異世界から来た女と出会ったんだが
こちらは短編として書いていますので、これだけでも完結した話になっております。
一応、「異世界とかいうところから来た男に会ったんだが。」の続編的な話になっていて、同じ主人公の目線で、少し後の話を書いていますので、もしよろしければ、そちらもどうぞお読みになって頂けると幸いです。
また、コメント、ブックマークして頂けると、非常に嬉しいです。
1、2、3、4、5・・・少なく見積もって5体か。
手持ちの魔石の残りはあと3つ。
なんとかここを切り抜け切れるか?
目の前にはトレントと呼ばれる、樹木の魔物が居る。
奴らの移動速度はそこまで早くない。
なので、1対1なら十分に逃げ切れる。
だが、それを見越してか、奴らは複数体で囲むようにして襲ってくる。
足は遅いが、手のように伸ばす枝の動きは素早く、また、切断してもその再生能力も高い。取り囲まれたら最後、逃げ場もなく、リンチに会うだろう。
じりじりと間合いを詰めて周囲から囲ってくるトレント達。
このままでは奴らの餌食になってしまうだろう。
魔石を一つ掴み、力を籠める。魔石から生まれてきた力を素早くハンマーに流していく。するとこのハンマーが熱く燃え上がる。
「くらえーーー。」
幹ではなく、太めの枝を狙い、一本、なんとかへし折る。
しかし、着火はしない。
トレントは炎が弱点とは聞いたが、魔法強化した物理攻撃程度では、焼くことは難しいようだ。
(今のうちに!)
その折れた枝からの隙間をかいくぐって、奴らの円陣から抜け出そうと駆け出すが、素早く、隣のトレントから枝が伸びてきて行く手を阻まれる。
(くそっ。)
「ふんっ!」
駆け出そうとする順路を遮ってきた枝を、魔石の炎が消えたハンマーで殴るが、軽く撓った枝が逆に襲ってくる。
ビュン。
すんでのところで躱すことができたが、もう少しで逆にこちらがやられていた・・・。
シュッ。
先程の枝を躱して体勢を崩したところに、追い打ちの枝が伸びてくる。
それもなんとかギリギリでバックステップで躱す。
しかし、先程よりも狭くなった円陣に戻されてしまった。
ニタニタと気持ち悪い笑みを浮かべる魔物たち。
く、くそう。
手はもう残されていないのか・・・。
そう思ったとき。
「火炎放射器!」
「グォォォォー」
女の声がした方向を見ると、トレントが激しく燃え上っている。
その横には何食わぬ顔で手のひらからもの凄い炎を出している女が。
「あんた、冒険者ね?なんだか辛そうに見えるけど、助けが必要?」
「頼む!」
俺は直ちに救援を頼んだ。どうせここで消えた命も同然だ。後で何かとんでもないものを要求されても、今死ぬよりはマシだ。
「オッケー。」
女は軽く返事したかと思うと、同じように手から炎を、今度は両手で2方向に出しながら近づいてきた。あっという間にその先にある2体のトレントはそれぞれ力尽きる。とんでもない火力だ。
「グゥゥゥォー」
残りのトレントは退却を決めたようだ。
「助けてもらって感謝する。俺の名前はリンクス。」
「アタシはアイコよ。」
「聴きなれない名前だな。もしかして異世界人か?」
「ええ、そうよ。向こうじゃ全然冴えない大学生だったんだけど、お陰様で異世界生活満喫させてもらってるわ。あんた、リザードマンっていう種族?こっちに来てから結構経つけど、初めて見たわ。」
「確かに俺たちリザードマンは人族と比べて数が少ない。しかも主に住んでいる地域はこの辺じゃないからな。とりあえず、この森を出ないか?またトレントが出てきたらかなわん。まぁアンタからしたら余裕かも知れないが。」
「いいわよ。それからアタシのことはアイコって呼んでちょうだい。結構この名前気に入ってるのよ。だからこっちに来てもわざわざ同じ名前使ってるぐらいなんだから。」
アイコは少し頬を膨らませて見せた。決して派手でも端正な顔でもない彼女だが、愛嬌を作ってくれたことはすぐに分かった。なんだか打ち解けやすいいい奴のようだ。
・・・。
しばらく歩いくとやっと森の出口が見えてきた。ここまで来たら街道へつながる獣道もくっきりしている。
「なんでリンクスはあんな森の真っただ中にいたの?」
「森の深部に生える特殊なキノコ採取の依頼があってな。用心しながら少しずつ入っていったはずなんだが、気付けばトレントに囲まれて、一緒に来た奴は全滅。危うく俺も、ってところだったのさ。そういうアイコは何でなんだ?」
「アタシはこの森のモンスターの間引きの依頼。でもまぁトレントがあんな群れているとは思わなかったけど。」
普通、魔力がそこまで溜まっていない森でトレントが出てくることは稀だ。出てきても1、2体という程度だろう。1体だけなら十分に走って逃げきれる。森から放たれていた魔力量から考えて、『いてもせいぜい1体』という予想だった。一応のトレント対策で俺はハンマー装備に炎の魔石も持ってきたんだが。
「全くだ。俺なんか、お陰でこの様だ。ところで、アイコはソロなのか?」
ガチの魔術師がソロってのは珍しい。盾役と一緒に行動するのが当然、身の安全のためなのだ。
「ま、訳アリでね。リンクス、ゾーイの街から来たんでしょ?ゾーイに戻るの?」
「いや、仲間を全滅させられてオメオメ帰っても、仕方ない。ゼンの街まで行って、そこで報告をすることにするよ。」
「ちょうど良かった。ゼンの街まで一緒に行きましょう。」
先程の炎を見る限り、アイコは『べらぼうに』強いが、それでも前衛は必要なのだろう。俺たちは街道を西に向かって歩き出した。
またしても、ちょっと急な終わり方ですみません。
小品集のように単品の作品を作っていきたいと思っています。
感想をお待ちしております。