3.痛めつける/痛み分ける
バリン! と、窓ガラスが破壊されたような音がして空間が割れる。その現象と共に入ってきたのは、金髪で凶悪な目つきをした、俺を駆逐し尽くした件のロリ勇者だった。
「「はぁぁぁああっ!?」」
と、疑問符と悲鳴が重なる。
「えい♪」
勇者が現れ言葉を発したその瞬間、ルーリー様はふわふわとした表情のまま指先を振るう。
すると光の鎖のようなものが、勇者の四肢を拘束した。
超高速というよりも、テレビの映像が飛んだみたいだった。概念に働きかける系の魔法なのだろうか……。
「そんなところよ♪」
と、こちらの考えを見透かしたかのように、ルーリー様は俺にお茶目なウインクを投げた。
まぁ……確かに。
超高速くらいでは。
コイツを捕らえられないことは、俺が身をもって知っている。
そう俺が思っていると、幼女はペッと唾を吐き捨て、勝気に女神を睨んで言った。
「何しやがる。苦しくねーから別に良いけどよ」
場末のヤンキーみたいなしゃべり方をする勇者。
すこぶる口が悪い。対峙していたときから思っていたけれども。
こういうところも、勇者っぽくないところのひとつだ。
「痛みを与えやがったら殺す」
「うふふ、怖いわねぇ~。気をつけなくっちゃ☆」
「チッ……!」
勇者からの睨み。を、ゆるやかにいなす女神。
こ、怖い……。俺、地上に帰って良いですか。
「大丈夫よ~。丁度良いから、一緒に説明しちゃうわねぇ?」
ふわふわした空気と共に、ルーリー様は俺たちに言葉を投げた。
「まずさっきも言ったけれど~。これから貴方たちには、一緒に生きてもらうことになったのよ~」
「はぁ? 殺すぞ」
っていうのは、勇者のせりふですからね。俺じゃないですよ。
というかコイツ、魔王の力を持つ俺でも神々は恐ろしいってのに。よくもまぁそういう態度を取れるよなぁ。中空に貼り付けにされている状態で、不利なのにもかかわらず、だ。
「ちょっとだけ態度を改めてほしいわねぇ~。えい☆」
ぱちんとルーリー様が指を鳴らすと、勇者の纏っていた装備がすうっと消え、そこには――――貼り付け状態で身動きが取れない全裸の幼女という、ヤバめな絵面が完成していた。
「ぶっ!」
見ていたら俺が殺されそうだと思い、慌てて目をそらす。
全身を覆うくらいの髪の毛があったから、肝心の部分は『あんまり』見えていなかったのが救いだ。……ただ、割と目に焼きついてしまっている。その、全体的にすべすべな肌とか。平たい胸元とか。
「はん。別に……、全裸くらいじゃァどうともネェよ」
「あらそうなのぉ? 発達していないからこそなのかしらぁ?」
「殺すぞ」
「い、いや、ロリにはロリの良さがあるとは思いますよ女神ルーリー殿! 特に生えてないところとか、」
「殺すぞッ!!」
「ひい!」
俺への怒気のほうが強いんですが! 生えてないことのほうが気になるお年頃なのか……。良く分からん。
しかし、ロリ声なのにドスが利いているという、不思議な響き方をする声だ。
「髪の毛はそんなにも量が多いのにねぇ~。ウフフー」
じろじろと一部を見ながら挑発するように言うルーリー様。お、恐ろしい煽り方だぁ……!
「……オイこのクソババ、――――ッ!?」
ルーリー様からのイジりに対し、勇者(確かアールメイアとか言ったか?)は強く睨み返す。その瞬間――――
「うぐぇぇぇッッ!!?」
それは、先ほどまでの、ドスの利いた声……よりも更に低い声。
およそ幼女の体格から出る様な声では無かった。
「て……、テメェッ! なに……を、何をしやがる!?」
「えい♪」
「ゴバァッ!?」
ビクン! と、勇者の体が再び揺れた。
……コレ、明らかに痛覚的なリアクションです、よネ?
