1.神を纏う者
弓矢が持っていた謎の力。
設計図を見たときは説明書も何も添付されていなかったから、この弓矢が何なのか、まったくわからなかった。
だが、今ならわかる。
この矢、「ヤゴコロアロー」には神の力が封じられている。その力を、俺がこの弓、「ヤオヨロズボウ」で解き放ったのだ。
説明書がなかったのは、矢を放ちさえすれば、どう使えばいいか、何ができるのかが勝手に俺の脳にインプットされるからだ。
俺が纏っているこの鎧に飾られた、暴風、大雨、落雷などをモチーフとしたのであろう装飾が、その「力」を示している。
……いける、この力があれば。
「何っ……!? なぜお前がその力を」
「これでお前をぶっ潰せる」
「そうはいかんぞ! 速く!」
そう怪物が言い放つと、怪物は目にもとまらぬ速度でこちらへ向かってくる。
「こざかしいな。お前がそう来るなら俺にも考えがある……ウィンド!」
「ウィンド」の一声で、俺の体も、スピーカーの怪物のように加速する。
風の力だ。ヤゴコロアローに封じられた神の力は気象の力。その一部を開放する。
解放された風の力が、俺の体を動かす。
常人には見えないであろう速度で、俺は怪物と何度も拳を交わす。
だがこのままではまずい……。なぜなら俺はただ風に乗っているだけだからだ。体が加速したところで、意識まで加速することはない。
怪物を目で追い続けるほど、俺の集中力は削れてゆく。
「強くッ!」
削られた集中力。迫りくる衝撃波。
だが、間一髪。俺は風を操り右に躱す。
「かかったな。程よく伸ばす」
衝撃波が、横に広がる。
怪物が手を俺の方向に合わせ、衝撃波が来たのだろうと思っていた。躱したはずだった。
怪物が手を横に動かし、身を躱した俺に再び照準を合わせたと思えば、衝撃波が横に広がっていた。
俺の体は、木に叩きつけられた。
迅みたいに、俺は死ぬのか。結局、何もできないのか。
真っ赤に染まった不気味な夕景が、迅の死を、俺の死を連想させる。
様々なことが、脳裏をよぎる。
怪物が、俺の方へ歩んでくる。
「これで終わりだ」
怪物が、手をこちらへ向ける。
一瞬。死を覚悟した。恐怖だってした。
だが、俺は死ねない。
迅を殺された悲しみ、怒り、復讐心。俺は絶対にあいつを許さない。
――どんな状況も関係ない。
「ははっ……」
俺が望む結果のために、演算し、未来を予測する。
「どうした……何がおかしい」
怪物が顔をしかめる。
「何が『終わり』だ。この音楽家気取りが」
……そして今、活路が切り開かれた。
「ニードルアイスッ!」
怪物の足元から、霜柱が生じる。
「何……!? 動けん……バカな」
「あれじゃ『歩くような速さで』だよなあ? お前がわざわざ歩いてきてくれたおかげで助かったよ。狙いを定めることができた」
「ふざ……けるなぁ!」
「俺の敵は……一人残さずぶっ潰す!」
ヤオヨロズボウにヤゴコロアローをセット。弦を引き、矢を放つ。
これでエネルギーの開放は完了だ。
「はぁぁ……」
風の力を纏う。体が浮遊する。
氷の力を纏う。右脚が凍り付く。
「ウェザーフィニッシュッ!」
怪物に向かって急降下。飛び蹴りを放つ。
怪物の体を貫き、その体を凍てつかせ、氷塊に閉じ込める。
雷の力を纏う。右脚が雷の閃光を放つ。
一度蹴り抜いた怪物に向かって、後ろに振り向き、回し蹴りを放つ。
「はああ!」
雷を帯びた回し蹴りによって、氷塊ごと、怪物は破壊される。
まるで、鉄球クレーン車が建物を破壊するように。
「さよなら、だ」
最終話まで書き終わったら投稿するのでブクマしてくださると非常に嬉しいです。プロット通りならそんな長い話にはなりません。
ですがここまで読んでくださっただけでとても嬉しいです。ありがとうございました。