第30話 作戦会議は踊らない
さて、なごやかに(?)食事を終えてから、それぞれ風呂もいただいた。言っておくがラッキースケベなんぞ起こってないからな。男ひとり女七人のパーティーで、そこに注意や気配りができないような男は間違いなくフルボッココースだぞ……前のパーティーでやらかした経験から、今度は注意してるんだよ。
その上で、みんなで食堂に再度集まって作戦会議である。スライムたちは、それぞれの召喚主の膝の上だったり肩の上だったり頭の上だったりと、自分たちが一番くつろげる場所でふにょんふにょんとうごめいている。スーラは俺の膝の上がお気に入りだ。
「試練はダンジョン探索でいいんだな」
「そう、この村のダンジョン『大精霊の洞窟』は四年に一度だけ扉が開くのよ。普段は七大エレメンタルの力で封印されていて、何人たりとも開くことも破壊することもできないわ」
俺の問いにアイナが答える。それを聞いて、今度はイリスが尋ねる。
「ダンジョンの地図は無いのかい?」
「それがねえ、毎回内部構造が変わる仕組みらしいのよ。エレメンタルが毎回作り直してるんじゃないかって言われてるわ」
「『ローグライクダンジョン』でござるか……」
アイナの返答を聞いたオリエがげんなりした顔でつぶやく。
そう、こういう内部構造が毎回変わるようなダンジョンはいくつか存在している。何で「悪党好み」なんて名前が付いてるのかはわからんのだが、入るたびに道筋が変わってしまうから、悪党が逃げ込むのに便利だったりするからなんだろうか?
ウチのパーティーでは地図作成は罠探索と並んで元ニンジャであるオリエの担当だからな。毎回地図を作り直すことを考えて嫌気がさしたんだろう。
「あと、どうも全パーティーがそれぞれ別のダンジョンを攻略する扱いになってるみたいなのよ」
「は?」
アイナの言っている意味がよくわからなかったので思わず聞き返してしまう。
「このダンジョンって、一組のパーティーが入口から中に入るたびにエレメンタルが異空間に新しいダンジョンを作ってるらしいのよ。だから入るたびに内部構造が変わるってわけ。だから、ダンジョンの中でほかのパーティーに会うことは無いわ。だから、妨害される心配は無いのよ。ただし、ボスを倒すのは早い者勝ち。それぞれのダンジョンでボスを倒すまでの早さを競うってわけね」
なるほどな、純粋にそれぞれのパーティーの実力を試すってわけだ。
「だとすると、本当に運の要素があるね。例えエレメンタルが相手だろうと、レインボゥなら戦闘に負ける心配はほとんど無いけど、ほかのパーティーに先にエレメンタルを倒されたらエレメンタラーにはなれないんだから」
イリスの指摘に全員がうなずく。それに対してアイナが補足の説明を加える。
「ただ、エレメンタルは各属性ごとに全部で七体いるわ。それらのうち、どれか一体さえ倒せばいいのよ。だから、七番目までにダンジョンを攻略すればいいってわけ」
「クックック、ならばチャンスは充分にあると言えよう。だが『彼を知り己を知らば百戦危うからず』と言う。他パーティーの情報が欲しいところではあるな」
クミコが異世界の格言を引いて注意を促す。たしかに情報収集は冒険の基本中の基本、なんだが……
「こんなギリギリの到着ですわよ。いくらオリエでも情報を探るのは難しいのではなくて?」
キャシーの指摘は正しい。そう、実は試練の開始は明日なのだ!
アイナからの手紙がこの村に届いたのが、ほんの一昨日のこと。それでAランクに昇格したのなら試練に参加してもいいだろうというので、ヒュレーネさんがテレポートの魔法で帝都に来て、俺たちを連れてこの村に戻ってきたのだ。
というわけで、本当にギリギリのタイミングでの飛び入り参加ってことになるな。
まあ、だからこそ風呂のあとに集まって作戦会議なんてことが必要なわけだが。つくづく泥縄だな。
なんてことを思っていたら、アイナが一枚の紙を異空間収納から取り出して言った。
「それなんだけど、お祖母ちゃんから参加予定のパーティー名とランクのリストはもらったわよ」
「おお、それだけでも助かるな」
アイナ持ち出したリストを全員でのぞき込む……と、見たことがある名前が目に付いた。
「あれ? 『地獄の復讐者』がいますぅ」
「ケネスたちか。そういやあいつが召喚するケルベロスって、火、地、闇の三属性の攻撃は無効だったから、この試練には向いてそうだ。おお、もうBランクに上がっているのか」
「相性が良いエレメンタルとなら戦えそうですわね」
さらにリストをチェックしていると、ほかにも見たような名前があった。
「あれ、このBランクの『モモチ一族第三分隊』って?」
「拙者の一族でござるな。このパーティーのメンバーは遠縁なので、あまり親しくはござらぬが顔と名前は知ってるでござる。そういえばサスケが精霊使いの嫁を取って新たに一族に加えたと聞いたことがござったな。もしかして、この村の出身でござろうか?」
「あ、そういえば、こないだ偶然帝都で再会した幼なじみのホリー姐さんがニンジャと結婚したって言ってたっけ。世間って意外に狭いのね」
「あのパーティーは実力的にはそれなりに高いのでござるが、エレメンタルと戦うには決定打が足りないようにも思えるのでござるが」
「ホリー姐さんはあたしより三歳年上だけど、精霊使い一筋で既にレベル40を超えてたはずだから、エレメンタルとの戦いなら結構やれると思うわよ」
