2章 5 まひるさんの逆襲!
朝の冷たい風が木で出来た壁の隙間から吹いて凄く肌寒く、ぶるぶると身体が震えてしまう。
「うにゅぁぁ!寒いよ〜この部屋!それに結局、朝になっちゃったし… 全然この縄が取れないし…腕輪のお陰でスキルも使えないし…乱れた服も直せないし…この姿ただの淫乱娘だよ…」
「うにゅ?」
外が慌ただしくなり、まひるがいる家のドアが乱暴な音を立てて、村人の住人が数人押し寄せて来た!
なんだか嫌な予感しかしないかも。
その中でも1人の男がまひるに歩み寄って怒鳴りつけてくる。
うにゅ? 男の身体から黒いモヤモヤが見えた気がしたんだけど、気のせいかな…?
「おい騒ぐなよ!今からお前とこの精霊を王都に輸送する。騒げば精霊を剣で真っ二つにするからな!」
男の足元を見ると少し大きめの鳥籠に大福ちゃんが入っており、胴体に大きい腕輪がしてある。
「いくらこの腕輪のサイズが自在になるからって、苦しいみ!まひる!大丈夫み?今助ける…ふにゅぁぁ…駄目み…力が抜けて凄く眠たいみ…」
(大福ちゃんも捕まって腕輪をされてたのね…それにしても役に立たないわね…)
「まって!そういえば村長のジンさんはどうしたのよ!ジンさんと少し話を聞かせて、それくらい良いでしょ!少しだけしか話さなかったけど、あの人の良さそうなジンさんが私を売るだなんて、考えられないわ!」
「あの頑固者の糞村長は、昨日の夜に俺が殺したから生きてね〜よ!」
「えっ……」
「 そんな…そんなのってないよ…酷すぎる!」
「あの糞爺!村を助けてくれたエルフ族を売るなんて許さん!って怒りやがったから、カッとなって頭に血が昇ってやっちまったよ。今思えば森に精霊を捕まえに行くときも反対して怒ってたな。結果的には村長に嘘を言ってこっそり森の中に数人で行ったらセンビキ狼に襲わて、喰われちまったけどな」
(それで私と大福ちゃんが神社から村を目指してたら森の中で沢山のセンビキ狼が居たのね)
1人の男が見るからに安い剣を持ってまひるに近づいて来る。
他の村人はまひると大福ちゃんを輸送する為に紐や大きな木箱を準備をしているのか、忙しく家の中を動き回っているみたいだ。
「話はこのくらいにして、そろそろ王都に行くぞ!」
「うにゅぁぁ!…嫌よ!行きたくない!誰か助けてぇぇ!」
「くそ!黙れ!少し痛め付けとくか…おい!お前ら少し殴っても犯しても良いから静かにさせてやれ」
「あぁ…分かった!それにしても、この前より随分と性格が変わったなお前…」
「確かに、以前は優しい奴だったのにな…」
男達が近づいて、肩の服に手を掛けて強引に脱がしてくるので、貞操だけはどうにかして守りたい。
「こないで‼︎ いや!そんな所触らないで!やめてぇぇぇ!」
「うるせぇ!騒ぐな!」
「みぃぃ…ま…ひる…今…助ける…み…」
男達がまひるの頬やお腹を手で何度も殴ってくる。
あぁ嫌だ…
こんな人生嫌だよ…
男達に殴られて、服を脱がされそうになったり…
このまま捕まって、王都に売られるなんて嫌だよ…
異世界転移して早くもこの先、絶望しか無いなんて嫌だよ…
理性が崩壊しちゃう…
この人達が憎い…悔しい…逆襲したい…逆襲 逆襲 逆襲 逆襲 逆襲 逆襲 逆襲 逆襲 逆襲…
あぁ…駄目だよ…こんな事考えるなんて…
神様これから先起きてしまう…
罪深き行為をお許しください…
もう駄目だ…
後戻りが…で…き…そ…う…に…な…い…
意識…が……とん…じゃう…
私が…私じゃ無くなる…
『まひるさんは逆襲します!』
男達がまひるを殴ったり服を脱がしている瞬間の事だった!
猛烈な爆風と衝撃波が突如発生する!
