7 本坂先輩の神説教
「あの、すみませんでした」
厨房へオーダーを通した本坂先輩に、姉ちゃんはしおらしく謝った(こんな姉ちゃん初めて見た!)。
さすがに今回の事は反省しているようだ。
それに対して本坂先輩は笑顔のままでこう返す。
「ダメですよ美咲さん。いくらお知り合いの方でも、あんな態度をとってはいけません。
フロアに立っている時は、ニューハーフのウエイトレスなんですから」
「はい、深く反省してます・・・・・・」
姉ちゃんがシュンとしながらそう言うと、本坂先輩は
「次からは気をつけましょうね」
と言い、踵を返してフロアへ戻って行った。
う~む、さすが本坂先輩。
だてにここのフロアチーフ(実はそうなのだ)をやっていない。
たまにおっちょこちょいなところもあるけれど、それを補ってあまりある器を持ち合わせている。
そりゃあ本坂先輩目当てのお客さんも多い訳だ。
そんな本坂先輩の後姿を眺めながら、姉ちゃんはしみじみと言った。
「はぁ~、すっかり夕香奈さんに迷惑かけちゃった。私とした事がとんだ失態だわ・・・・・・」
「そうだぞ姉ちゃん、少しは本坂先輩を見習えよな。
あの人は姉ちゃんなんかより数百倍もおしとやかで気立ても良くて、心身ともに美しいんだから」
「へいへい、あんたはそんな美女と一緒に働けて、毎日さぞお幸せでしょうねぇ」
「否定はしない」
そんな事を言い合っていると本坂先輩は、俺達には見えない何かにつまずき、
「きゃぁっ⁉」
というかわいらしい悲鳴をあげながらお転び遊ばした。
それを見た姉ちゃんはしみじみと言った。
「あれは、天然記念物級の天然ね」
「否定はしない」




