13 彼女との思い出
その日の昼過ぎ、俺は学校の教室で午後の授業を受けていた。
姉ちゃんは転校二日目にしてすっかりクラスの皆と打ち解け、ここでの学校生活を満喫しているようだ。
逆に俺は姉ちゃんに何かと振り回され、美鈴には何故か冷たい目で睨まれ、
クラスの男子どもには姉ちゃんのプライベートなアレコレを聞かれ(スリーサイズとか好きな男のタイプとか)、精神的にも体力的にもクタクタになっていた。
俺は日常に、ドラマティックな刺激を求めるタイプではない。
普通に学校へ行き、適当に勉強して、放課後にアルバイトに精を出し、帰って飯食って寝る。
そんな平々凡々な毎日を過ごせればそれでいいと思っているのだが、現実はそう思い通りにはなってくれない。
それに対して自分の思い通りに現実を生きているであろう姉ちゃんは、俺の後ろの席でグースカと授業中の居眠りに勤しんでいた。
はぁ~、結局この歳になっても、俺は姉ちゃんに振り回されるんだなぁ。
そう思うと、果てしなく長くて深いため息が漏れ出る。
そして俺の脳裏に幼少の頃の姉ちゃんとの思い出(という名の苦悩の日々)が蘇る。
近所の野良猫に(姉ちゃんが)石をぶつけ、(俺が)追いかけまわされたり、
(姉ちゃんが)近所のガキ大将にケンカを売り、(俺が)そのガキ大将と決闘するハメになったり(そのガキ大将に俺はボコボコにされたが、その後姉ちゃんがそのガキ大将をボコボコにした)、
裏の怖い爺さんの盆栽に(姉ちゃんが)サッカーボールをぶつけて壊し、逃げ遅れた俺がしこたま怒られたり・・・・・・。
大体姉ちゃんが何か悪さをして、
それに俺が巻き込まれ、尻拭いもさせられ、
おいしいところは姉ちゃんが持って行くというパターンだった。
おかげで少々理不尽な事や困難な状況に陥っても、俺はそれを受け入れる根性と体力(そして諦めと妥協と
する心)を身につけた。
それはある意味よかったのかも知れないが、あの幼少の頃に戻りたいなどというセンチメンタルな思いは、俺には微塵もない。
姉ちゃんは沢凪荘に来てから三回ほど
「あ~っ、あの頃に戻りたいっ」
としみじみ言ったが、俺はいずれもそれをお断りした。




