プロローグ:約一ヶ月後の俺たち
「ギャ~ッギャッギャッギャッ!」
と。
そんな風に。
けたたましい笑い声が、今日も聞こえる。
怪鳥のような、魔物の鳴き声のような。特徴的な『ガ行』の笑い声。
メアが発する、笑い声だ。
時刻は深夜を過ぎ、月明かりの元、闇夜に舞う幼女が一匹。
無限とも思われたスケルトンの群れを、ばったばったとなぎ倒す。
己の肉体によって。
時にはその手から放つ超級魔法によって。
飛び散るスケルトンの骨々。
舞い上がる幾多の土ぼこり。
ちょっとした天変地異みたいなものを引き起こすコイツは、何を隠そう選ばれし者、勇者である。
元は草原地帯だったこの場所も、なんということでしょう、あっという間に荒野に早代わりですね。……カンベンしてほしい。
百四十センチにも満たない矮躯。
あどけなさが残りつつも、整った顔立ち。
凛々しい表情で、片眉を上げ悪どい笑い方をしている。……はい、コイツが、間違いなく勇者です。
「おいメア……、頼むからもうちょっとセーブして戦ってくれ……! このままじゃ、街のほうまで被害が及んじまうよ!」
「アァ? これくらい自衛できるだろ? 師匠」
「計測できないレベルの魔法だぞ! 無茶言うなや!?」
「チッ……、仕方ねぇ、なァ!」
口をすぼめつつ、可愛らしい仕草で極大魔法をぶちかます幼女。
一瞬、夜が昼になるほどの閃光。その一撃により、十体以上のスケルトンたちが跡形もなく消滅した。
「おらよ、セーブしといたぞ。褒めろや師匠」
「あ……、あぁ、うん。アリガトウね、メアちゃん。偉いねー」
「ギャッギャッギャッギャッ!」
遠くから俺が棒読みで褒めると、メアは嬉しそうに笑った。
「楽勝だなッ!」
さて。
広大に広がるこの大地を、所狭しと飛び回り魔法をぶっ放すあの幼女は、アールメイア・エトワール。
通称メア。
選ばれし者の中の選ばれし者。
歴代勇者の中でも、軍を抜いて規格外。
あまりにもその存在は危険すぎるため、天上におわす神々は。
俺という、元・魔王を使ってまで、管理下におくことを決意した。
「ギャッギャッギャッギャッ! 見ろ、大勝利だぞ豚ァ!」
「あぁうん。すごいね、よくやったぞ。……ハァ」
嘆息しつつ、帰ってきたメアの頭をなでると、まるで褒められて喜ぶ大型犬みたいなリアクションを見せた。……こうしていると、普通に可愛いんだがなぁ。
「師匠のための殲滅活動だ! 頭ァ撫でろ、豚」
「はいはい……。分かりにくい愛情表現ですこと……」
さて唐突だが。
この勇者・メアは、何故か俺に惚れている。
理由は不明。というよりも、メア自身も明確には分かっていないらしい。
こんな小太りで、三十半ばで、イケてなくて、元魔王だったという前科のある俺の、いったい何が良かったのか、今でも分からない。
だが。
コイツが俺に惚れたと抜かしてきて、もう一週間。
こうして言うことを聞いてくれるようになって、まだ一週間。
「う~ん……」
魔法の瘴気が漂う中、少しだけ脳裏をよぎる。
まだメアが、俺にデレていなかった時のことを。
しつけを上手くほどこすとか、そもそもそういう段階にすらすら至ってなかった時期を。
今現在、ここら一帯はメアのチカラによって更地になってしまったが……、これでもまだマシなほうだったのである。
「あぁそういえば。
あのときもメアは、周囲を派手に爆発させていたっけな……」
「あ? 何だよ唐突に」
「いや何でもないよ」
「オラ師匠。帰って、報酬もらって、さっさと飯食って寝るぞ」
それにしても口が悪い。
……お前本当に俺のこと好きなんだよなぁ!?
「ギャッギャッギャッ!」
邪悪に笑いながら、先を歩いていくメアの後を追う。
「早く来ねぇと、今日こそ寝込み襲うぞ師匠ー! 既成事実作ってやろうかァー!?」
「変なこと大声で言うんじゃありません! ……ちょっと待ってろ!」
駆け寄り追いつくと、メアは機嫌良さそうに言い放った。
「これでしばらくは厄介ごとも無いだろう?
明日ッからまた――――ハーレム作りだッ!」
俺はその言葉を聞いて、更に頭を痛くした。
俺を好きなのに……、俺のためのハーレムを作るという……、幼女。
「理解が追いつきませんね……、コレは」
つぶやいて。
メアの方へと、ゆっくりと歩き出す。
「……とりあえず今日は休もう。色々と疲れた」
まぁこれも。
いつものこと。だけどな。
これは。
極悪幼女勇者、メアと。
その手綱を握らなければならない、元・魔王である俺との。
異世界世直し物語であり――――
ハーレムを作るための、物語である。
新連載です!
メアとリョウスケの旅路をお楽しみいただければ幸いです!