まひるを縛っていた紐や腕輪が千切れて吹き飛び、建物の屋根も吹き飛んで天上に大穴が開く、大福ちゃんが捕まっていた鳥籠は天井に開いた大穴から爆風によって、一緒に空に飛んでしまった。
まひるの髪の色がピンク色から赤色になり、身体から爆風のように風が吹き荒れ、幾何学的な紋章や不思議な剣が何本も現れて、幻想的な雰囲気が発生する。
「うにゅぁぁぁぁ‼︎ 皆許さない‼︎ 死ねばいぃ‼︎ 私はあなた達を逆襲する!逆襲したぃぃ!あぁ楽しみ…最高の瞬間が訪れる!私は十分過ぎるほど痛みに耐えた!」
ほんのりと頬を染めて、うっとりとした表情で口から、ふぅ〜と赤い吐息を吹いて一言呟いた!
「木人植物」
赤い吐息は空気中に散らばり、生きているかの様に動いて、瞬く間に村全体に覆ってとんでもない変化を起こした!
まひるを襲っていた男達は壁際まで吹き飛ばされ口から血が出ていた。
「ぐはっ! 痛えな…何が起きた……⁉︎ なんだ⁉︎ 何か変だ‼︎ 俺の身体がぁぁぁぁ! ぐぁぁぁぁ‼︎ 助けてくれぇぇぇぇ‼︎」
「痛ぇぇ……えっ⁉︎ 」
「なんだよこれ!俺の足がぁぁぁぁ! なんだよこの足!」
男達に起きた変化それは身体の異変だった。
突然足が動かなくなり、瞬く間に足が赤い木の根になって、ボロボロになった木の床に根を生やし絡みついていく、そして全身が一本の赤い木になってしまった。
その形は歪で赤い木がぐにゃぐにゃに曲がっており、葉は無く赤い木の枝しかないし、悲しみや憎しみに満ちた顔の木目が出来て、不気味で嫌な感じがする。
これだけでは終わらなかった。
「ぎゃあぁぁぁぁ…助け…てく…れ」
「私の身体が木に! いゃぁぁぁぁ…」
外にいた全ての村人にも異変が起きた、ある村人は断末魔の悲鳴を上げながら身体が赤い木になり、他の村人も地面と身体が一体化して赤い根を張り、その村の光景はとてつもなく異質な事になっていた。
家の屋根を突き破り赤い木が生えていたり、逃げ出そうとしたのか村の入り口に何本も赤い木が密集していたりもしていた。
子供だろうか小さな赤い木が畑の真ん中に身を寄せ合って生えて、その近くに駆け寄ろうとした瞬間の少し大きな赤い木が生えており枝先が小さな赤い木に向かって伸びている。
マンビキ狼の死体も巨大な太い幹の赤い木になって、この村では一際目立つだろう。
ボロボロになった家から外に出て村の景色を眺めるまひる。
両頬に手をあてて頬を赤くし、うっとりとして色っぽい表情をし何とも言えない異様な光景に誰が聞くでもなく呟く。
「あぁ〜素晴らしいわ〜真っ赤な木が沢山。小さい木や大きな木もあるわね〜素敵な光景…こんな素晴らしい逆襲は最高だわ〜」
「ふぁぁぁ…それにしてもさっきから眠いわね…あそこの大木で……一眠り…するかしら」
赤い大木に寄り掛かって目を閉じると、疲れていたため直ぐに寝てしまった。
壊れた鳥籠が畑に突き刺さっており、地面の中に埋まっていた大福ちゃんが出て来る。
「ぷはっ〜ペッペッ! 土が口の中に入ってしゃりしゃりするみ」
空に飛ばされた時は、どうなる事かと思ったけど、地面にぶつかった衝撃で腕輪が外れて良かったみ。
それにしてもなんだか、村の様子がおかしいみ?
村の中をふわふわと浮遊しながら見渡してみると、なんだか赤い木が至る所に沢山あり村人が全く見かけない。
それどころか赤い大木もあって、あそこの位置は確かマンビキ狼が絶命していた筈だけど、今では姿が見えない。
こんな赤い大木は見たことがないし、家の中で捕まったまひるがいない。まひるどこに行ったんだろう。
赤い大木を観察していたら、反対側から苦しそうな声が聞こえてくる。
この声はまひるだと思うけど、なんだか様子がおかしい気がする。
「うぅぅ…うにゅ…」
そこには赤い大木の幹によりかかって苦しそうに寝ているまひるが居て心臓の辺りを押さえ、顔色も悪く呻いており、このままだと命に関わると瞬時に判断する。
「まひる大丈夫み⁉︎ 」
とりあえずボロボロの村の家に運んで、直ぐに処置をする。
といっても薬草を森から採取して煎じて口移しで飲んでもらうだけなんだけど。
「まひる今度こそ助けるみ!」
その後まひるが倒れて1週間が過ぎた…