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第10話 はあっ!? 駄女神様

「ヒ、ヒィッ! ふ、普通ここは『女神様ありがとう僕にスライムをくれて』って感謝するところじゃないんですか?」


 俺たちの激昂ぶりに涙目になっておびえるスライミースライマー。しかし、普段はニコニコして怒りを見せたことなんかないウェルチや、感情をほとんど表に出さないカチュアまで激怒してるんだから、俺たちの怒りがどれほど凄まじいかわかるだろう。


「黙れ駄女神!! 確かにスーラは大切な相棒ではあるが、それとこれとは話が別だ! お前が俺たちをスライム召喚士(サモナー)なんかにしちまったから、俺たちはパーティーを追放されるハメになったんだぞ!!」


 俺の叫びに、仲間全員がうなずいてスライミースライマーをにらみつける。そんな俺たちにおびえながらも、スライミースライマーは必死に反論してきた。


「で、でも、あなた方は元々パーティーの中で浮いていたじゃないですか! 召喚獣がスライムじゃなかったとしても、いずれは追放されていたと思いますよ」


「うぐっ」


 バッサリ斬られた。


 畜生、その通りだよ。確かに、俺はパーティーの中で浮いていた。あのとき別の上級職に転職(ジョブチェンジ)していたとしても、いずれは別の理由で追放されていただろう。


 見回してみると、ほかの仲間たちも痛いところを突かれたって表情で黙り込んでいる。


 それを見たスライミースライマーは、ここが攻めどころとばかりに言いつのってきた。


「そ、それに、その『スライムだからダメ』って風潮を何とかしたいんですよ! そのために、あなた方にはわたくしの使徒としてスライムの凄さを世に広めて欲しいんです」


「スライムの凄さ?」


「そうです、この『コンプリートビッグスライム』ちゃんを見てください。物理打撃無効に加えて、七属性全部の属性攻撃も無効なんですよ!」


「こいつコンプリートビッグスライムっていうのか」


 オウム返しにモンスターとしての種族名を確認しながら虹色のコンプリートビッグスライムを見やるが、そのときになってようやくスライミースライマーが言っていたことの意味が脳内で理解できた。


「七属性全部の属性攻撃が無効? 魔法もか!?」


 思わず問い返した俺に、スライミースライマーはドヤ顔で答える。


「はい。火属性だろうが水属性だろうが、属性の乗った魔法は一切効きません」


「それ、事実上無敵なんじゃないの!?」


 アイナも悲鳴じみた声で聞き返すが、それにもスライミースライマーはドヤ顔でうなずきながら自慢気に説明する。


「ほぼ無敵と考えて間違いありません。この世界に存在する攻撃のほとんどは、この子には通用しません。それだけじゃありませんよ、さっきご覧になったとおり物理攻撃も強力ですし、全属性のブレスも放つことができます。攻撃面も結構充実しているんですよ」


 何てこった、確かにそれならスライムの凄さを人々にアピールすることもできるだろう。俺たちはとんでもない相棒を手に入れちまったらしい。


「確かに凄いな……なあ、俺はこの話に乗ってもいいかと思ってるんだが、みんなはどう思う?」


「悪くないわね」


「反対する理由は無いね」


「賛成ですぅ」


「異存はござらぬ」


「異議無し」


「かまいませんことよ」


「任務、了解……」


 一応はパーティーリーダーとして意見のとりまとめ役ではあるので、みんなの意見を聞いてみることにしたんだが、全員使徒になることに文句は無いようだった。


「よし、それじゃあ使徒になって『スライムの凄さ』を広めることはしよう。あと、異世界人の侵略作戦らしきものを見つけたら、それを阻止すればいいんだな?」


「はい、そうです。ありがとうございます!」


 俺たちが使徒として働くことを決めたので、スライミースライマーは非常に嬉しそうだった。まあいいさ、スーラたちの凄さをアピールして世の中を見返してやるというのは、俺たちにとってもやりたいことではあるし、異世界からの侵略なんてのは阻止しなきゃ俺たち自身が危ないんだから。


「ところで、既にスライムはもらってるけど、それ以外には使徒になった特典とかは無いの?」


 アイナがスライミースライマーに尋ねると、すぐに答えが返ってきた。


「えーと、わたくしの祝福を授けるのでスライムの能力値(ステータス)にスライム本人のレベル値×一パーセントのボーナスが付きます。レベル99まで上げたら九十九パーセントの能力アップで、ほぼ倍のスペックになります」


「うーん、確かに強いけど、かなり育てないと効果を発揮しないから微妙よね。もう一声、何かくれない?」


「それでは、スライムの経験値取得を十パーセント増しにするボーナスも付けましょう。これで成長が早くなります」


「そうこなくっちゃ!」


 おお、上手いぞアイナ。これで俺たち共通の目的の実現も早くなるってもんだ。


「ところで、ひとつ聞きたいことがあるんだけど」


 今度はイリスがスライミースライマーに尋ねた。


「はい、何でしょうか?」


「どうして、このコンプリートビッグスライムをそのまま召喚獣として授けてくれなかったのかな? ひとりでこの子を召喚できて、ほぼ無敵のスペックを見ることができたら、さすがにパーティーを追放されたりしなかったと思うんだけど」


「「「「「「「あっ!?」」」」」」」


 イリスの鋭い指摘に、俺たちは思わず声を上げていた。そして、問われたスライミースライマーは一目でわかるほど挙動不審になっておどおどと答える。


「えー、それはですね……本当はそうしたかったんですけど、ほかの神様から『さすがに能力が狡いほど反則(チート)過ぎる』と苦情(クレーム)が来まして……それで八人に分け与えたスライムが合体しないと発現できないという制限をかけることで、ようやく認めてもらえたんです」


