僕の隣の席にいるヤマダくんは死ぬたびに強くなるチート勇者だそうです。
全国のヤマダさんごめんなさい
ヤマダくんが死んだ。
それを知ったのは今日の朝、ホームルームの時間だった。
「皆さんにとても残念なお知らせがあります。ヤマダくんがスライムに襲われて亡くなりました。」
担任の秋原先生が涙をこらえながら言っているのを聞いて僕は冗談だと思った。
スライム?あのスライムに?周りを見ると泣いている子も入れば少し笑っている奴もいるのがわかる。
不謹慎だが正直気持ちがわかってしまう。
「事件の詳細はわかりませんが、明日告別式があります。皆さんどうかヤマダくんの為に来てください」
ホームルームが終わった後クラスではヤマダくんの話題で持ちきりになった。
ヤマダくんと中が良かった子たちは涙を流しながら思い出について語り合い山田くんの死を憂いている。
一方不良グループの奴らは隠れて笑っていた。
**************
「ヤマダくん……」
僕は次の日になっても山田くんの事で頭がいっぱいだった。
特に親しくないヤマダくん、でも元気で明るくクラスのムードメーカーだった。
そんなヤマダくんがスライムにやられるなんて……
今日はヤマダくんの告別式だ、お母さんに着せられた服を着て会場に行くとそこにはなんとヤマダくんの姿があった!
「ヤマダくん!」
「よう、俺生き返ったんだ」
ヤマダくんはサラッととんでもないことを言った。
生き返る?そんな馬鹿なことがあるのか?周りは騒然としていて、ヤマダくんのご両親が嬉しさのあまり泣き叫んでいる。
ヤマダくんとなかが良かった子達も手を取り合い喜びをわかち合っていた。
「俺生き返ったから明日もよろしくな!」
そう言ってヤマダくんは僕に握手を求めてきた。
別に親しくはないけれどなんだか嬉しくなって手を固く握りしめ、こちらこそ!と力強く返事をした。
****************
「皆さん、落ち着いて聞いてください、昨日ヤマダくんはミニゴブリンに殺されました。」
次の日の朝、ヤマダくんは学校に来ておらず先生が泣きながらそう話した。
そんな!ヤマダくんがミニゴブリンにやられたなんて!
クラスではヤマダくんが、死んだことにすごくショックを受けていた。
「皆さん、明日ヤマダくんの告別式があります、皆でヤマダくんを送ってください」
クラスではヤマダくんの死を悲しみ泣いている子が大勢いた。
特に女子たちはせっかく生き返ったのにとボロボロと涙を流している。
不良達は相変わらずニヤニヤしていた。
「ヤマダくん……ミニゴブリンにやられるなんて……」
明日もよろしく、そう言って熱い握手をかわしてくれたヤマダくんがミニゴブリンにやられるなんて……僕は襲い掛かってくるオーガをリコーダーで殴り倒しながらとぼとぼと家に帰った。
夜になっても眠れない、ヤマダくんの事で頭がいっぱいだ。
告別式に行く服はクリーニングに出してしまったしどうしよう、そんなことを考えながら朝まで僕は起きていた。
**************
「よう、昨日はごめんな! ミニゴブリンにウンコ投げたら殺されちゃったよ!」
「ヤマダくん!!」
一睡もできないまま告別式に行くとなんとヤマダくんがそこに立っていた!周りは騒然としており、嬉しさのあまり泣いてる子もいた。
「明日こそよろしくな!」
「うん! こちらこそ!」
嬉しさのあまりそんなに親しくないヤマダくんと抱き合ってしまった。
後で思いかえしてみると人間とはいかに場の雰囲気に流されやすいという事を思い知らされる。
僕は家に帰ると念入りに体を洗った。
特に理由はないが何となくそんな気分だった。
***********
次の日、休日だと言うのに朝早くに目が覚めてしまった僕はポチと散歩に出かけることにした。するとヤマダくんがオークに襲われているのが見えた!
「ヤマダくん! 今助けるよ!」
僕は急いでヤマダくんの元に走った!だが走り出したときにはオークの棍棒に殴られヤマダくんは息を引き取っていた。
「ヤマダくーん!」
僕はヤマダくんの死体を抱きながら力の限り叫んだ!まさかヤマダくんがオークに殺されるなんて思いもしなかった。
「ヤマダくん……」
すぐに僕は救急車を呼びヤマダくんを運んでもらった。
救急車に運ばれていくヤマダくんをみて僕はとても悲しい気持ちに包まれた。
「ポチ、そんなに食べたらお腹を壊すよ、帰ろう」
オークを食べるポチにそう言い、散歩をやめて家にかえることにした……。
「どうしたの?顔色が悪いわよ」
なんでもない、心配するお母さんにそう言い僕は朝ご飯を食べることにした。
「ヤマダくん……」
そう呟くと食べているパンが少ししょっぱく感じた気がする。
**************
翌日の夜、なんだか眠れない僕は真夜中に散歩をすることにした。
夜風が気持ちよく、何時もとは違う特有の雰囲気に次第に心が落ち着くのを感じる。
「よう、おまえも散歩か?」
「ヤマダくん!」
公園に入るとヤマダくんがいた!昨日オークに殺されたはずなのにどうして!?
