4 美咲、よろめく
「こ、ここに居たのね聖吾」
姉ちゃんはそう言うと、踊り場の手すりにもたれかかった。
「姉ちゃん、なんだか随分お疲れだね」
俺が苦笑いしながらそう言うと、姉ちゃんは右手で顔をおおいながら言った。
「まったく冗談じゃないわよ。あいつが来たせいでクラスの皆から質問攻めよ。
あいつはどんな奴なんだとか、将来結婚するのかとか。
私の事を聞かれるのは構わないけど、あいつの事で脳みそを使うのはまっぴらごめんなのよ」
「そっか、姉ちゃんはずいぶんあのジルって人が嫌いなんだな」
俺がそう言うと、姉ちゃんはひと際語気を強めて言った。
「嫌いよ!生理的に無理!まずあの人を見下した目つきがいや!
身なりや知識はご立派だけど、中身が全く伴ってない!
自分が世界で一番偉いと思ってるのもムカつく!」
「そ、そうなの?」
それは姉ちゃんも同じじゃないのかという言葉は言わない事にした。
姉ちゃんは語気を荒げたまま続ける。
「そうよ!それに、
自分に言い寄る女なんて星の数ほど居るけど、その中から君を選んであげるんだから感謝しなよ
っていう態度がにじみでているのよ!それが何より腹立たしいわ!」
「そ、そうか・・・・・・」
どうやら照れの裏返しなどではなく、姉ちゃんは本気でジルの事を嫌っているようだ。
まあ俺もあいつの事は好きになれそうにないけど。
そう思いながら、俺は姉ちゃんに尋ねる。
「でも、あの人また来るって言ってたよな?姉ちゃんどうするんだよ?」
「そんなもの、ひっぱたいてでも追い返すわよ!」
姉ちゃんだったら本当にやりかねねぇな。とか思っていると、
「稲橋君!」
と、俺を呼ぶ声がした。
見ると下の階から現れた美鈴が、息を切らして俺達を見上げている。
もしかして掃除もロクにしないでくっちゃべっているのを怒りに来たんだろうか?
と身構えていると、美鈴は切羽詰まった様子でこう続けた。
「校門のところに、あの人が来てるわよ!」
その言葉に俺は顔がこわばる。
そして隣の姉ちゃんに目をやると、姉ちゃんは鬼のような形相で右の頬をひきつらせていた。




