓についた。

今日のメニューはブリ大根とキンピラごぼう、高野豆腐にわかめの味噌汁。

どれも()()さんのお手製だ(矢代(やよ)先輩も手伝ったらしいが)。

 「これが日本の家庭料理か!これはこれでうまそうだな!」

 沙穂さんの料理を前に、感嘆(かんたん)の声を上げたのはほかの誰でもない、ジル・ジェラードだった。

そんなジルの声を聞いた姉ちゃんは、バン!とちゃぶ台を(たた)いて言った。

 「ていうか何であんたは平気な顔してここに居るのよ⁉

そんでもってどうして一緒に晩御飯を食べようとしているのよ⁉」

 ちなみにちゃぶ台の(はし)の方には、昨日の二人の黒スーツの男達の姿もあり、ちゃんとその人達の分のご飯も用意されている。

そんな中ジルはさも当然という様子でこう返す。

 「美咲(みさき)の日本での暮らしが知りたかったからね。

それにはまず同じテーブルで同じモノを食べるのが一番だと思ったのさ」

 「いきなりやって来てずうずうしい!あんたに食わすブリ大根はないわ!」

 そう言って姉ちゃんはジルをビシッと指さしたが、ジルの前にもちゃんとブリ大根は用意されていた。

そしてそれを用意した沙穂さんが、姉ちゃんをなだめるように言った。

 「まあまあ美咲ちゃん、食事は大勢でした方が楽しくていいじゃないの。

それに彼はあなたを追いかけてはるばるイギリスから来てくださったんでしょう?

そう邪険(じゃけん)にしちゃかわいそうよ」

 沙穂さんの言葉に、姉ちゃんは口をつぐんでうつむく。

そんな姉ちゃんを尻目(しりめ)に、俺はジルに(たず)ねた。

 「それにしても、よくここがわかりましたね?学校からは随分(ずいぶん)遠い場所なのに」

 それに対してジルはサラッとこう言った。

 「ああ、今日君たちの学校へ行ったら、長い黒髪の素敵な大和(やまと)撫子(なでしこ)に会って、君たちがここに住んでいる事を教えてくれたんだ。

それで、今日は学校やアルバイト先には来ないで、沢凪荘で晩御飯を御馳(ごち)(そう)になるといいわよってアドバイスしてくれたから、こうして来たという訳だよ。

いやあ、親切な人に出会えてよかったよ」

 「ああ、そうですかい」

 そう言って顔をひきつらせる俺。

長い黒髪の大和撫子とは、間違いなく尾田(おだ)先輩だろう。

まったく、いつも大事なところで一枚かんでくるんだから、あの人は本当に油断できない。

 そんなこんなで、ジルと黒スーツの男二名を(まじ)えた沢凪荘の夕食は、驚くほど(なご)やかに進んだ。

沙穂さんや矢代先輩はジルをあっさりと受け入れ、

ジルも沙穂さんの料理やお茶に舌鼓(したづつみ)を打ち、

矢代先輩の笑顔爛漫(らんまん)なふるまいにすっかり心を許したようだ。

それに対して俺と姉ちゃんと美鈴(みすず)は、何とも複雑な顔つきでブリ大根や高野豆腐をチビチビと食べていた。

 そして夕食は終わり、(はず)む話もひと段落したところで、

ジルは一転して至極(しごく)真剣な表情になって姉ちゃんの名を呼んだ。



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