7 やだ!私も行く!
放課後になった。
「う~ん、終ったぁ」
姉ちゃんはそう言いながら自分の席で大きくのび(・・)をした。
転校初日で姉ちゃんはすっかりうちの高校になじんだ。
授業では飛び級で大学へ入った明晰な頭脳を披露し(半分以上居眠りしていたが)、
学食では欧米暮らしらしい旺盛な食欲を披露し(カツ丼大盛りとチャーシューメン大盛りとポテトサラダを食った)、
休み時間はクラスの女子達とでかい声で笑い、
もうずっとこの高校に通っているかのような適応力だった。
そんな姉ちゃんに、俺は感心するように言った。
「転向初日からよくもあれだけなじめるもんだよなぁ。我が姉ながら感心するよ」
それに対して姉ちゃんは、フフンと得意げな顔になってこう返す。
「そりゃあこれくらいできないと外国で生活なんてできないからね。
よその土地へ行って暮らす為に一番必要なのは、適応力だもの」
「俺にはとても真似できねぇな」
「そんな事ないわよ。あんただって実家を出て、沢凪荘でちゃんと暮らしているじゃないの」
「いや、あれは実家が問答無用でぶっ壊されたからだし、
姉ちゃんみたいに自分で道を切り開いていくような行動力は、俺にはないよ」
などと言い合っていると、隣の美鈴がスクッと立ち上がり、
「じゃあ私、先に歩いて行くから。自転車は美咲さんに使ってもらって」
と言ってさっさと教室を出て行こうとした。
ちなみに沢凪荘には自転車が二台しかないのはさっきも言ったけど、
放課後はいつも矢代先輩が一台使って帰り、もう一台に俺と美鈴が二人乗りをし、
アルバイト先がある隣町へ行く為のバス停へ向かう。
そんな中姉ちゃんは美鈴の背中に声をかけた。
「美鈴ちゃん、今からどこ行くの?部活?」
「アルバイトです。隣町のファミレスで」
美鈴が振り向いてそう言うと、姉ちゃんは俺に、
「あんたは?」と聞いた。
「俺もバイトだよ。美鈴と同じファミレスで」
すると姉ちゃんの目がキラリンと光り、急にテンション全開になってこう言った。
「何よ何よそういう事なの⁉
学校でちっとも喋らないと思っていたら、ちゃんと二人の時間があるんじゃないの!」
「なっ⁉」
「ち、違いますよ!」
姉ちゃんの言葉にびっくりする俺。
そして美鈴も全力でそれを否定した。
「私は生活のためにアルバイトをしてるんで、決してそんな理由じゃないですから!」
そして美鈴は踵を返してさっさと教室を出て行こうとした。
が、いつの間にか美鈴の背後まで忍び寄った姉ちゃんが、美鈴の肩をガシッとつかんでこう言った。
「まあまあ理由が何であれ、同じバイト先なら一緒に行けばいいじゃないの。私もついて行くから」
「な、何で姉ちゃんまで来るんだよ⁉自転車使っていいから先に帰れよ!」
バイト先にまで姉ちゃんに来られたらどんな騒ぎになるか!
しかし姉ちゃんがそんな俺の言葉に素直に従うはずもなく、俺の方に振り向いて力強く言った。
「やだ!私も行く!」
「小学生かよ・・・・・・」
こう言い切った時の姉ちゃんはテコでも考えを曲げない。
物心ついた頃からの経験上、俺はその事をいやというほど思い知らされていた。




