天城家の日常
「空、ご飯よー」
「はいよー」
ベッドから飛び降り、階段を1段飛ばしで駆け下りる。
「兄さん、はしゃぎすぎ」
「まあまあ、たまにはいいじゃんかー」
「いつもだから」
「光は冷たいなー」
艶のある黒髪を肩まで伸ばした俺の妹、光は、今年受験だからと雰囲気がピリピリしている。
少しでも和ませたかったのだが......。
「ほら光、ピリピリしてないでご飯食べなさい」
「うん」
母さんがそう言っても空気は冷たくなるだけ。
中2の頃は凄く可愛かったのになあと一人で浸っていると
「兄さん、キモイ」
俺の内心見透かされてる!?
「母さん......俺、」
「はいはい、空もさっさと食べなさい」
言い切る前に指示を出すとは......。
「いただきます」
うん、鮭の塩味がしっかりきいてて飯が進む!
──
「ごちそうさま」
「もういいのか?」
いくらなんでも食べる量が少なすぎる。
「お腹いっぱいにすると眠くなるからいいの」
そう言って光は部屋に戻っていく。
「でも、全然食べなくても勉強に集中できないだろうが」
俺は急いでご飯を食べ終え、光が使っていた茶碗を洗ってその中にご飯を入れ、光の部屋の前に置いておいた。
『お腹が空いたら食べな』と手紙を添えて。
当然ラップもかけてある。
「よし、風呂入ろ」
「母さん、風呂沸いてる?」
「沸いてるわよ」
「んじゃ入ってくる」
短く会話を済ませ、着替えを持って脱衣所へ向かう。
「父さん?」
「お、空か?」
鼻歌が聞こえた気がしたから聞いてみれば......。
「うん」
「そうか......空も風呂に入りに来たか......」
なんだろう。凄く嫌な予感がした。
「俺、部屋で待ってるからあがったら呼んで──」
「空、たまには男二人で風呂に入ろうぜ〜」
即座にこの場から離脱しようとしたが、それよりも早く首根っこを掴まれ引きずり込まれた。
「ったく男二人でなんで風呂入んなきゃなんねえんだよ」
「まあまあ家族だからたまにはいいだろ。あ、もしかして......」
「あん?」
「光と入りたかった?」
「ぶっ!巫山戯るなエロ親父!」
「あれ?マジギレするの?図星?図星?いやあまあわからなくもないぞ、空。光は可愛い!一緒にお風呂に入りたいと思うのは無理も無い」
「思ってねえから!勝手に決めつけるな!」
「ふーん。へー。ほー」
「なんだよ......」
「いや、だいぶ痩せたんじゃないか?」
話変わりすぎだろ......。
「そうか?あまり変わって無いように思えるけど......」
「うーん、そいっ!」
「うおわぁ!」
拳が飛んできた。
「む、避けるか、あ、あれ?」
「父さん!」
ガンッ!
「空ー?何の音ー?」
台所から母さんの声が聞こえてくる。
嘘を言ってくれと目の前で上下反転した全裸男が頼んでくるが、
「父さんが風呂場で転んだ」
ありのままを俺は伝える。
「そうー」
あ、あれ、無関心!?
「はははは、母さんはな、お前が生まれる前に俺と何回も風呂に入ってその度に俺が転んでたから慣れてるんだよこういうのには」
自信を持って言うことじゃないと俺は思った。
「はぁ......まあ入るぞ父さん」
服を脱ぎ捨て、風呂場入る。
「それにしても空、お前反応速度は上がってんだな」
父さんはこれでも昔剣道をやっていた。
母さんと出会った瞬間やめたそうだが。
「そんなこともわかるのか」
「これもあのゲームのおかげか?」
「たぶんね」
「そうか」
あれ?会話がきれた?父さんはいつも何か話してくるのに......。
ふと横を見ると、父さんは何時に無く真剣な表情だった。
何かあったのか?不安が俺の中に積もり始める。
「空、真面目な質問なんだが」
「な、なに?」
いつもとあまりにも違う父さんに少し体が固くなる。
「──好きな子とかいないのか?」
「父さん、俺あがるわ」
「え?いや、答えてくれよー」
「いない」
「そんなこと言ってー本当のところは?」
この父親は......。あんなにシリアスな空気でよくあんなことが聞けるな。
「はぁ、父さん風呂掃除頼むな」
「あ、待ってくれ!空!頼む!」
俺は一言も返さずに扉を閉め、服を着て2階にあがる。
「ん?」
階段をあがったところに空になった光の茶碗と手紙が置いてあった。
「......」
『兄さんのバカ』
手紙には可愛い文字でそう書かれていた。
「酷いなあ」
「空、顔が緩んでるよ」
「え、嘘?」
「ホントよ、何かいいことあったの?」
「んなことある訳ないしょ」
茶碗を母さんに渡し、光の部屋にウインクして自室に戻る。
「さてと、明日は宿題ないし、FSOだー!」
布団にダイブし例のアレを被り電源を入れる。