第4話 「決着」
エリア王国の王の間には、
教皇アリア、第一司教ルマン。
国王フィリップ、王妃レーナ、第一王子アクア、
第二王子フーリヒ、宰相シモス。
カスティージョ王国の王の間には、
国王ファースト、正妃ルーネ、
第一王女マリナ、第二王女サナ、
第一王子ルーマスト、第二王子ロイド。
敵対している両国の王族が、
映像越しではあるが一同に集まったのだ。
「さて、これで舞台は整ったわね……」
あまりにもつまらなさそうな顔をしながら、
ため息混じりにアリアはそう告げる。
アリネに約束したとおり、さっさと終わらせて、
彼女たちが納得するまで休息をとりたいと思っている為、
この審議で時間をとりたくないというのが本音だ。
『教皇聖下にまでお手を煩わせることになるとは……
申し訳ありません』
「あなたが謝ることではありません。
謝罪すべきはエリア王族ですので」
画面の先の、カスティージョ王国の正妃ルーネが、
そっとアリアに向かって頭を下げる。
「おい!なぜ俺らには謝らないんだ!
そっちが勝手に宣戦布告をしてきたというのに!!」
『何を戯言を。
そもそも宣戦布告したのはそちらだろう?
アクア第一王子殿下とは違い頭が悪いようだな、
フーリヒ第二王子殿下?』
ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てるフーリヒに対し、
ルーマストは呆れたように言葉を発する。
「おい!!お前の息子はなんと無礼なのだ!
我が息子を馬鹿にするなど!」
『何を仰る。事実でしょう?』
フーリヒを馬鹿にされたと理解したフィリップは、
ファーストに対し怒りの声を上げるも、
ルーネが静かに、そして深く笑みを浮かべながら反論を言葉にする。
「話が進まないわね……」
はぁ、といった深い溜息と共にアリアが発した言葉で、
騒がしく挑発し合っていた両家は沈黙する。
「聖下、申し訳ありません。
我が身内はあまりにも馬鹿だったようです」
すっと、レーナがアリアに向かい頭を下げる。
その姿にフィリップもフーリヒも困惑を浮かべている。
まさか彼女がそのような行動をとるとは考えてもいなかったのだろう。
『……レーナ王妃、アクア第一王子殿下。心中お察しします』
「ありがとう、マリナ第一王女殿下。
その言葉だけでも今までの苦労が報われるわ」
「な、母上!何を言うのです!苦労など……」
「お黙りなさい!!」
普段は温厚で怒ることの無いレーナが、
ついに堪えきれなくなったとばかりに怒りの声を上げる。
その声に、周りに集っていた貴族達も宰相も、
驚愕の表情を浮かべ始めた。
「フーリヒ、そして陛下。
教皇聖下に多大なるご迷惑をかけるなど、
この世界において絶対に有り得ないことです!!
このエリア王国も、聖下の《聖神力》の御加護があってこそ、
魔族に襲われることなく平和に過ごせたのです!
そして、私たちの先祖が交わした契約といえど、
この世界を創った創世神に誓った契約は絶対。
ただの口約束ならばまだしも、
”創世神に誓った”のですよ?!!
……今回の件は全てこちらに非があります。
聖下、全ての責任はこちらが背負いますので、
カスチィージョ王国にはこの国にあった御加護を、
今為されている御加護の上に追加してくださいませ」
『レーナ王妃……』
珍しく怒りを顕にしたレーナに、
フィリップもフーリヒも周りの貴族達も言葉を失った。
そして、こうも言ったのだ。
『この国にあった御加護を今為されている
カスティージョ王国にある御加護の上に追加してほしい』と。
つまりは、
エリア王国は実質滅ぶべきだと言っているようなものだ。
『レーナ王妃!そこまでする必要は……!』
カスチィージョの第一王子、ルーマストが、
驚愕のあまり大きな声を上げる。
彼らにはそこまでするつもりはなかったからだ。
「レーナ王妃、貴女の覚悟は伝わりました。
しかし、この国の国民に罪はない。
よって、フィリップ国王とフーリヒ第二王子には、
コシュマール塔への幽閉、
そして王位継承権の剥奪を命じます。」
「……!ありがとう、ございます」
アリアは真っ直ぐにレーナを見つめながら、
優しく微笑みながらもはっきりと今後の処分について語った。
レーナ達ならば、この国を良い方向へ変えられるだろうという、
一縷の望みがあったからだ。
「ファースト国王、それで宜しいですね?」
『はい、聖下がそう仰るのであらば。
それに、レーナ王妃やアクア第一王子殿下のような優秀な方が、
このような卑劣なことに犠牲になることはないだろうと思っておりました』
アリアの問いかけに、
ファーストは画面越しにだが、
こちらにも分かるようにしっかりと頷いた。
「ファースト国王……感謝致します」
『いや、これからはアクア第一王子殿下、
あなたが今後のエリア王国の国王だ。
大変だろが、我々が力になれるのであればいつでも頼っておくれ』
「ありがとうございます」
あまりにも親切にしてくれるファーストに驚いたものの、
ご厚意に感謝すべくアクアは深く頭を下げる。
「何を言う!アクア!
お前は第一王子だ!我が国王なのだぞ!」
「……ローラス、この不届きものをさっさと連れて行け」
「はっ、ルマン様」
第二十二司教、ローラスが返事をすると、
エリア王国、王の間の大きな扉がガバッと音を立てて開き、
そこから修道院の者達が大勢入り込み、
無理やりにでもフィリップとフーリヒを拘束し、
アリアの命じたコシュマール塔へと引き摺りながら連行していく。
「……では、私たちはこれで帰ります。
エリア王国に残っている貴族達をどうするかは、
アクア王子、貴方が決めなさい」
「はっ、教皇聖下」
アリアとルマンは、『聖なる扉』のある場所へと歩きだし、
そうして【皇居】へと戻ることにした。
──こうして、目覚めて当日に起きた、
あまりにも憐れで愚かな王族を裁くことから、
アリアの300年ぶりの教皇としての日々は始まった。