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第51話 鳥!

「あれは……ヒュージガルーダでござる!」


 モンスターを見たオリエが種族を判別した。パーティー会場で料理をむさぼっていたアイナたちと合流し、控え室で装備を整えて街の城壁に向かった俺たちだが、城壁の上から見えたのは凄まじく恐ろしい光景だったんだ。


 ヒュージガルーダ自体は、その名のとおりデカい鷲のモンスターだ。胴体は人よりひとまわり大きく、風属性の攻撃魔法も使えるのだが、強さはそこそこ。二~三羽ならCランク冒険者パーティーでも倒せるだろう。人が乗ることも可能なので飛行系の騎乗種として調教(テイム)されることもある。以前にオリエが「ニンジャにふさわしい召喚獣」の例にも挙げてたな。


 だから、普通なら竜種みたいに脅威になるモンスターじゃない……はずなのだが、数がちょっと規格外すぎた。


 雲霞(うんか)のごとく、という表現はこういうときに使うんだろう。ヒュージガルーダが空を埋め尽くしていた。


「空が青く見えぬ……鳥が七分に空が三分というヤツであるな……って、ヒッチコックかっ!」


 クミコが半ば呆然としながらつぶやいてから、例によって意味不明のツッコみを入れるのだが、ヒッチコックって何だ? 響きからして人名っぽいが、飛行系のモンスターの大群と戦った古代の英雄だか何だかの名前だろうか?


「ヒュージガルーダ自体は、この街のモンスター避け結界を破るような強さは無いから街の中にいれば安全だ……が」


「出られない。入れない」


 俺の言いかけた言葉を、珍しくカチュアが端的に補足する。この街への出入りが完全に封鎖されてしまっているんだ。


「でも『テレポート』の魔法があれば、ほかの街への移動はできるわよね?」


 アイナが聞いてくる。確かにそれは可能だ。可能なのだが……


「個人やパーティー単位での移動ならね。でも、この街は大陸の南北をつなぐ大運河と、西の海へ流れる大河との交点で、流通の要衝だ。主要街道も通っているから、ここが封鎖されたら帝国の流通網の西半分が機能不全を起こして経済に多大な悪影響が出るよ」


 イリスが、この街の周囲の移動が封鎖された場合の問題点を指摘する。こういった交通・流通の要衝である街を領地として持っているからこそ、モーガン家は爵位としては低い男爵家でありながら豊かな経済基盤があるんだ。


「これ、絶対に普通じゃないですぅ! ……たぶんTAI案件ですぅ」


「だな」


 ウェルチが後半は声をひそめて言ったことに、俺も短く同意する。


「だけど、あの大群とどうやって戦うの? うかつに外に出たら集中攻撃を食らって死ぬわよ」


「ああ、あんなの帝国軍でも巡検隊レベルじゃ対処できない。師団規模でないと戦えないだろう」


 アイナの意見に俺も同意する。帝国軍の師団は一万人の戦闘部隊と二千人の補助部隊で編成されている。その規模なら、さすがにこの大群相手でも戦えるはずだ。だが、逆に言えば、その規模の戦闘部隊でなければ、この数の暴力に飲み込まれて壊滅するだろう……普通なら。


「だが、レインボゥなら全滅させるのは無理でも少しずつなら削れるはずだ。ヒュージガルーダの攻撃は効かないからな」


 ヒュージガルーダは通常の物理攻撃と風系の属性攻撃しか持っていない。どちらもレインボゥには効果が無いから、この大群の中に飛び込ませても無傷で済む。


「帝国軍の師団なんて、出動にどれだけ時間がかかるか分かりませんわ。焼け石に水でも、今から削っておくべきではありませんこと?」


「キャシーの言う通りだ。帝国軍が緊急出動(スクランブル)したとしても、師団規模だったら到着まで週単位の時間が必要だろう。ここは俺たちで少しでも削っておくに越したことはない」


 俺の言葉に、全員がうなずいて答える。


「戦うわよ!」


「そうするしかないね」


「レインボゥちゃんに頑張ってもらうですぅ!」


「踏ん張り所でござるな」


「負けない」


「やっておしまいなさい!」


「こんなホラーは許せぬ……」


 よし、全員やる気だな!


「いくぞ、合体だ!」


 俺の命令に合わせて、スーラが、ルージュが、ウインドが、マリンが、クレイが、ビアンカが、ソレイユが、ノワールが、それぞれの召喚主の元からふにょんふにょんと飛びだすと、合体を始める。


 そして合体したレインボゥに、俺は続けて命令を出す。


「スクランブル合体、クラゲビッグスライム!」


 ウインドとソレイユを中心に再合体するレインボゥ。これで飛行可能になった。


「行け、レインボゥ!」


 ふよふよとイオノクラフト効果とやらで浮遊しながら城壁から外に出て行くレインボゥ。レインボゥも召喚獣とはいえ一応はモンスターなので対モンスター結界が効いてしまうのだが、対モンスター結界は外からの侵入は防ぐが、中から出るのを妨げはしない。召喚獣が街に入るときは結界の切れ目である城門(扉が開いているときのみ結界の効果が切れる)から入るので、戦闘が終わって門が開くのを待って迎えにいかないとな……って、この戦闘は帝国軍師団が到着しないと終わらないだろうから結構かかるかもしれないな。まあ、その場合は召喚を解除して結界内で再召喚すればいいだけか。


 召喚獣は召喚主から遠く離れることはできないが、俺たちが城壁の上にいるので、そのすぐ外くらいだったら大丈夫。城壁の外をふよふよと浮遊しているレインボゥに向けて、ヒュージガルーダが襲いかかってきた!


