第4話 このスキルは一体何だろう?
「ボクの刺突を受けて立っていられると思うな! 『スラスト』!!」
バシバシバシィ!!
先ほどまでの攻撃よりも、派手な攻撃音と光が表示される。「クリティカルヒット」だ!
イリスの宣言どおり、近接戦闘スキル「スラスト」の一撃を胸の中央に受けたオークのHPバーは消えてなくなり、その場に倒れ伏す。
ただ、そのスキルは俺も使えるんだが、普段より強力な一撃を放てるしクリティカルヒットも出やすい代わりに、攻撃後に動けなくなる硬直時間が長いんだ。
その隙を狙って、別のオークが手にした棍棒でイリスを攻撃しようとする。危ない!
「『カバー』」
静かな声でスキルを使用する声が聞こえると同時に、イリスとオークの間に全身鎧姿のカチュアが割って入り、左手に構えた大盾でオークの攻撃を受ける。ダメージエフェクトは表示されたが、カンって効果音が出てダメージ表示はゼロ。どうやら完全に攻撃を防いだらしい。
あの「カバー」は職業「騎士」が身に付けることができる防御スキルのひとつで、近くの味方が攻撃されそうになったときに、高速移動して敵との間に割り込んで守ることができるんだ。
近接戦闘向きの下級職の中でも、特に守りに秀でた騎士という職業の特徴を良く表しているスキルだな。さすがは元騎士だけあって、使い方も手慣れた感じがする。
「ありがとう、カチュア」
「気にしない。これが私の仕事」
お礼を言うイリスに、素っ気なく答えるカチュア。別に失礼ってわけじゃないんだけど、何か妙に感情を感じさせない話し方をするんだよなあ、この子。
今は兜をかぶって面を下ろしているので素顔が見えないんだが、銀髪銀目ですごく整った顔をしているんだけど、それだけに何か人形みたいな作り物めいた雰囲気があったりする。
とはいえ、常に沈着冷静な態度を崩さないところは俺と同じ十七歳とは思えないくらいの落ち着きぶりで、頼りになりそうではある。特に今みたいに周囲の状況を冷静に判断して的確にフォローしてくれそうだから、態度が素っ気ないなんてのは気にするほどのことじゃない。イリスの方も、こういう子だとわかったらしく、特に気にしてはいないようだし。
と、この二人に気を取られているうちに、クミコの黒魔法の準備が終わったようで、彼女が魔法を放つ声が聞こえてきた。
「クックックック、闇の中で恐れ怯えるがいい……『ダーククラウド』!」
クミコが両手でかまえた杖の先から大きな黒い雲が発生すると、複数に分かれて残ったオークたちの顔目がけて飛んでいき、その目元を覆ってしまう。敵の視界を遮って攻撃を当たりにくくする黒魔法だ。
密偵の片眼鏡で見ると、オークたちには「BLIND」=盲目という状態が表示されていた。ダーククラウドの魔法が効果を発揮したらしい。
黒魔法というと派手な攻撃魔法を思い浮かべる人が多いが、実際にはこういう地味に相手の攻撃を封じるような魔法の方が役立つことが多い。さすがに元魔法使いだけあって、クミコは黒魔法の使い方に熟練している。
ただなあ、この子、服装がいかにも「魔法使いでござい」って感じなのはまだいいんだけど、性格にキャシー以上の難があるんだよなあ。
自己紹介のときに「我の名はクミコ……。齢十七にして魔術師のおぼえられる黒魔法を極めし者……。魔術使えぬときも侮ることなかれ……。我、毒針を放つ吹き矢も得手とする者なり……ヒッヒッヒッヒ……」みたいなこと言ってたんだよなあ。何というか、話し方が大仰というか、無意味にカッコつけたがってるというか。
そういえば、俺たちのパーティー名は特にひねったりもせず「スライムサモナーズ」に決まったんだけど、クミコだけが「我は『深淵の復讐者』が良いと思う……」とか強硬に主張してたんだよなあ。結局、多数決で押し切ったけど。
これが冒険者になりたての頃だと、大きな夢を抱いて『栄光の旅路』だとか『最速の勝利者』だとかカッコ良い名前を付けたくなるモンだが、さすがに既に二~三年も冒険者を経験してると、そういう名前は逆に気恥ずかしくなってくるはずなんだけどなあ。
こういうカッコつけたがる心理は十五歳で成人する直前に多いんで、俗に「十四歳病」なんて言われてるんだ。そんな病気は十六歳のオリエですら既に克服してるのに、十七歳にもなって罹患してるなよ、まったく。
とまあ、性格に多少問題はあるものの、黒魔法の腕は悪くない。戦闘のときには頼りになりそうだ。
ともかく、クミコがオークどもの視界を遮ってくれたから、連中の攻撃が当たる可能性は低い。隙が大きい技を使っても平気だろう。
「スラッシュ!」
俺は強力な斬撃を放つスキル「スラッシュ」で手近なオークを攻撃した。残念ながら俺の攻撃はクリティカルヒットにはならなかったが、それでも一撃でオークのHPを全て奪って倒し切ることができた。
転職して能力値が下がっている分、前ほどの攻撃力は出てないが、だいたいの感じはつかめてきた。もう少し強いモンスターとも戦えそうだな。
「わたしも戦いますぅ。えいっ!」
えっ!? と思って声の方を見たら、何とウェルチがメイスでオークをぶん殴っていた。彼女は元僧侶で白魔法の使い手だから、本来は後衛で味方が傷を受けたときの回復をする役割なんだが、オークの状態を見て攻撃に参加することにしたらしい。
……意外にダメージが出てるな。小柄なんで非力かと思ってたら、結構力もあるらしい。
「よし、このままタコ殴りだ!」
「オッケー!」
「そうしよう」
「はいですぅ!」
「かしこまったでござる」
「了解」
「ヲーッホッホッホッホ! おまかせになって!!」
「クックック、我の力、さらに見せてくれよう……」
俺の指示に全員が応えて、一斉に攻撃を開始する。オークどもが全滅するまで、そんなに長い時間はかからなかった。
敵が全滅すると同時に、俺は自分の体に新たな力がわいてきたことを感じていた。「レベルアップ」だ。
そして、俺は自分だけでなく、俺の召喚獣であるスーラもレベルアップしたのを感じていた。召喚獣と召喚主のつながりでわかるんだ。
実は、召喚獣と召喚主は経験値も共有している。俺が得た経験値と同じだけの経験値をスーラも得られるんだ。逆にスーラが倒したモンスターの経験値を俺も得ることができる。だから、ドラゴンとかグリフォンみたいに強い召喚獣を得た場合は、その召喚獣を戦わせて召喚主がレベルアップできる。逆に、俺たちみたいに初期状態だと弱い召喚獣を得てしまった場合は、召喚主の方が戦って召喚獣をレベルアップして、能力値を上げてから戦わせる方がいいんだ。
だから、スーラたち俺たちのスライムは召喚した上で攻撃には参加させずに後ろの方で待機させてたんだ。いくら盲目状態になってたとはいっても、万一にでもオークの攻撃が当たったりしたら、低レベルのスライムなんて一発で殺されてしまうからな。
よしよし、スーラも順調にレベルアップしてくれたようだし、この調子で自分もレベルを上げつつ育てて行けば……なんて思いながらスーラの方を見てみたら、変なことに気が付いた。
密偵の片眼鏡スーラの能力を見ていたら、新しいスキルをおぼえていたことに気付いたんだ。
それ自体は不思議なことじゃないんだが、この「合体」ってスキルは一体何だろう?