「夜の公園っていいよな! ブランコ乗り放題だし最高だよ!」
ヤマダくんはとても元気そうにブランコを漕いでいた。
辺りにはスケルトンの屍骸(もともと死んでる?)がゴロゴロと転がっていて、全てヤマダくんが倒したらしい。
「ヤマダくん危ない!」
一緒にブランコを漕いでいると、どこからともなく現れたリッチーがヤマダくんを死の魔法で殺してしまった!
僕はリッチーがこちらに放った死の魔法を跳ね返し浄化の魔法で天に返すと、ヤマダくんに駆け寄った。
ヤマダくんの身体は凍てつき脈が動いてないのがわかってしまう。
「ヤマダくーーーん!」
僕はヤマダくんの身体を抱え、なるべく静かに叫んだ!
その後僕は公園の砂場にヤマダくんを埋めて帰った。
**************
「お? ヤマダ今日は生きてんのかよ」
次の日、学校に行くとヤマダくんがクラスの不良にからかわれていた。
だがヤマダくんは、昨日も死んだよ!と返しクラスは暖かい笑いに包まれ、僕もつられて笑ってしまった。
「こら! もう授業が始まるぞ、早く席に座りなさい!」
先生に怒られ、へへへと笑うヤマダくんが席に座ろうとすると空から来た大量のワイバーンが教室の窓から火の玉を放った!
「キャー! 服が燃えちゃう!」
「俺の漫画が!」
窓を突き破り入ってきた火の玉が辺りを燃やしあちこちで悲鳴が上がる。
僕は咄嗟に手を振り燃え広がる炎をかき消した。
「よくも俺のクラスメイトを! 絶対に許さない!」
そう言ってヤマダくんは教室を飛び出し聖剣エクスカリバーで次々とワイバーン達を殲滅し始めた。
「ヤマダくん! 危ない!」
次々とワイバーンを殲滅するヤマダくんだが、どうやら空から高速接近するドラゴンに気がついてない、慌てて声をかけるが遅くヤマダくんはドラゴンに引き裂かれてしまった!
「ヤマダくーーーーーん‼」
引き裂かれたヤマダくんの身体はクラスのみんなに袋叩きにされたドラゴンとワイバーンの死体と混ざりわからなくなってしまった。
「ヤマダくん……僕達のために……」
先生が放った聖なる炎で飛び散った肉を天に還し、クラスのみんなで山田くんを見送った。
**************
1時間後僕達のクラスは教室が滅茶苦茶になってしまったので校外学習をすることになった。
「いつも教室で授業ばっかやってるから新鮮でいいよな!」
「おいおい山田、外でも授業なんだからな? ちゃんとしないと通信簿に✕がつくぞ」
「いっけねぇー!」
やっぱりヤマダくんはクラスのムードメーカーだ、彼がいると不思議と笑いの絶えない空気が生まれる。
デーモンにヤマダくんが殺されながら校外学習をしていると、ヤマダくんは冗談を言いながらすぐに蘇り神槍グングニルでデーモン達をこの世から消し去った。
「ヤマダくん! 危ない!」
クラスのみんなが笑いあっていると突然世界は暗黒に包まれ黒い雷が辺りに降り注いだ!
「我は魔王ディアブロ、人間どもよ、この世界は我らのものとなる、貴様らは新たなる世界の礎になるがいい!」
ふとヤマダくんを見ると魔王が放つ地獄の雷に灼かれ魂ごと消え去ってしまっていた。
「ヤマダくーーーーん!」
「イヤー! 消えないで! ヤマダくん! 私は貴方が好きだったのに!」
ヤマダくんが消滅したのを目の当たりにしてクラスのマドンナ、花子ちゃんが涙を流したのを見たクラスの男達はショックを受けた。
「ヤマダくん……」
花子ちゃんに告白する機会を狙っていた僕は、とてもショックを受けた。
初めてヤマダくんが蘇らなければいいのにと思ったが、花子ちゃんが流した涙が不思議な光を放ち空が明るくなったかと思うと、案の定天からヤマダくんが降ってくるのを見た。
「おのれ魔王! 花子ちゃんをなかしたな! 絶対に許さない!」
「ヤマダくん! 魔王を倒して!」
「おう! 任せろ!」
花子ちゃんの声援に答えたヤマダくんは黄金色の光に包まれ聖なる力で魔王の事を討ち滅ぼした。
「ヤマダー! おめでとー!」
「みんな! ヤマダくんを胴上げしよう!」
魔王を倒したヤマダくんをクラスのみんなで胴上げし、ヤマダくんの偉業を皆で讃えた。
**************
20年後、僕は大人になっていた。
社会人となり、将来のため一生懸命働いている。
「よう、ひさしぶり! げんきにしてたか?」
今日は同窓会、久し振りに合ったヤマダくんはとても元気そうだ。
あれからもヤマダくんは戦い続け遂には世界を作り変えようとした創造神すら打ち倒しこの世界を救ったのだ。
「ヤマダくん、突然なんだけど握手してくれるかい?」
「ん? いいぜ!」
僕達は未だそんなに親しくはないけど僕の、皆の勇者だと今では思っている。
これからもよろしく!ヤマダくん!