「おとなしく話を聞いてくれるだけで良いのよ~。十分くらいで終わるから、ね?」
「ギギッ、ギ、ギっ――――」
幼女からとは思えないほどの、壮絶な呼吸が聞こえる。
俺知ってる! コレ、身体のナカから痛んでくるやつだ! ……昔一回だけ、油断して冒険者に食らったことあるんだよなぁ。思い出したくもねぇ。
「あらりょーちゃん。何かを思い出してるのかしら♪
安心してね? 地上に出回ってる魔法よりも、はるかに精度の高い魔法だから♪」
「説明を! 説明を再開しましょう女神ルーリー様殿! なにとぞ、なにとぞよろしくお願い申し上げまする!」
息も絶え絶えじゃねーか!
正直、見ても聞いてもいられん。いたたまれなさもあるが……、これ以上続けられると変な趣味に目覚めそうで怖い!
うおお、集中力を持続させろよ、俺!
何たって今からの説明には、今後の生き死にがかかっているのだから!
「ウフフ~♪ それじゃ、説明するわね~」
…………。
……。
要約すると。
俺と、この幼女勇者なる力強き生き物は……、互いに『制約』を受けた状態で、地上で生活しなければならないということだった。
神側としての目的は、強大な力を持つ幼女勇者・アールメイアの、人間的更正。コイツもコイツで、何かをやらかしてしまったのだろうか。もしくは他に何か理由があるのか。
まぁこんな性格だからなぁ……、叩けばいっぱい埃が出てきそうではある。
そして俺への処罰も兼ねている。
アールメイアの人格更正のための、付き人である。
魔王となれるレベルの力を持って、全力で勇者を管理しなければ……、俺は禁固刑に処されるとのことだった。
「まぁそこの判断はぁ、私判断でユルくやっておくわ。
基本的には禁固刑になんかさせないから、大丈夫よ~♪」
「はぁ……」
そんなガバくていいのかという疑問はさておいて。
まぁそんな風に、元々魔王なんてものをやっていた人間に、そんなことを頼むのもどうかとも思ったのだが……。
「だって他に居ないじゃない」
「あぁ確かに」
コイツと連れ立てる存在というものが、そもそも俺しか居ないのか……。
正確に言えば、こいつの膨大な力にギリギリついていけるのなんて、チートレベルの魔力を持つ俺だけなのである。今のところはだけど。
「手綱、任せたわよ♪」
そうこうして。
勇者・アールメイアは、これからも暴れまわるために。
元魔王・セリ――――関内 了介は、『罪』を償うために。
それぞれ、その状況を受け入れるに至った。というか、ほぼ強制的に承諾させられた。
それ以外にも細かい説明や制約なんかを設け(その間にアールメイアは何回か『オシオキ』を食らっていた)、俺たちは仮初の自由の身となった。
「やりたい放題やっちゃってごめんなさいね~。けど、ココくらいじゃないと、アールメイアちゃんには勝てないから、ついね」
「え、そうなんすか?」
俺が質問をすると、横からアールメイアが凶悪な目つき(デフォルトでこういう目つきだということをここで知った)と共に答える。
「ここじゃあワタシやお前の能力・魔力もほとんど使えないだろ? 天界っていうフィールドは、神に有利に出来てるんだよ」
「へ、へぇ……。そういうもんなのか」
そういう場所だったのも驚きだが、俺とまともに会話してくれていることのほうが驚きだった。
……なんていうか、ちょっとは心を開いてくれてるのか、な?
ついさっきまでは敵対していたんだけども。
そんなことを考えていると、アールメイアは腰に手を当て、勝気に言葉を投げ捨てた。
「けっ! 自分のフィールドに引きずり込んでしか他人と話せないってんじゃあ、神々も高が知れてるよなァ!」
「あ、馬鹿」
悪態をつくと同時、女神ルーリーの指先がついっと動く。
「ギギギギギギィィィッッ!!」
古びたドアみたいな声を出して悶絶するメア。
うん……。およそ人体から出て良い声ではないと思われる。
「て、テメェ……、卑怯……だ、ぞ……!」
「学習しないなぁ……。頭が良いんだか悪いんだか」
あまりの痛々しさに目を逸らしつつ、俺はやれやれとため息をつく。
しかして、まぁ。
そんなこんなで。
俺とメアは、
倒し、倒されという関係から。
共に生きる、共存関係となったのだった。
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