第1話「教皇の目覚め」
──この世界には教皇聖下という神の代理人がいる。
その者の姿を見ることは、あまりにも少ないが、
存在していると信じているものは世界中に多数いる。
教皇の住まいである『皇居』のある辺りを
世界各国の国々は【神聖国】と呼ぶ。
そこは、教皇の聖神力が世界中のどこよりも
充満しているから、というのが呼ばれている主な理由だ。
この神聖国は、皇居に務める家族しか永住することは許されておらず、
世界中の人々にとって、神聖国に留まれるということは
皇帝になろうが、王妃になろうが、それ以上の誉れなのである。
◆
──眩く、懐かしい太陽の光。
久しく感じていなかった眩い光に目がくらみながら、
負けじとそっと目を見開いてみる。
そこは、豪華な装飾が施された部屋で、
私はベッドの上に規則正しく両手を胸元で組み眠っていたようだ。
「姉上、起きられましたか」
自分の左側から聞こえる、
懐かしい声が気になりそっと顔だけをそちらに向けてみると、
どこか嬉しそうな笑みを浮かべる青年がいた。
「ルマン……おはよう」
「はい、おはようございます。姉上」
彼の名はルマン。
1000年以上も前から私と共に居てくれる自慢の弟だ。
ルマンと私は、
『神の愛し子』とされ創世神アリシアと同じ金色の髪を持っている。
ロマンの後ろ髪は首元まであり、
横髪は胸元近くまで見ないうちに伸びていたようだ。
私はというとウェーブがかった後ろ髪は膝下にまで伸びていて、
横髪も同じくらい伸びていて、
前髪も胸元近くまで眠っているうちに長くなっていた。
ルマンの他にもう一人、私には妹がいる。
妹の名前はアリネ。
軍事方面において最高峰の立場、
”聖騎士団総司令”という立ち位置で、
私を支えてくれる愛しい妹。
彼女もまた私たちと同じく、
薄い金色のウェーブのかかったロングヘアを、
ポニーテールにして白と金の刺繍が施された軍服を身にまとっている。
そして、私たち三姉弟には大いなる秘密がある。
それは、創世神アリシアに祝福されたことにより、
寿命の限りを失ったこと──つまり”不老不死”ということだ。
身体の成長は、祝福を受けた年から止まっているものの、
どうやら髪は成長するんだな、とか目覚めて早々、
どうでもいいことを思ったりする。
「ねえ、ルマン。私はどれくらい眠っていたの?」
「ざっと300年ほどです」
「なんだ、前回とあまり変わってないわね」
ふむ、とルマンからの返答に目を細めつつ、
横になっていた己の身体を起き上がらせる。
「では、ここ300年の間で大きなことはあった?」
「ひとつ、耳に入れておいてもらいたいものが……」
少し気まずげに言うものだから、
何かしらの面倒ごとかしら、と思いながら私は先を促すことにした。
「100年前に、エリア王国と
カスティージョ王国の対立が激化しかけていると、
第二十二司教からの連絡が入り、
僕が赴き、神に誓うとの契約の元、
締結させることができたのですが……。
最近になって、今代のエリア国王が
カスティージョ王国に宣戦布告を言い渡しまして……」
「つまり、契約違反を起こしたと言うことね?」
「その通りです、姉君」
はぁ……と私は深く溜息を吐く。
どうやら300年の間に並々ならぬ何事かは起きたようだが、
今現在の問題点は、契約違反を起こしたエリア王国への対処、
といったところだろう。
300年前、何かと人々は私を恐れてか、
契約違反を起こすことはしなかったのだが……。
やはり、”300年”が仇となったのか。
「良いでしょう、彼らの仲介をしに行きましょうか」
「ま、待ってください姉上!
今起きたばかりだというのに……!!
今日はゆっくりしてください、僕が向かいますから!」
立ち上がろうとする私にルマンは慌てて、
ベッドの近くにあった椅子から立ち上がる。
「いいえ、300年の間あなたに任せ切りにしたのだから、
そろそろ動かないとあの者達は理解しないでしょう?」
「それは……」
長きに渡り、この世界を見てきたからこそ分かる。
ときに聡明な者が国を収めたとて、
己の私利私欲に身を溺れさせ、
その名誉を地に落とす者が、
私が生きた2000年の間でどれ程多かったことか。
そして、それでも時に300年眠っていた私に代わり、
世界を見てきたであろうルマンの方がどれほどに人間が愚かで、
無知なのかは呆れるほど理解しているだろう。
3歳差とはいえ、かなりの年数を生きているのだから
「……わかりました、しかし僕もついて行きます」
「わかったわ。すぐに準備する」
寝間着のままなので、このまま赴く訳にはいかない。
私はルマンが呼んだ専属女中に手伝ってもらいながら、
身支度を整え、ルマンとアリネ。
そして、ルマンの弟子であるエルドリエにしか、
開くこともくぐることもできない『聖なる扉』を出現させて、
エリア王国の主要人物が集まる場所──王座の間へと移動した。
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