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プロローグ

 学校にいないときは家でプログラミングの勉強ばかり、そんな家に籠りっきりの俺、天野(あまの)龍太郎(りゅうたろう)。だが俺には、たった一人だけ、親友がいた。

 学校ではお世辞にも明るいとは到底言えない俺に話しかけてくれて、いつの間にか登下校を共にするようになっていた俺の親友、山風(やまかぜ)(じん)


 ――そんな彼が、今殺されようとしている。


◇ ◇ ◇


 今日は親父の一周忌だ。まあ、一周忌というと少し語弊がある。それはなぜかというと、俺の親父は今から一年前、失踪したからだ。

 三年前、俺が住んでいるこの街、縁都(えんと)で大災害が起きた。暴風、大雨、落雷。さまざまな災害が重なり、そこにトドメ、と大地震が発生。土砂災害に家が飲み込まれ、俺のおふくろは死んだ。学校と職場にいた、俺と親父だけが助かった。

 ……その三年前の出来事が堪えたのかは俺にはわからないが。とにかく、親父はおふくろの後を追うように、俺の傍から離れていってしまった。


 そんなこんなで独りとなってしまった俺だが、三年、一年も経てばある程度の心の傷は塞がる。過去に向き合うため、ちょうど親父の一周忌ということもあり、今俺は、親父の部屋で遺品整理をしている。


 親父がいなくなってから、親父の部屋には一度も入ったことはない。当然、掃除もしていないわけだ。

 ふと、部屋にあるパソコンに目が行った。スリープモードだからか、ランプが光っているのだ。……一年間、電気代を食っていたのか。

 埃を被ったキーボードを叩き、パソコンを起動する。何やら画面に表示されたのは、弓と矢のようなものの設計図のようだ。他に開かれていたタブには、プログラムのコードが書かれている。

 親父は何か作ろうとしていたのだろうか、あるいは作っていたのか……。それは俺にはわからない。パソコンの机に置いてあるこの基板や金属、木材はこの弓矢の材料なのだろうか。


 設計図を見るに、材料はすべて揃っているように見える。……親父が残してくれた贈り物だろうか? まさか、な。

 基板などが入っているし、何に使うのかはわからないが、それでも、お守りみたいでよさそうだ。破魔弓、破魔矢みたいな感じで。




 さっそく俺は近くに置いてあった工具を使って、設計図を元に弓矢を作成した。妙に機械的だが。折りたたみ式の銀塗装がされた黒い弓で、通学鞄にも入りそうな大きさ。本当にお守り代わりになりそうだ。


 ……だが、工作なんてしていたら、あっという間にその日が終わってしまったのは言うまでもない。


◇ ◇ ◇


 弓矢をお守り代わりに通学し始めて数週間。俺は特にこれといって特筆することのない日々を過ごしていた。

 学校も終わり、帰宅途中の俺と迅。いつもなら自転車で通りすぎる、何もない広場だったが、今日は何やら騒がしい。


「リュー、なんだろうね? あの騒ぎは」

「……まるで何かから逃げているみたいだ」

「何か事件でもあったのかな」

「少し見に行くか? 迅」

「面白そうだね。行こうじゃないか」


 俺たちは自転車を降り、自転車用道路から広場の中心へと向かった。

 聞こえてくる悲鳴、逃げ惑う人々。死んでいるのか、倒れこんでいる人もいる。鉄のような臭いも漂ってくる。


 そして、その中心には――この世のものとは思えない存在がいた。


 人型で、黒い体。両肩にはスピーカーが乗っており、両肩以外の部位にもスピーカーや、その部品が埋め込まれている。

 悲しみに満ちたような銀色の眼。まるで涙のように頬を伝う赤いコード。憤怒、憎悪、絶望、すべての悪意が込められたかのような白い牙。

 それらの容姿が、本能的に恐怖を抱かせてくる。


 そして、その醜悪な顔は、こちらを見つめている。



「逃げるぞ迅!」


「う……ぁ……」



 腰が抜けたのか、迅は動こうとしない。俺が迅に駆け寄ろうとした、その瞬間。


 怪物は迅の方に注意を向けた。



「……強く(フォルテ)



 怪物がそう言うと同時に、衝撃波が放たれ、迅は広場に植えてあった(けやき)の木に叩きつけられる。


「死にたくない、嫌だ……!」


「迅!」



「……三連符(トリプレット)



 怪物は迅に近づき、その拳で、三連撃を叩きこんだ。


 欅の木が、バサバサバサ、と揺れる。


 ……俺の心も、揺さぶられる。



「これで、もう一人分だ」


「……何が、『もう一人分』なんだよ。ふざけるな」


「命の数だ。我がこれまで集めた、な」



 ……怪物のその言葉が、嫌でも迅の死を俺に知らしめる。



「お前で、さらに一人分だな……きわめて強く(フォルティッシモ)


「まずっ」


 俺が言葉を言い切るより先に、怪物から放たれた衝撃波が俺を襲う。吹き飛ばされ、床に叩きつけられる。



 吹き飛ばされた俺の視界には、同じく吹き飛ばされた俺のカバンが入った。


 ――そして、その開いた口から、数週間前に作った弓矢が出ているのも。



「……これだ」



 俺は、ヤツに、文字通り「一矢報いる」ために、矢をつがえた。


 これで何かが変わるわけではないだろう。そんなことはわかっている。理屈などかなぐり捨て、俺は弓を放った。


「食らえ……」


「ふん、そんなもので何ができる?」


「うるせぇな、黙ってろよ……。俺はあんたを許さない……」


 そう言って、俺は矢を放った。どうせ何も変わらない。そう思っていた。そのはずだった。



 ――しかし、矢から稲妻が放たれ、俺は鎧をその身に纏っていた。

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