 ……が、レインボゥには一切の攻撃が効かない。逆に攻撃に来たところを捕まって絞め殺されるか、電撃で麻痺して墜落死するヒュージガルーダばかりだ。


 ただ、レインボゥがいくら無双して数十羽のヒュージガルーダを倒したところで焼け石に水。城壁の周囲と飛び回るヒュージガルーダの数は全然減ってるように見えない。


「ここでコンプリートビッグキャノンとかブラックホールキャノンを使っても倒し切れないでしょうね……」


「あれらは攻撃範囲が意外に狭いのでな」


 誰にともなくつぶやいたアイナにクミコが答える。確かにその通りで、コンプリートビッグキャノンは、なぎ払うように撃てばもしかしたら少しは範囲を広げられるかもしれないが、ここまで広範囲に散らばる敵を殲滅することはできないだろう。ブラックホールキャノンは威力は非常に強いが攻撃範囲が狭い……ってか、あれだけの高重力で攻撃範囲が広かったら俺たちやレインボゥまで巻き込まれてしまう。


「まあ、地道に倒し続けてもらうしかないだろう。ただ、いくら召喚獣でも疲労はするからな。レインボゥが疲れてきたら召喚を解除して……」


 俺が言いかけたときに、城壁の上に新たに登ってきた人影があったので、何気なくそちらを見て思わず絶句してしまった。


 キラキラと光を反射するクリスタルガラスかダイヤモンドのような透明な鎧なんだ。いや、よく見ると透明な外部装甲の下は白銀のフルプレートアーマーになっている。


 兜の面頬を下ろしていなかったので顔がわかったのだが、着ていたのは何とマイケルだった。


「その格好は一体?」


「モーガン家の子弟として領地の危機に何もしないわけにはいかないからな。私も迎撃の陣頭指揮をとる」


 思わずといった感じで尋ねたイリスに、マイケルは胸を張って答えた。


「意気込みは立派だけど、その派手な鎧は……いや、指揮官は軍の象徴だから目立つ姿をして部下の士気を煽るのも仕事の内なんだね」


 自己完結したイリスに対して、マイケルはうなずきながら自慢気に口を開く。


「その通りだ。さらに言えば、この鎧は物理防御効果が非常に高いだけでなく、あらゆる魔法を無効化するだけでなく、すべての属性攻撃も無効化できるのだ。君たちのスライムにも負けないくらいの防御力があるのだよ」


「そりゃ凄い」


 その高性能さに、俺も思わずつぶやいてしまった。さすがに金持ちだけあって、高性能な鎧を持っているな。


「間もなく我が領軍の弓兵隊と魔術師部隊が上がってくる。彼らが攻撃配置についた時点で君たちのスライムは一度下げてもらいたい」


「レインボゥに攻撃は効かないから友軍誤射(フレンドリーファイア)は気にしなくてもいいんだが」


 マイケルの指示に俺が答えたのだが、マイケルは首を振って反論する。


「我が領軍の魔術師部隊は帝国軍ほどの精鋭ではないから対空射撃に『マジックアロー』しか撃てない者もいるのだ」


「ああ、それは効いちまうな。じゃあしょうがない、一度召喚を解除しよう。だけど、よくレインボゥの弱点を知ってたな」


「今回、色々と助言してもらっている取引相手が博識な方なのだよ。この鎧も彼から購入したものでね。こちらの()()()()殿()だ」


「「「「「「「「えっ!?」」」」」」」」


 その名前に、思わず俺たち八人がそろってマイケルに手で示された男の方を見る。


 正にその瞬間、マイケルが剣を抜くと腰だめに構えてイリスに突きかかった!

オリエ「今回もカット部分が無いでござる」

リョウ「帝国軍の編成とかカットしようかと思ったけど、2行カットにしかならないんだよね」

オリエ「総勢一万二千人の大部隊でないと戦えないくらいにヒュージガルーダが多いということを分かってもらうためにも、この部分はカットできないでござる」

リョウ「裏話も大したネタは無いけど」

オリエ「そもそも、ここでヒュージガルーダが出てきたのは拙者が前に『ニンジャにふさしい召喚獣』の例として出したからでござってな」

リョウ「でもまあ、大群で襲いかかってくるというと、やっぱり『鳥』だろうという意識はあったらしい」

オリエ「それでクミコが『ヒッチコック』と言ってたでござるな」

リョウ「それと、沖縄戦のときのエピソードから『鳥七空三』をやりたかったらしい」

オリエ「むしろ『トップをねらえ』で『敵七黒三』とパロってた方から取ったのでござろう」

リョウ「作者、架空戦記とか結構読んでたから、そこから拾って来たネタでもあるんだな」

オリエ「いずれにせよ、今の流行とはかけ離れてるんでござる。だから受けないのでござるよ」

作者「グハッ!」

オリエ「しまった、つい本音を言ってしまったでござる」

リョウ「ほっとけ」

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