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えっせいのみなさま  作者: 萱野きこ
2/2

2日目 【自慢のともだち】

 私にとって、このエッセイは日記である。

 しかし今、ぐったりして笑えないほどに不安なことがあるのだが、気持ちの整理が付かず、エッセイにそのことを書く気にもなれない。けれど、この不安定さを、純粋に思ったことを、日記に書いて受け止めたいと思い、PCを立ち上げてみた。


 私の友人は、現在、行方が分からない。

 辛い。彼女との思い出の代表として、高校時代の夏休みに、二人きりのキンキンに冷えた美術室で3時間以上語り合ったことがある。

 何を話したか詳しくは覚えていないが、とにかく話が止まらず、時間が経つのが早すぎた。帰る前の話題がヘッドフォンについてで、彼女はヘッドフォンがオタクっぽく見えることに不満があるようだった。私は、ヘッドフォンにオタク臭を感じるが、人は別に自由であるべきだと思うし、自分が自由に出来る分だけ、相手も自由を持っていると思うと言った覚えがある。いっちょ前な持論だが、この根本基準は今も変わっていない。それを聞いた彼女は、あぁー、とだけ言って考え込んでいた。否定も肯定されず、中途半端な答えだと思ったのかもしれない。


 彼女はとにかくシャイで人見知りだった。教室で絵を描いていても、好きで描いていると言うよりも鍛錬として描いているようなオーラがあった。絵を中断させて話を聞いて貰うことが、申し訳ないと言うよりも勿体なく感じるような独特の雰囲気があった。

 中学生の時、彼女の絵を見て「あの子は絶対プロになる」と母に勝手に申告したことがある。その母も、美術展で飾られた彼女の絵を見て、大賛同した。翌年には、妹や親戚までもが完全にファンになっていった。どの作品も彼女らしさが出ていたし、何より新しいことへのチャレンジ精神に溢れていた。

 普通ならば、コンクールには描き慣れた構図や作風で出品するものだが、彼女は「描いたことないし」と言って新しい手法を取り入れる。しかし、周囲も折角のコンクールなのに勿体ないとは言わなかった。どんなことがあっても、絶対美しい作品になるし、何より彼女が賞の為に描いていないことを知っていた。

 ちなみに、彼女は天才でも鬼才でもなかった。

 未だ本物の天才や鬼才にお会いしたことが無いと思っているので、しっかりとした反論は出来ないのだが、彼女は技術の研究と努力を地道に続け、一歩一歩腕を上げていった「努力の人」だった。とにかく絵を研究しまくり、信じられない集中力で技術を磨いていた。努力のエネルギーが素晴らしかった。様々な考えや交流にもまれる学生時代に、自分を曲げず、一人努力を続けていた気合いと根性、まさに一匹狼感も眩しかった。成人式で会ったとき、誰もが夢見る一流の企業に就職していた。心から嬉しかったと同時に、私に努力することを決心させてくれた。最強に意気地なしの私だが、夢が叶う生き方の好例がいてくれることで、目指したい夢への道のりが、孤独で、不安で、家族や周囲から重圧を感じるものだとしても、努力して叶えてやろう!と思えた。本当に、本当に、本当に、自慢の友達だ。


 心から彼女の安全を祈ると共に、彼女のご家族の心が少しでも早く穏やかになることを願っております。絶対に終わらせません。「始め」たのはあちらですから、我々が「終わり」の主導権を握らなければなりません。


 怒りをひとまず祈りにかえて。

 生きている限り、一生続くことも、絶対もないのですね

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