「下級職でも、そこまで極めると結構強いんだなあ」
俺が慨嘆すると、アイナが苦笑いをしながら肩をすくめて言う。
「そこまで極める根性が無かったから、あたしは安易に博打みたいな転職に手を出しちゃったんだけどね」
「耳が痛いことを……」
それを言ったら、俺たち全員が同じパターンだったからなあ。みんな苦笑いしてるよ。まあ、結果オーライではあったわけだが。
「Bランクで知ってるのはそれくらいか。あとはAランクが四パーティーいるが、ときどきランキングで見るような名前があるなあ」
「まあ、無名でもAランクなら間違いなくエレメンタルを倒せるだけの実力があるはずだから油断はできないよ」
イリスが言うのにみんながうなずく。
「こう考えると、結構ギリギリかもしれないな。速攻でダンジョンを攻略しないといけないけど、ウチの場合は殲滅速度に問題があるからなあ」
「レインボゥ頼りだもんね。単体で強いモンスターを倒すのは楽だけど、そこそこの強さのモンスターが群れで出てくると掃討するのに時間を取られるから」
アイナが言うとおり、レインボゥの強さは圧倒的なんだけど、それは一対一での話。複数のモンスターが出た場合は、範囲攻撃できるブレスで一掃できるような場合を除いて、俺たちも積極的に倒していかないと殲滅に時間がかかりすぎる。
「これはもう、MP回復ポーションを大量に持っていって、常に全員で全力攻撃のゴリ押しをしてくしかないな。タイムアタックのつもりで攻めた方が良さそうだ」
それを聞いて、さらに嫌そうな顔になるオリエ。ローグライクダンジョンでタイムアタックとか、マッピング担当者にとっては悪夢だからな。そこで、気になることがあったのかアイナに向かって質問をする。
「罠とか仕掛けの情報はないのでござるか?」
オリエは罠や仕掛けを解除する担当でもある。それらを気にするのは当然だろう。
「過去の事例だと、機械的な罠は無いって話よ。ただ、精霊力による罠があるらしいのよね。だから、今回のダンジョンについてはオリエじゃなくてあたしが罠解除の担当になると思うわ」
「なるほど、さすがエレメンタルの試練のダンジョンでござるな。それでは今回はアイナ殿にお任せするでござる。あ、もちろん探索を怠るつもりはないでござるよ」
アイナの返答を聞いて、オリエも少しは気が楽になったらしい。
「他のパーティーも気になるが、とにかく俺たちは全力でダンジョンを突破して、どれかのエレメンタルを倒すだけだ。みんなで頑張ろう!」
「「「「「「「「オーッ!」」」」」」」」
最後に俺が総括して、みんなで気合いを入れた。スライムたちも、それに合わせてふにょんと大きくうごめいて気合いを入れている。さあ、泣いても笑っても勝負は明日! だから……
「今夜はさっさと寝て疲れを取ろう」
俺の提案にみんなうなずいて、さっさと自分の客室――でかい家だけあって結構客室も多かった――に帰って寝ることにするのだった。
アイナ「今回のカットされた設定の解説はあたしね。お祖母ちゃんが何でテレポート使えるのかってこと」
リョウ「そういやヒュレーネさんって元精霊使いのエレメンタラーだよな。何で黒魔法のテレポートを使えるんだ?」
アイナ「理由は簡単で、精霊使いから直接エレメンタラーに転職したんじゃなくて、一時的に魔術師に転職していたこともあったからなのよ。高レベル帯になると精霊魔法だと火力不足だったんで後衛としての戦闘力を上げるために転職してたんだって」
リョウ「ああ、なるほど」
アイナ「今回話に出てきたホリー姐さんみたいなレベルまで上げたら、それなりの攻撃力も出るんだけどね。そこまで上げるまでの戦闘で火力不足に泣くのよね」
リョウ「ヒュレーネさんも我慢できなかったってことか」
アイナ「そういうこと。そのあたりの我慢不足はあたしも受け継いじゃってるのよね(苦笑)」
リョウ「俺も他人のことをとやかく言える立場じゃないからなあ」
アイナ「あと、もうひとつオミットされたのが『タイムアタック』の説明ね」
リョウ「ああ、ダンジョンがある町や村では、ときどきダンジョンの攻略時間を競う『タイムアタック』ってイベントを行うことがあるんだ」
クミコ「まあ、読者はそんな説明無くてもわかるだろうということでオミットしたのだな」
リョウ「うわ、また突然出てきた」
クミコ「メタい説明も我の担当らしいのでな。なので『ローグライクダンジョン』についても少し触れておきたいと思ったのだ」
リョウ「『ローグライクダンジョン』がどうかしたのか?」
クミコ「これは読者の世界だと『ローグライクゲーム』と呼ばれているのだよ。元が『ローグ』という大昔のRPGでな。ダンジョンが毎回変わるのが売りのゲームだったのだ。だから、それに似たダンジョンが毎回変わるRPGは『ローグライクゲーム』と呼ばれているのだ」
リョウ「ああ、なるほど。俺たちの世界だとゲームって言うワケにもいかないからダンジョンにしたんだな」
クミコ「そういうことだ。より正確に言えば『ローグ』は毎回レベルとか所持アイテムもリセットされるので、そういうタイプのRPGのことを指していてな。例えば『不思議のダンジョン』シリーズとか……」
リョウ「ああ、そういう細かいネタはいいから。今日の解説はここまで」
アイナ「ありがとうございました~」
クミコ「ちょっと待て、我の扱いがヒドすぎんか!?」