「「「「「「「「はあっ!?」」」」」」」」


 思わず問い詰めるような感じで全員ハモったところ、スライミースライマーは逆ギレしたように叫んだ。


「だって仕方(しかた)ないじゃないですか! わたくしみたいな木っ端女神が『竜神ピッコロミーニ』とか『獣神ライガール』とかの大物神様に文句言われて逆らえると思います!?」


 そう言われると非常にもっともな話なので、思わず黙り込む俺たち。それを見たスライミースライマーは、気を落ち着かせてから話を続ける。


「だから、あなた方が活躍してスライムの凄さを世間に知らしめて、わたくしの信者を増やしていただきたいのですよ。そうして有名(メジャー)な神になれば、わたくしの神界での発言力だって増すんです。そうなれば、もっと強力な祝福や加護を授けることもできるようになります」


「しょうがねえなあ。頑張るとするか」


 クソ駄女神ではあっても、スーラたちの神であることに変わりはない。こいつが力を得ればスーラたちもパワーアップするなら、せいぜい宣伝につとめるとしようか……なんて思ってたら、イリスが更にツッコみを入れた。


「それにしても、もしボクたちがパーティーを組まなかったら、どうする積もりだったのさ?」


「あ、その場合は夢で神託を下してパーティーを結成するよう誘導しようかとは思っていました。ただ、少なくとも数人はパーティーを組んでくれる確率が高いだろうとは考えていましたけど。だって、あなた方はその場でパーティーを追放される可能性が高いと思って……あっ!」


 慌てて自分の手で口をふさぐスライミースライマー。だが、俺は聞き逃さなかったぞ!


「やっぱテメエ確信犯だったんじゃねえか!!」


「ヒイィィッ! 怒らないでくださいよ、結果オーライだったじゃないですか」


 怒鳴った俺に必死で言い訳するスライミースライマー。やっぱコイツ駄女神だ。


「それはまあ、そうだが……」


「それでは、わたくしはこれで去りますので、コンゴトモヨロシク……」


 とりあえず怒りの矛を収めた俺にホッとした顔をして帰ろうとするスライミースライマーだったが、それをウェルチが引き止めた。


「あ、待って欲しいですぅ。スライミースライマーさんが帰る前に、この子の名前を決めたいですぅ」


 ああ、確かに合体後の名前を決める必要はあるか。


「全員分の名前をくっつければよいではないか? 『スーラルージュウインドマリンクレイビアンカソレイユノワール』。なかなか良い響きだと我は思うぞ」


「『ジュゲム』かよ!」


 クミコの安直なアイデアに思わずツッコみを入れてしまう俺。「ジュゲム」ってのは異世界ニホン人が伝えた異世界の小話のひとつで、赤ん坊の名付けの際に名前のアイデアを全部使ってとにかく長い名前にしてしまうって話だ。


「では、どんな名前が良いというのだ?」


「うーん、コンプリートビッグスライムを略して『コンビ』とか?」


 ムッとしたクミコに問われたので咄嗟に答えたのだが……


「ダサっ!」


「それは無いね」


「えーと、ほかの人のアイデアも聞きたいですぅ」


「安直でござるな」


「却下」


「ありえませんわ」


「我の案より酷い……」


 集中砲火を喰らって、俺涙目。


「じゃあ、どんな名前が良いって言うんだよ!?」


 逆ギレ気味に叫んだところ、アイナが人差し指を立てて言った。


「最初にこの子を見たときにリョウが『虹みたいだ』って言ってたじゃない。古代語で虹を意味する言葉から取って『レインボゥ』っていうのはどうかな?」


 おっ、なかなか良い名前じゃないか。


「悪くないね」


「素敵ですぅ」


「結構でござるな」


「賛成」


「よろしいのではなくて」


「……詩的なり」


 ほかのみんなも悪くないと思っているようだし、これにするか。


「決まりだな。これからよろしく頼むぞレインボゥ!」


 そう名前が決まったばかりのレインボゥに声をかけると、嬉しそうにふにょんと動いた。どうやら本人も気に入ってくれたらしい。


「良い名前をもらえてレインボゥも喜んでいるようです。それでは、わたくしは帰りますので、くれぐれもヨロシクお願いいたしますね」


「おう、任せとけ」


 神界に戻ろうと光の中に消えていくスライミースライマーに俺が答えると、全員が親指を立てた拳を突き出すポーズを取る。これは冒険者の間で「了解」とか「いいね」って意味を表すハンドサインなんだ。


「あ、最後にひとつ伝えておくべきことがありました。このレインボゥはあなた方全員のスライムが合体したものですから、あなた方全員と絆があります。召喚獣は主人の強い思いを受けると通常以上の力を発揮するものです。ですから、あなた方八人が心をひとつにしてレインボゥを応援すれば、この子はより強い力を発揮してくれることでしょう。みなさん、くれぐれも仲良くしてくださいね」


「「「「「「「「えっ!?」」」」」」」」


 最後の最後で、何かとんでもない事を言って光の中に消えるスライミースライマー。


 微妙な雰囲気になって、お互いに顔を見合わせる俺たちをよそに、戦闘状態が終了したのでレインボゥは元の八匹に分離し、俺たちは自分がレベルアップするのを感じるのだった。

女神の祝福ボーナスによる能力アップですが、ここは分かりやすさを優先して「レベル×一分」ではなく「レベル×一パーセント」の能力アップに修正しました。ご指摘いただいたslime様、気まぐれ読み専様、ありがとうございました。

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